「第一議場」―二日目―
ベッドから出て、服を着替え、食事を済ませる。
外からは農奴の声が聞こえる。噂程度と思っていたが、実際だったようだ。
ルーシから派遣されて数日。学ぶという目的で来たが、本当に近代国家なのか疑ってしまう程の国家だ。
つい十数年程前に我が国で廃止された物を、この国はまだ持っているというのか。
外へ出ると、鎖を繋がれた農奴が居る。先頭の貴族はまるで自分が王の様に振る舞っている。
私はそいつの進行方向の丁度前に居た。
「退け、貴様の様な屑が私の前に居るのは場に合わん。」
何という人間だ。此奴が貴族なのか?
此奴等が大陸最強の国家を支えているのか?
「退けと言っているんだ。速く退け。屑。」
頭に来た。此奴には一回恐怖って物を植え付けさせなければならない。
私はホルスターにかけてある拳銃を構えようとする振りをする。
「何が退けだ。クソ野郎。これが騎士道って言うのか?」
思い付く中での最大限の挑発をしてやった。
騎士道精神を腐っても捨てていない此奴等には、これが一番効く。
正直、ここまで腐っているとは思ってはなかったが...
「何だと.....貴様ァ! 下人程度の癖にィ!」
此奴等につける薬は無いのか?抜刀して来やがった。
これでは予定通り議場に付けない。
まぁ仕方ない。少し懲らしめてやろう。
ホルスターから銃を抜いておく。
「かかってk」
という前に攻撃して来やがった。
とっさに避けれたが、相手が達人であったら死んでいた。
此奴、鍛錬も怠っていた様だな。遅い。
お返しに拳銃を威嚇程度に一発撃ってみる
「ぎゃぁ!」
とか言って下がりやがった。このまま逃げてくれれば良かった物を。
此奴、仕掛ける度胸はあっても、やり返される覚悟は無かったみたいだ。
「止めよ。」
見知った声が聞こえた。
「ザイツィンガー?ここは約束した場所ではないだろう?」
彼が来ていた。しかし何故?
「余りに遅かったから、さては暗殺でもされたんじゃ無いかとな。」
こんな時に笑えない冗談だ。
危うく死ぬ所と言えば死ぬ所だった。
「すまない。其奴とやり合ってたら遅れてしまった。」
すると彼は納得した様な顔で貴族の方を向き、
「あんた、仮にでも相手はルーシのお偉いさんだぜ?
切り傷でも付けば国際問題だ。」
お偉いさんとは....私は全然上層ではないが....
貴族は自分は悪くないなどほざいていたが、彼の同行者によって連れ去られて行った。
「これがこの国の貴族か?」
「ああ、その通り。あんな奴が普通さ。
あんたも見ただろう。初日の議場での有り様
上層でさえあんななんだ。下層はもっと酷いさ。
ところで...この農奴達はどうするんだ?
この国の法律じゃ、持ち主に返さなきゃならねぇ。」
「俺が買った事にして、自由にさせてくれ。」
「承知....じゃ、今日も”動物園”を見に行くとするか。」
小一時間程車に揺られて議場前へ着くと、既に議会は始まっているようだった。
「.....が考えている案として、戦争と言う物があるが、
我が国にそんな余力は無い!」
貴族が使うゲルマン語とはまた違う、北方訛りの声が聞こえた。
少々怒鳴っている様にも聞こえる声だ。
議場のドアを開け、中へ入ると声の主が分かった。
エルドレン・ブラウン。
片目が閉じられていて、顔一帯に傷が見える。
ピアスだろうか?赤いルビーの様な物をかけている。
「俺は出席してくる。来賓席で見ててくれ。」
ザイツィンガーが席を外すと
私は昨日と同じ席で観賞する。
しかし昨日とは違い、貴族の勢いが無い。
エルドレンの罵声と、貴族の沈黙が聞こえる。
「貴様等貴族が国民皆兵法案に反対するからこそ貴様等が求めている戦争に踏み切れんのだ!分からんのか!」
この国は本当に近代国家か?
国民皆兵等殆どの国家が採用しているのにも関わらずこれだ。
やはり...旧態依然というのは早々に抜けない様だな。
明後日には帰国する事になるが...何か学ぶ所はあるのか?
明日、軍隊の視察がある。
少なくとも、今の状況で我が国が負ける要素は無い。
私は席に座ったまま、議場の様子をじっと見守る。エルドレン・ブラウンの怒鳴り声が響き渡る。彼の言葉には、怒りと失望が込められている。しかし、その一方で、貴族たちの沈黙が痛々しくも感じられる。議場の空気が一層重くなったように思える。
「戦争を回避したいというのは理解できるが、現実を見ろ。」
エルドレンの声が再び響く。今度は少し冷静さを取り戻したようだが、依然として怒りがにじみ出ている。
「我が国は今、動くべき時に動かなければならない。戦争を起こすなら、それなりの準備が必要だろう。だが、戦力が整っていない今の状態で何をすべきか、考えるべき時だ。」
貴族たちは無言のままで、議題を先延ばしにしようとするだけだ。彼らは戦争を回避したいのだろうが、実際に戦争が避けられる状況ではないことは明白だ。私はその光景を見ながら、思うことがある。
「この国は、無駄な誇りに囚われているのではないか?」
心の中で呟いた。
いくつかの国が戦争を避けるために全力を尽くす中、この国は未だに戦争を恥ずかしいものとして捉え、それを回避しようとしている。しかしその一方で、国力を維持し続けるためには戦争の準備が不可欠だという現実もある。
「国民皆兵法案を通すか、それとも従来の軍隊を頼りにするか。」
議場内で議論は続くが、その雰囲気は一層凍りついていた。
私の心の中では、もう決まりきった結論が浮かんでいた。この国の体制では、たとえ戦争を回避できたとしても、その後の経済的な疲弊と国家の崩壊は時間の問題だろうと感じた。
議論が長引く中、私は視線を落とし、思いにふける。もはや、この国に学べることは限られているのではないか、という思いが強くなった。
「明日の軍隊視察が終われば、私は帰国する。」
その決意は、揺るがないものとなった。
次の日、私は予定通り、軍隊の視察に出かけることにした。ザイツィンガーが同行し、視察が無事に終われば、再び自国へ帰る準備を整えなければならない。
視察の後、軍の施設に到着すると、そこには堂々とした兵士たちが整列している。だが、私は目の前に広がる光景をじっと観察しながら、この国が抱える問題に対する答えを見つけようとしていた。
「これだけの人数と設備を持っている国が、どうして戦争を恐れているのか?」
その問いが頭をよぎる。
見た目以上に、この国の軍事力は頼りないのではないか。戦争が起きた際に勝利できる要素があるのか、それとも時間が経てば経つほど国家の崩壊が早まるだけなのではないか…。
そんな思考を巡らせながら、視察は進み、私はただ黙ってその場に立ち尽くしていた。
メモ用紙に比較を書いていると、議員達が席を外し始めた。
閉会した模様だ。
明日の軍事視察以外、いや、それすら学ぶ所があるか怪しいのだ。
外の車に乗り込み、ホテルへ向かい
また同じ手順でベットに倒れ、就寝する。
平和とは素晴らしいが、旧態依然とした平和は幸福なのか?....
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