第5話 原作とは別ルートに突入
「んん? 俺の体に……かすかに呪いの気配?」
ある日。
宿で目覚めると、微妙な違和感があった。
別に体がダルいとか、痺れるとか、そういった具体的な症状はない。
けれど、ずっと奥のほうに、あってはならない異物が混ざっている。数々の呪いを祓ってきた俺だから分かる。
呪いだ。
原作のアキトは十四歳で余命を宣告され、十五歳で死んだ。
けれど俺はまだ十歳だ。
俺が色々やったせいで歴史に変化が起きたとしても、いくらなんでも早すぎる。
「……そうか。呪いが体に入ったからって、すぐに症状が出るとも限らないか。潜伏期間みたいなのがあるんだろうな」
そういうことなら呪いがまだ弱いうちに芽を摘んでおこう。強大に育ててから吸収したほうが魔力強化に繋がるけど、自分を呪いの苗床にするほど俺は無謀じゃない。
いつものように呪いを取り出し、分解して吸収。
よし。
これで俺は十五歳で死なずに済む。
ひとまずの目標を達成してしまった。呆気ない……。
「にしてもこの町。呪いが多すぎないか?」
アシュクロフト家の前で待っていると、一日一人は呪いを祓ってくれとやってくる。
呪いというのは、負の感情から生まれるものだ。
たとえば戦場跡。大勢の餓死者を出した廃村。そういった場所は呪いがたまりやすく、近づいた人間やアイテムが蝕まれれる可能性が高い。
だが、ここは王都だ。
犯罪は皆無ではないが、子供だけで外出できる程度には治安がいい。真面目に働いていれば飢えることはまずない。
そんな土地で、こうも呪いがあちこちにあるのは、おかしな話ではないか。
俺は魔法師ギルドに行き、エイマーズ伯爵に質問をぶつけることにした。
いきなり子供が現われ「会長に会わせて欲しい」と言い出したら、普通は相手にしないだろう。実際、魔法師ギルドの受付も、なんだこいつ、という顔をしていた。
しかしエイマーズ伯爵にもらった
「アキト。君の疑問はもっともだ。ここ数年、王都近辺で、呪いに蝕まれる人もアイテムも急増している。魔法師ギルドは国の依頼でその原因の調査をしているが……なかなか理由がハッキリしない」
「やはり、そうですか。俺のほうで気づいたことがあれば、すぐ報告します」
「ありがたい。それにしても、呪いの浄化で儲けている君からすれば、呪いが多いのは歓迎すべき状況ではないのかな?」
「いやぁ……さすがに大勢の命を脅かして食べるご飯は不味いですよ」
「なるほど。君は根が善良のようだな。両親や兄に似なくて実によかった」
よ、よせやい。照れるじゃねぇか。
俺は宿に帰り、ベッドの上に座って瞑想をする。
王都周辺にあると予想される呪いの発生源を探るのだ。
呪いのナイフとか、呪いで体調が悪い人とか、そういう細々としたのを一つずつ探知するのは、いくら俺が闇魔法の天才でも不可能だ。
けれど王都全体に影響を与えるような、巨大な呪いの発生源がどこかにあるなら、おおよその場所くらい感じ取れる気がする。
「……あっち、かな?」
自信はない。
しかし、その方角から、よくない気配を感じた。
早速、そこに向かってみる。
王都から出て草原を歩き、やがて森に入る。
何時間も歩いて足が疲れた頃、沼にたどり着いた。
「これが発生源かぁ……」
その沼は紫色をしていて、怪しげな黒い霧を発生させており、明らかに人体に悪影響を与えそうな光景になっていた。
見た目だけでなく、放っている気配が危険極まる。
沼の水が丸ごと呪いの塊と称して差し支えない。ここから呪いが広がっているのだ。
「ここの呪いを全部浄化するのは骨が折れそうだ……まして吸収したら俺がパンクするんじゃないか……?」
一気にやらず、何日もかけて少しずつ浄化すれば、なんとかなるかもしれない。
とりあえず空が真っ赤に染まるまで作業を行う。
「疲れた……闇の魔力を取り込みすぎたかな……胃もたれしたみたいだ……けど、沼の透明度がかなり上がったな。何日かやれば完全に浄化できそうだ。明日も頑張ろう」
俺は宿に戻って熟睡。
一晩寝ると疲れが取れたし、吸収した魔力をちゃんと自分のものにできたという実感が生まれた。
俺はハッスルしてまた沼に行く。
すると。
「はあっ!? 昨日あんなに頑張って呪いを薄くしたのに、また濃くなってるんだが!?」
完全に元通りだ。
俺は徒労感で座り込んでしまう。
かつてここで大勢が死に、土地の深い部分まで呪いで汚染されている――としても、今の俺なら時間をかければ浄化しきる自信がある。
けれど、新たに誰か死んだわけでもないのに一晩で元に戻るような異常な呪いは、どうにもできない。
そう。異常なのだ、これは。
「呪いをここに供給している
そのなにかを探るため、俺はまた瞑想する。
すると、目を閉じた暗闇の中に、一本の線が見えた。
「線は王都の方角から伸びている……」
俺は来た道を戻る。
何度か目を閉じて線を探りながら、王都を歩く。
そしてたどり着いた場所は。
「俺の実家じゃないか」
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