変化の予兆

「まずいな...これだけは避けたかったのだが」


ラインハルトが隣で無線通信をしながら独り言を呟いている


「待て。一体昨日から何が起きているんだ?」


ラインハルトに問う。すると彼は血の気が引いた顔で


「”あれ”が始まった。こんな早々に起きるとは思わなかったんだけどな。」


震えた声で言う。


「お前は今日ルーシに帰国するだろ?

恐らくお前が帰った後緊急の号外が届くだろうよ。」

イーゴリはラインハルトの言葉に、思わず眉をひそめた。「“あれ”が始まった…?」言葉が不安をかき立てる。彼の胸中で、何か悪い予感が確信に変わる。


ラインハルトは無線機のボタンを押し、また何かを聞き取ると、目を伏せて続けた。「帝国内で、恐らく軍の一部が動き出した。急進的な改革を支持する勢力が、ついに武力行使に出るつもりだろう。」


イーゴリは瞬時に思考を巡らせた。改革派の過激な行動か—それはこの帝国が抱えている最も厄介な問題の一つだった。民衆や農奴からの支持を受けるエルドレン、アルベルト、レオンハルトのような急進派は、つねに既存の秩序に対して暴力的な手段を選ぶことで知られていた。その進行が加速するのは恐ろしい事態だ。


「お前は昨日から何を知っている?」イーゴリが問いただすと、ラインハルトは小さくため息をついた。「昨日、帝国の各地で軍隊の動きが活発になった。特に東部では、改革派の兵力が急増しているという情報が入った。しかも、モスコーヴィエン家が反動的な動きを見せ、軍を使って制圧しようとしている。」


イーゴリは瞬時にその状況を理解した。モスコーヴィエン家—貴族層を支配し、改革に抵抗してきた一族。彼らが動き出すとなると、今後の政局が一気に激変することは確実だった。


「その情報、確かなのか?」イーゴリが一歩踏み出して尋ねると、ラインハルトは無言でうなずいた。彼の顔に浮かぶ表情は、どうにも不安そうだった。「それに、どうやら緊急の号外が帝国全土に配布される準備が整った。お前が帰国した頃には、それが届くことになるだろう。」


イーゴリは無言で頷くと、立ち上がった。「俺は帰国しなければならない。だが、その号外が届いた後の事は—」彼は一瞬言葉を飲み込み、肩をすくめた。「状況がどう転んでも、俺には関わらない。ただの視察だ。」


ラインハルトが苦笑いを浮かべながらも、少し悲しげな目をした。「分かってる。でも、イーゴリ、お前もその後には何かしらの責任を背負うことになるかもしれない。」


「それはどうだろうな。」イーゴリは冷静に答えた。「改革が暴力的になれば、それに巻き込まれる者も多いだろう。だが、我々がすべきなのは、あくまで冷静に事態を見極めることだ。」


ラインハルトは一度大きく息を吐き出し、そして再度無線機に耳を傾けた。その表情はますます険しく、心の中で何かが崩れていく音が聞こえそうだった。「急進派は、ついにここまで来たか…だが、あのままでは国そのものが持たない。」


「それは分かっている。」イーゴリは静かに言いながら、持ち場に戻るべく動き出した。「だが、誰かが暴力で解決しようとしている時、もう一度冷静にならなければならない。」彼は最後にこう付け加えた。「帝国の未来を決めるのは、暴力ではなく理性だ。」


ラインハルトはその言葉に一瞬考え込んだが、すぐに首を振った。「理性か…でも、すでに理性を失っている連中もいる。お前が言う通り、暴力で解決しようとする者たちは、我々の手から国を奪おうとしている。」


イーゴリは一歩進んで立ち止まり、ラインハルトに振り向いた。「その時が来たら、俺は必ず帰国する。だが、今の段階で動くべきではない。」


ラインハルトは口を開こうとしたが、イーゴリの毅然とした態度を見て、言葉を呑み込んだ。彼は深いため息をつきながら、しばらく黙っていた。


「分かった。だが、もし事態が更に悪化すれば—」ラインハルトは言いかけて、言葉を切った。「お前も無関係ではいられないかもしれないぞ。」


イーゴリは軽くうなずくと、無言で部屋を後にした。彼の心の中で、再び暗い予感が渦巻いていた。帝国の未来は、もはや暴力によって変わるものではなく、理性を持つ者たちの決断に託される時が来ていたのだろうか。


イーゴリが部屋を出た後、ラインハルトは静かに無線機のスイッチを切り、部屋の片隅に座り込んだ。彼の心中には、国の未来をどうするべきかという重圧がのしかかっていた。急進派と反動派、両者が衝突する中でどちらの立場にも立てない自分が、次に何をすべきかを見極めるのは簡単ではない。


「もし、あの男が暴力の道を選んだら…」ラインハルトはぼそりと呟いた。イーゴリが言った通り、理性を失った者たちが暴力で解決を試みるのであれば、それに巻き込まれるのは確実だ。だが、いまはまだその時ではないと、彼は心の中で繰り返す。


ラインハルトは深く息を吸い、立ち上がった。机の上には、先程の無線で送られてきた情報が散乱している。その一枚一枚が、どれもが帝国の命運を左右する重大な内容だ。モスコーヴィエン家が反動的な行動に出たという情報に、急進派の軍が軍事行動を始めたという知らせ。それぞれが予想以上に早く、深刻な事態へと進展していた。


「さて、どう動くか…」ラインハルトは自分に言い聞かせるように呟く。どの道を選んでも、改革の火種は消せるわけではない。エルドレン、アルベルト、レオンハルトたち急進派はもはや止まることなく前進し、モスコーヴィエン家の反動派はその勢力を守ろうとしている。今この瞬間も、帝国は揺れ動いているのだ。


その時、扉がノックされ、ラインハルトは振り返った。「入れ。」


部屋に入ってきたのは、イーゴリが去った後で呼び出された部下だった。「大臣、最新の報告です。」部下は急ぎ足でラインハルトの机にファイルを置き、そのまま口を開いた。「急進派の兵力が本格的に動き出し、いくつかの軍事拠点が制圧されました。民衆は再び立ち上がり、特に都市部では混乱が広がっています。」


ラインハルトは黙ってファイルを受け取り、目を通す。急進派が進軍を開始したという報告は、予想よりも早かった。それだけ事態が切迫している証拠だ。


「そして、モスコーヴィエン家が動き出しました。」部下は少し躊躇いながら続けた。「数人の将軍が集まり、反動的な軍事行動を開始した模様です。彼らは貴族の権限を強化し、改革派の力を完全に排除しようとしているようです。」


ラインハルトは一瞬黙り込んだ。反動派と急進派が戦争状態に突入すれば、国全体が引き裂かれる。それこそが、最も避けたかった事態だった。


「しかし、大臣。」部下が続けた。「急進派の指導者たちの一部は、外国からの援助を期待しているとの噂もあります。」


その言葉にラインハルトはハッとした。もし外部の勢力が関与すれば、帝国は内戦というだけでなく、国際的な争いに巻き込まれることになる。その影響力を持つ勢力が動けば、事態は一気に悪化する。


「誰が支援を表明した?」ラインハルトはすぐに尋ねた。


「まだはっきりしたことは分かりませんが…」部下は慎重に言葉を選びながら答えた。「一部の外交ルートから、隣国との接触があったという情報が出ています。特に、東方の大国が急進派に対して何らかの支援を行っているとの噂です。」


ラインハルトは再び黙り込んだ。もしその情報が本当なら、帝国の未来はさらに不安定になるだろう。外部勢力が内乱に介入することになれば、どんな結果を招くか予測もつかない。


「状況は急を要するな。」ラインハルトはようやく口を開き、部下に指示を与えた。「今すぐ、急進派と反動派双方の動向を監視し、必要な情報を集めろ。外交ルートを使って、外部勢力の動きを確認し、可能であれば調整を試みろ。もしその支援が本当なら、それにどう対処するかを考えなければならない。」


部下はすぐに応じて部屋を出て行った。ラインハルトは再び一人になり、深いため息をつく。頭の中で無数の思考が交錯する。改革の波が激しく押し寄せ、帝国はその波を受けて崩れかけている。急進派と反動派、そして外部勢力—このまま放置すれば、帝国そのものが破滅する可能性が高い。


だが、ラインハルトは決して諦めるわけにはいかなかった。今こそ、自分の信じる道を選ばなければならない。そして、どんな犠牲を払っても、帝国の未来を守るためには、何をすべきかを考え続けるしかなかった。

ラインハルトは部屋で数時間を過ごし、時折無線で受け取る情報を確認しながら、次に取るべき行動を考えていた。急進派と反動派の動きが激しさを増し、内戦の様相を呈しつつある。しかし、このまま進むのは確実に帝国を滅ぼすことになる。その突破口を見出すため、ラインハルトは一つの決断を下した。


「アルベルト・カルヴァンスクとの会談を設けろ。」ラインハルトは部下に指示を出した。


アルベルトは急進的な改革派のリーダーとして知られ、帝国軍の改革を目指す大きな力を持っていた。だが、その激しい情熱と行動力が時に事態を暴走させることもあった。ラインハルトとしては、急進派が暴力による解決を目指す前に、何とかして戦争を止めなければならないと感じていた。


数時間後、ラインハルトは指定した場所でアルベルトと対面することになった。薄暗い会議室にて、アルベルトが入ってきた。彼の鋭い目つきと、戦いに生きる男らしい気配は、どこかラインハルトとは異なる雰囲気を持っていた。


「ラインハルト、大臣。」アルベルトは冷静な声で言った。「この状況を放置しておけば、我々はどちらも消えてしまうだろう。何か手を打つべきだ。君もわかっているだろう?」


ラインハルトは静かに頷き、アルベルトの目を見据えた。「ああ、わかっている。だからこそ、こうして君と話をしに来たんだ。君が動けば、事態はさらに悪化する。軍が動き始めている今、必要なのは冷静な判断だ。」


アルベルトはその言葉に少し眉をひそめた。「冷静な判断? 何を言っている。民衆が立ち上がり、私たちはついに変革を実現できるところまで来たんだ。それを止める理由などない。」


「君が信じる変革は、暴力と混乱に満ちている。」ラインハルトの声には冷徹さが滲んでいた。「君がその手で民衆を引き連れて行けば、ただの内戦に終わるだろう。それは、我々が目指している改革とは何も関係がない。」


アルベルトは少し黙り込み、その後深く息を吐いた。「だが、我々には他に道がない。改革は暴力なしには成し遂げられないものだと、何度も感じてきた。」


ラインハルトはその言葉を反芻しながら、ゆっくりと立ち上がった。「だが、君には一つ見落としていることがある。君が勝ち取ろうとしているものが、今すぐに失われるということだ。」


アルベルトは言葉を失ったように顔をしかめ、次第にラインハルトを見つめ直した。ラインハルトはその隙に歩み寄り、続けた。


「もし、君が今、軍の行動を停止させるなら、我々はこの国を立て直す道を模索できる。そのためには、君が軍を引き止め、戦闘を止めなければならない。」


アルベルトは一瞬、静かに唇を噛んだ。彼にとって、軍を引き止めることは、革命を諦めるようなものだった。しかし、ラインハルトが示す冷徹な現実を前に、彼の心に何かが揺らぎ始めた。


「本当に、それだけで止められると思っているのか?」アルベルトは問い返すように言った。


「君にはできるだろう。」ラインハルトは断言した。「君がリーダーとしての決断を下すことができれば、この危機を乗り越え、再び力を合わせることができる。君が民衆を導くのであれば、暴力の連鎖を断ち切る方法を見つけ出せる。」


しばらくの沈黙が流れ、アルベルトは再び口を開いた。「…分かった。だが、これは君にとっても危険な道だ。」アルベルトの声に決意が込められていた。「私が行動を停止させるとしても、それが解決策になるとは限らない。」


「確かに。」ラインハルトは静かに答えた。「だが、戦争が続けば、我々の国そのものが崩壊することになる。その時、誰が何を守ることができるか考えてみろ。」


アルベルトは頷き、深く息をついた。「わかった。だが、この決断が全ての答えだとは思わない。それでも、今は君の言う通り、軍の行動を停止させる。」


ラインハルトはその決断に安堵した。そして、アルベルトに向かって静かに言った。「君の選択を尊重する。それが今後の道を切り開くことを願っている。」


アルベルトは立ち上がり、会議室を後にした。その後、ラインハルトは無線で指示を出し、急進派の軍に対して戦闘の停止を命じた。数時間後、戦線はようやく静まり、軍の行動が一時停止した。


しかし、この一時の停戦が、問題の解決には程遠いことはラインハルトも理解していた。次に何をすべきか、どうするべきか—その答えはまだ、出ていないのだった。


アンドレイ・クルバノフはルーシ帝国の大将軍として名を馳せた人物で、その冷徹で計算高い戦略家として知られている。数ヶ月前、彼はルーシ帝国の軍事改革を推し進める立場にあり、国内の動向には常に鋭い目を光らせていた。だが、現在、彼の視線はルーシ帝国の外――隣国であるイベリアや、そしてミラノ、さらに遠くの低地諸国に向けられている。何も起こらなければ、彼の仕事は順調に進む。しかし、あらゆる国々が揺れ動き、革命や反動の嵐に飲み込まれつつある今、アンドレイには頭の中で次々と描かれる戦のシナリオがあった。


その日の朝、アンドレイが本部で書類を整理していると、イーゴリ・ラザレンコからの伝令が届いた。イーゴリはアンドレイの信頼を受ける側近であり、情報収集を得意とする男だ。伝令が届けられた時、アンドレイは即座に内容を確認した。


『ルーシ連邦内での情勢は緊張しており、国の未来を左右する重大な決断が迫られている。隣国では急進派と穏健派の対立が深まり、戦闘が停止されたが、事態は未解決である。』


この報告を受けて、アンドレイは自らの指示で動くことを決意した。彼が心配していたのは、戦争が長引くことがルーシ帝国の安定にとってどれほどの影響を与えるか、という点だった。だが、彼は同時に、他国の政治がどのように動いているか、特に隣国であるイタリア半島やネーデルラント、そしてフランドル王国の動向が重要であることを理解していた。


アンドレイはイーゴリに再度、確認のための指示を出し、さらに情報を集めるように命じた。


数時間後、イーゴリが再び報告を持ってきた。アンドレイは彼の顔を見上げると、無言で報告を受け取った。


「ラインハルト・ザイツィンガーとアルベルト・カルヴァンスクの会談後、軍の行動が停止したのは間違いない。ただし、アルベルトはあくまで急進派であり、これを一時的な戦闘停止としてとどめるのか、それとも事態が進展し、実際に改革が進むことになるのかは不確かだ。」イーゴリは冷静に言った。


アンドレイは深く考え込むように顎に手を当てた。彼の顔には一瞬、複雑な思考が走る。「ラインハルトの穏健派としての立場を取る理由はわかる。しかし、アルベルトのような急進派が暴力を使うことなく、改革を進められるわけがない。戦闘の停止は単なる一時的なものだと見ている。重要なのは、どこまで事態が深化し、誰が次に動くかだ。」


「それにしても、ルーシの将来にとっては、ここでの動向が重要です。」イーゴリが付け加えた。「もしこの事態が拡大し、帝国の内外で混乱が広がるならば、ルーシはその波に乗るべきか、それとも静観すべきか――。」


アンドレイは一度深呼吸をし、決断を下した。「イーゴリ、お前は引き続きその動向を追え。最も重要なのは、民衆や改革派がどこまで攻勢を強めるかだ。ルーシが動かずにすむのであれば、それに越したことはない。しかし、もし戦争の火種がこちらに飛んでくるようなことがあれば、早急に手を打たねばならない。」


「了解しました、将軍。」イーゴリは即答し、その場を離れた。


アンドレイはその後も数時間、書類と情報の分析に没頭していた。彼の中で確信が深まる。「この戦争がどこまで続くのか、それによってルーシ帝国の立場を決めるつもりだ。そして、何よりも私たちがどこで妥協し、どこで手を打つかが試される時が近い。」


数日後、再びイーゴリからの報告が届いた。アンドレイは彼を呼び寄せ、じっとその言葉に耳を傾ける。


「将軍、戦闘が一時停止されたままで、両勢力は思惑通りに動きません。アルベルト・カルヴァンスクは停戦後も、改革の実現を主張しており、民衆に対する支持をさらに強めています。しかし、ラインハルト・ザイツィンガーは依然として事態の収束を求め、穏健派を貫いている模様です。」


アンドレイは頷きながら、しばらく黙っていた。その後、冷徹に言った。「ラインハルトはその立場を取るしかないが、事態はどんどん膠着し、最終的には動乱が加速するだろう。だが、それがどこまで続くのか、私たちは見守る必要がある。そして、もし事態が拡大すれば、ルーシは準備を整えておかなければならない。」


イーゴリは一礼し、再度去って行った。アンドレイはその後、静かに部屋を見渡すと、さらに考えを巡らせる。ルーシ帝国の未来は、予測できない情勢に揺れ動きながら、次第にその運命を決めつつあった。


フランドル国民王国の首都、パリ。パリの街はまだ戦禍の影響を受けておらず、普段の賑わいを見せていたが、その裏では政治の動きが急激に加速していた。アルバート・ファランクスが耳にしたのは、大ゲルマン帝国での事態の急変、そしてその後の政治的な波乱に関する報告だった。


「イタリアの停戦後、次は大ゲルマン帝国か…」アルバートは静かに考え込む。彼が手にした情報によれば、大ゲルマン帝国の内部で再び急進的改革派と穏健派が衝突し、再度革命の兆しが見えていたのだ。ラインハルト・ザイツィンガーの尽力により、一度は事態が収束したものの、その後も解決には至っていなかった。


アルバートは自らの信念を持っている。フランドル国民王国が最も注視すべきは、外部の動きに巻き込まれないことだ。しかし、この混乱が国内でどのような影響を及ぼすのか、予測することは難しかった。


数日後、再び報告が届いた。ベルリンで行われる会議に関する情報だ。エルドレン・ブラウン、レオンハルト・クラインシュミット、そしてアルベルト・カルヴァンスクらが集まり、革命的な第二の動きに関する話し合いを行うという内容だった。


「ベルリンに集まるとは…事態はさらに深刻になっている。」アルバートは机に置かれた報告書をじっと見つめながらつぶやいた。


彼の胸の中で、フランドル国民王国の未来に対する不安が膨らんでいた。急進派の動きが強まる中で、国内が引きずり込まれることを避けるためには、速やかな対応が求められていた。


---


ベルリン。大ゲルマン帝国の首都で、かつてないほどの緊張感が漂っていた。エルドレン・ブラウン、レオンハルト・クラインシュミット、そしてアルベルト・カルヴァンスクは、これまでの試練を経て再び集結した。会議の目的はただ一つ――第二の革命を実現するための方針を決定することだった。


エルドレンは静かに会議室に入り、椅子に腰掛けた。彼の顔には決意が滲んでいるが、その眼差しには冷徹なものも感じられる。


「全ては民衆のためだ。」エルドレンは短く言った。彼は信じている。急進的改革こそが、この国を新たな未来へと導く唯一の道だと。


レオンハルト・クラインシュミットは、その言葉を受けてゆっくりと頷いた。「私たちの目標は変わらない。ただし、今回は前回の反省を生かすべきだと思う。暴力を使うだけでは、民衆は離れる。今度こそ、彼らに納得させる方法を見つけなければならない。」


アルベルト・カルヴァンスクは、ふたりの言葉に一歩引いた立場で考えていた。「暴力に頼らず、民衆を動かす方法…確かに、前回はそれが不十分だった。」彼はしばらく黙り込んだ後、重々しく言った。「我々は時に慎重であらねばならない。無理に急進すれば、必ず失敗する。」


その言葉に、エルドレンの表情がわずかに険しくなる。しかし、すぐにその冷徹な視線を会議のメンバー全員に向けた。


「慎重であることは、改革を後回しにする理由にはならない。」エルドレンは強い口調で続けた。「国は変わらなければならない。民衆はもう待ちきれない。このままでは新しい未来を築けない。」


レオンハルトは彼の意見に賛同し、すぐに口を挟んだ。「我々の目指すべき未来は、平等と自由だ。それに向かって進まなければならない。」彼の言葉に、アルベルトは黙って耳を傾けていた。


「ただし、急進的な方法で進むのではなく、確実に民衆と共に歩んでいく方法を見つけるべきだ。」アルベルトは再度、落ち着いた声で述べた。


会議は続き、それぞれの思惑が交錯した。アルベルトの穏健なアプローチと、エルドレンとレオンハルトの急進的な改革志向が対立していたが、最終的には共通の目標に向けて一致する道を見つけ出すことが決まった。


---


その後の数日間、彼らは改革に必要な具体的な手段と戦略を練り上げることに専念した。アルバート・ファランクスが心配していたように、フランドル国民王国内の動向も無視できない状況となり、他国からの反応も徐々に変化しつつあった。


エルドレン・ブラウン、レオンハルト・クラインシュミット、そしてアルベルト・カルヴァンスク――それぞれが異なる考えを持ちながらも、最終的に彼らは一つの決断を下した。それはまさしく、革命を成し遂げるための最初の一歩を踏み出すことだった

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