第3話 作者公認の裏設定を使おう

 俺が闇魔法の天才というのは、どうやら確実のようだ。

 なにせ魔法書の知識がスルスルと頭に入ってくる。

 前よりも闇の触手を上手に動かせるようになったし、黒い矢を何本も飛ばせるようになった。


 冒険者ギルドに登録して、魔物討伐の依頼を請けてみたが、上手く達成できた。もちろん初心者冒険者が請け負えるのはスライム討伐といった極簡単なものだ。

 それでも、俺の人格のベースが病院暮らしの子供なのを考えれば、なにかを狩り殺して対価を得るという仕事を成し遂げただけで凄い。まさしく異世界物ラノベである。この世界で生きていけるという自信が湧いてくる。


「そろそろ、呪いの浄化にも挑戦したいな」


 とはいえ、いきなり人間で練習するほど、俺は無謀じゃない。

 まずは呪われたアイテムで腕試しだ。

 そんなわけで、古道具屋を訪れる。


「呪われたアイテム? あるよ。こないだ家の整理をしたいって客がいたから、倉庫のものを丸ごと買ったんだけどね。呪われたナイフが混ざってたんだよ。よく確認しないで買ったこっちが悪いんだけど……君、呪われたアイテムをどうしようっていうんだ? 違法な儀式に使うってなら売れないよ。この店まで捜査対象になるからね」


「呪いを浄化する魔法の練習をしてるんだ。その練習台を探してるんだけど」


 怪しまれて出禁になるのが嫌なので、俺は正直に答えた。


「なるほど、浄化魔法か。すると光属性かな? いいねぇ。上手になってよ。この近所に、アシュクロフト家って光魔法の達人一族がいるんだけど、とんでもなく料金が高くて、気軽に浄化の依頼をできないんだよ。呪われたナイフなんて誰も買ってくれないから、タダであげるよ」


「いいの?」


「ああ。浄化魔法の使い手が増えるのは、世の中のためになるからね。巡り巡ってオジサンのためになるのさ。ところで、そのナイフで練習するのはいいけど、あまり長時間触らないほうがいいよ。呪いが体を蝕んで、病気になっちゃうからね」


「少しなら大丈夫?」


「ああ。オジサンも触ったけど、こうして生きてるよ。このくらいの時間なら大丈夫、と具体的な保証はできないけどね」


 それなら呪いのアイテムとしては弱いほうだ。

 本に書いていたやつで最悪だったのは、手にした瞬間に即死し、ただ人を斬殺し続けるだけのゾンビになる呪いの剣というやつ。

 それに比べたらかわいいものだ。


「さて。こうして手をかざすと、凄く嫌な気配を感じるな。これが呪いか。これを取り除けばいいわけだ」


 宿に戻った俺は、床に座って呪いのナイフと向き合う。

 手のひらをかざして、集中。

 ナイフ本体と呪いを分けて認識できるよう瞑想する。

 実在しないピンセットで米粒の中からゴミを取り除いていくかのような難しい作業。


「できた!」


 間違いない。

 ナイフから呪いだけを抽出するのに成功した。その証拠に、ナイフからなんの気配も感じなくなった。

 抽出した呪いは、十円玉くらいの黒い塊になって空中に浮かんでいる。


 見た目も気配も禍々しい。

 けれど俺は、それに嫌悪感をあまり抱かなかった。

 闇魔法の練度がある水準に達した者は、呪いを吸収し、蝕まれるどころか逆に力に変えてしまうという。図書館の魔法書にそう書いてあった。

 もしかして、俺はすでにその水準なのか?


 俺は魔法書の知識と、自分の直感を信じて、黒い塊を手のひらで包む。

 さすがに呪いをそのまま吸収するのは、毒を飲み干すようなものだ。しかし毒だって方法次第では薬になる。

 俺は呪いを分解して、闇属性の魔力へと変換した。それを握りつぶして皮膚に染み渡らせる。

 手のひらから闇の力が流れ込んでくる感覚。

 蝕まれることはなかった。ただ力が湧いてくるだけだ。


「これは……凄いな。特訓しなくても魔力を増やせるかもしれない」


 このナイフの呪いはとても弱いものだった。だからそれを吸収しても、さほど成長した気がしない。

 けれど強力な呪いを吸収すれば。あるいは弱い呪いでも、数をこなせば強くなれるかもしれない。

 まあ……数をこなしたら特訓してるのと労力が変わらない気もするけど。

 とにかく強くなるための手段が複数あるのはいいことだ。


 俺は浄化したばかりのナイフを持って、さっきの古道具屋に戻る。


「オジサン。これ浄化できたと思うんだけど、調べられる?」


「なんだって? さっき持っていったばかりじゃないか。呪いの浄化ってのは難しいんだぞ。それこそアシュクロフト家の当主だって、一つのアイテムを浄化するのに何時間もかかると聞く。まあ一応、調べるけど……」


 古道具屋のオジサンは、水晶玉にナイフを近づける。


「あれ……反応しない? そんな、少しでも呪いがあったら光るはずなのに……君、本当に浄化したのか! 凄いな!」


「まぁね」


 我ながら大したものだと思っていたので、素直に威張っておくことにした。


「ところでオジサン。このナイフ、もう呪いがないから練習台にならないよ。買い取ってくれない?」


「かまわないが……なんの変哲もない普通のナイフだから安いぞ?」


「タダでもらったものが売れるんだから、どんなに安くても儲けものだよ」


「はは! そりゃそうだな。君、またこの店に来てくれよ。呪いの浄化を正式に依頼するかもしれないから」


「練習になるうえに金を稼げるなら、願ったり叶ったりだよ」


 おまけに魔力が増える。

 都合が良すぎる。さすが作者公認のチート裏設定だ。

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