第14話 二百五十年、誰も達成できなかった仕事
いわく。
――その城は、二百五十年ほど前まで、この周辺を治めていた領主の城である。
お家騒動によって多数の死者が出て、多数の呪いが発生した。
その呪いはいまだに城で渦巻いており、とても人が住める状況ではない。それどころか時折、城から呪いが漏れ出して、周りの田畑まで汚染してしまう。
国王直轄領となってからは国の予算で結界を張って、呪いが漏れるのを防いでいる。が、結界は定期的に張り直す必要があり、その費用は馬鹿にならない。
ゆえに城の呪いを祓った者には、その報酬として城を明け渡す。
ただし宮廷魔法師たちでさえ祓えなかった呪いである。それに立ち向かうのは当然、命がけである。
また、城を手に入れたのちに呪いが再発生した場合、城の持ち主は周囲に呪いが広がらぬよう処置する義務がある。呪いによって被害が出た場合、その被害を補償しなければならない。
再発した呪いによって甚大な被害が出た場合、持ち主に死罪が下される可能性もある。
心して望むように――。
「ヴァルミリス王国の国王の名で出された依頼か。確かに呪いが沸き続ける城なんて、持っていても百害あって一利なし。誰かに押しつけたくもなるよね」
「二百五十年、誰も達成できなかった仕事ってわけね。でも秋斗くんなら」
「うん。俺ならできるかもね」
なにせ俺は、真聖教団が祓えなかった聖女ミズハの呪いを祓ったのだ。
呪いに関していくら大きな口をきいても、自信過剰にはならないだろう。
今、俺と水羽は宿を借りて寝泊まりしている。
けれど城を手に入れたら、そこに住める。
二人で住む家。まるで夢みたいな話。新婚みたいな話。
照れくさいけど、一緒に住む家が欲しい。
というわけで俺と水羽は、ギルドの受付嬢に、呪いの城について詳しい話を聞きに行く。
「え、あの城に挑戦するんですか!? けれど、まあ、初代聖女とその従者なら、無謀ではありませんね」
受付嬢は城の見取り図をくれた。
これまで呪いの城に挑んだ者たちは、多くが未帰還。帰ってきた者も精神に異常をきたしたとか怖い話もしてくれた。
「えへへ。私は初代聖女だってバレるくらい威厳あるのに、秋斗くんは私の従者と思われちゃったわね」
城に向かう途中、水羽は勝ち誇るような笑みを浮かべる。
確かに水羽はミズハの姿をしているので、黙っていれば聖女の威厳たっぷりだ。
一方、俺は十一歳の子供である。威厳も迫力も皆無。付き人の類いに見えるのは仕方がない。仕方がないが、気にはしているのだ。人が気にしていることを笑うとは、邪悪な聖女である。反撃しなければ。
「従者かぁ。恋人に見えなかったのは残念だよ」
と、俺はすまし顔で呟く。
すると水羽は血が沸騰したんじゃないかというほど顔を真っ赤にした。
「こ、恋人!? 恋人に見えたら……困る!」
「なんで? 水羽は、俺とそういう風に見られるの嫌なの? 俺は水羽とそういう関係でいたいと思ってるんだけど、水羽は違うの? 水羽は俺のこと、あんまり好きじゃない……?」
「しゅ、しゅきだけど! そういう関係でいたいけど! でも周りからそう見られるのは……は、はずかちぃ……!」
水羽は両手で顔を覆った。だから彼女はなにも見ていない。
よかった。
なにせ水羽の反応が可愛すぎて、俺も頬が熱くなっていたのだ。付けいる隙を与えずに済んだ。大勝利である。
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