第22話 味方が増えた

「なんじゃ、二人してモジモジして……初々しいな! ワシまで恥ずかしくなるじゃろ! いつどこで出会ったのか聞いてやろうと思ったが、甘々な雰囲気とか出されたらこっちが死にそうなので、今日はやめておこう。それよりも。アキトとやら。お主、何歳じゃ?」


「十一歳だけど」


「嘘をつけ。ワシのように魔法で年齢を誤魔化しているのじゃろ? 十一の若さであれほどの技量……信じられるか」


「でも事実だ。俺のフルネームはアキト・アシュクロフト。光魔法の一族として王都で有名な、あのアシュクロフト家の次男だ。調べればすぐに分かるはずだ」


「うーむ。アシュクロフト家はワシも知っている。近頃の醜聞のこともな。あそこの次男か……王都を薄く包んでいた呪いは、あれ以上解決が遅れたら、ワシが直接乗り出そうかと考えていた。アシュクロフト家が黒幕で、その次男が解決に大きな役目を果たしたと聞かされたのはその矢先じゃ。それがお主か……なるほど……よし、決めた! ワシもこの村に住む!」


「唐突な」


「ワシの中では唐突ではない。もともとミズハの様子をたまに診なければと思っていた。同じ村ならやりやすい」


 はて、と俺は首をかしげる。

 ロゼットという人物がミズハに会いに来るイベントなど、原作にはなかった。

 おそらく原作世界のロゼットは、ミズハが聖女を引退したあと、そのメンテナンスから手を引いたのだろう。

 では、この世界のロゼットはどうしてこうお節介なのか?


「ロゼットさん、エミリエ村に引っ越すの? やったー。これでいつでも会えるわね」


 水羽は笑顔でロゼットの手を握った。

 ああ、と俺は納得する。

 原作のミズハと水羽の性格はまるで違う。

 さっきロゼットは水羽を「人たらし」と言っていた。

 きっと彼女は水羽の笑顔にやられているのだろう。

 気持ちは分かる。俺がその筆頭だから。


「うむ。また一緒に買い食いなどをしような。それはそれとして、問題なのはアキトじゃよ。十一歳でその戦闘力。呪いを祓う技術。それは善悪に関係なく監視対象じゃ。それと個人的な興味もある」


 ロゼットはそう言ってから、意味ありげに笑った。

 すると水羽が、


「えっ!」


 と、素っ頓狂な声を上げる。


「なにせ疑似世界でのこととはいえ、このワシを殺したのじゃからな。一対一でそんな真似ができる人間がいるとは思っていなかった。ワシはこれでも人類最強なんて呼ばれることがあるし、自分でもそうかもしれないと思っていたのじゃが、自信をへし折られたぞ」


「ああ、興味ってそういうやつか……」


 水羽はホッと胸をなで下ろす。


「くふふ。ミズハは本当にアキトが好きなのじゃなぁ」


 ロゼットは楽しげだ。

 水羽をからかうのは癖になるからな。気持ちは分かる。


「俺がお前を殺せたのは、油断につけ込んだからだ。今もう一度やれば、別の結果になると思うが?」


「うむ、そうかもしれん。しかしワシは長いこと、自分の命を脅かす相手に出会わなかった。そんなワシの心臓にナイフを突き立てたお主に興味を持ってしまうのは、無理からぬことじゃろう?」


「よく分からないけど……ロゼット、あんたに聞きたいことがある。あんた、魔法で老化を止めているみたいだけど、その技を俺に教えてくれないか?」


 俺は水羽と永遠に生きていたい。

 聖女ならぬ身で聖女よりも長く生きているロゼットは、俺が欲している答えそのものかもしれない。


「ふーむ。残念じゃが教えてやれぬ。なぜなら、これは技ではないからじゃ。恥を忍んで言うが、幼いワシは寿命というものを恐れた。ずっと魔法の勉強をしていたいのに、人間は百年もせずに死んでしまう。それでは真理の探究など無理。そんなことを考えていたら、死が頭から離れなくなった。人間は死んだらどうなるのだろう。暗闇に閉ざされるのか、生まれ変わるのか。考えるほど怖くて怖くて……死にたくない一心で発動させた、偶然の魔法じゃ。もう一度やれと言われても無理。まして人に教えるなど……」


「そうか。それでも現在進行形で老化が止まっているんだろう? だったら、あんたを観察してヒントを掴むさ」


「するとワシを歓迎してくれるのじゃな?」


「あんたは水羽をずっと守ってくれた人だ。そんな人が同じ村にいてくれるなら心強い。それだけの肩書きがあれば、政治力もあるんだろ?」


 味方は多いほうがいい。

 特に、肩書きを持った大人というのは頼もしい。

 純粋な戦闘力なら俺も自信はある。けれど社会的な力はないに等しい。ロゼットは俺にないものを補ってくれそうだ。

 あと。俺は彼女が書いた魔法書のファンだった。著者が近くにいるなんて光栄だ。サインをねだったら恥ずかしいだろうか……?


「任せろ。国王でさえワシの言葉には耳を傾けるし、真聖教団にも顔が利く。ワシは頼りになるから、仲良くして損はないぞ?」


 ロゼットが手を差し出してきた。俺はそれを握り返す。


「ふむ。子供と握手するというのは新鮮じゃな。ワシの周りはワシより大きな奴ばかりじゃった。アキトよ、お主、もしかしてワシより少し背が低いのではないか? くふふ。いいのぅ。相対的に大きくなれた気分じゃ。あまり早く成長するなよ? ワシにもう少しこの気分を味わわせてくれ」


「ちょ、ちょっとロゼットさん! アキトくんにくっつきすぎじゃない!? 離れて離れて!」


 水羽は大慌てで俺を抱きしめ、そして頬を膨らませながらロゼットを睨む。

 俺とロゼットは、そんな水羽を微笑ましく見る。

 なんだろう。もの凄くシンパシーを感じる。もしかして俺とロゼットは『水羽の可愛いところ』という話題で一晩中、語り明かせるのではないだろうか。

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