第21話

 

 男はそれを見て、苦しそうな潰れた声で言った。


 「はっ、ホリビスかよ、やっぱ野蛮なやつしかいねぇな、人間と仲良しできてそんなに嬉しかったか?、だからこの女のこと諦めきれなかったか?、まぁどっちにしろこの女はお前のことなんざさぞかし嫌いだろうよ」

 「そんなことないわ!大切な仲間だって思ってる」


 腰を抑えた体制で座りながら、セシリーが食い気味で激怒の表情になり言った、それに対し


 「じゃあ聞くけどよ、お前、なんでこんな奴と一緒にいる?」

 「それは、弱い立場の人の味方をしてあげたいって、ずっと思って生きてきたから」


 それを聞いた男が笑いながら言う。


 「じゃあ味方になる奴間違えたな、つい最近だってホリビス主犯の暴動が起きたばかりだ、俺の村はその時焼かれた、今も昔も変わりゃあしねぇんだよ!、まともな人間ならこんなん視界にも入れたくねぇ、お前こいつとなんの思い出がある?それでも大切な仲間だとかほざくか!」

 「ネオ君は違う!」


 セシリーが一言言い返した、しかしその声は若干震えていた。


 「こいつは違うあいつは違う、そんな甘い考え通じるか!現に嫌われるような行動ばっかりしてるじゃねーかあいつらはよぉ、人の村潰しといて何がホリビスの人権だ!一生肩身狭い暮らししとけアホ!」


 俺は、鎌を男の頭の横に振り下ろし地面へぶっ刺した。


 「うおああ!」


 驚く男の顔に顔を近づけ、じっくり目を見つめ囁くように言う。


 「言いたいことがあったら俺の目を見て言えよ、セシリーを言い負かして気持ち良くなってんじゃねぇぞ」


 男は気持ち悪い笑みを浮かべながら俺に言い返す。


 「フヒ、お、お前みたいな獣臭い奴、枷をつけられて飼い慣らされる奴もいるってのに、こんな自由にしてる奴もいるなんてよ、国を疑うぜ、誰がなんと言おうとホリビスは、例外無く悪だ」

 「負け惜しみはこれで終わりか?お前が何を言おうと、俺は村のことに関係ないしどうでも良い、八つ当たりに付き合っている暇もない」


 男に吐き捨てるように言い放ち、この場から離れてセシリーの所へ走る。


 「セシリー!」

 「ネオ君!」


 駆け寄り見てみると、腰を怪我しているようだが他は特に何も無さそうだ。

 良かった、命には別状無くて。


 「お兄ちゃん!」


 リリが横に立ち、俺に元気よく話しかけた。

 リリ…。


 「どうした?リリ」

 「あそこに行こ!休めるよ」


 指差した先は茂みで少し見えづらかった。

 リリは俺の手を掴み連れて行こうとするが、俺はリリの引っ張る力に抵抗して全く動こうとはしなかった。


 「お兄ちゃん…?」


 俺は何も言わず掌に魔力を溜め、空気圧で大きな風を起こした。

 すると、さっきリリが行こうとした場所に、俺が昨日引っかかったあの罠が作動した、その下には魔法陣が描かれている。


 「リリ、これ説明してくれないか?」

 「え?なんでリリちゃんなの?」


 リリは少しの間黙って、けろっとした感じでまた笑顔になり、喋り始める


 「えーな〜に〜?知らないよこんなの、お兄ちゃんよく見抜けたね、すご〜いまた助けられちゃった!」

 「リリ、俺は一回これと同じ罠に引っかかったことがある、その時見つけた髪の毛、これ、君の髪の色に近い気がするんだ」


 俺はリリの前で片膝をつき、髪の毛を見せる。

 実はあの後、どうしても気になり髪の毛を再び拾っていた。

 髪の毛を見せた途端にリリは表情を変え答えた。


 「たまたまじゃない?」

 「でも、こんなに綺麗で特徴的なターコイズブルー髪、他に見たことがないんだ」


 リリはそこから表情を変えず固まっていた、一体何を考えているのか。


 「リリ、俺は君のことを責め立てたいわけじゃない、間違ってるならそれでもいい、しっかり言い切ってくれ、ただこれが、本当にリリの仕業だとしたら、理由が聞きたいんだ、怒るつもりはないし、なんだったらこれからも一緒にいたいと思ってる、だから…教えてくれないか?」

 「なんで…」


 リリが何か呟いた、俺は聞き返す。


 「ん?」

 「なんでさぁ、お兄ちゃん肝心な時に…こんなに勘がいいのかなぁ」

 「リリちゃん?」


 リリは服をビリビリに破り捨て、自分の上半身を露わにし、その体には黒いアザが浮き上がっていた。


 「うそ、魔力不定…?」


 セシリーが口に手を当ていった。

 そんな、リリが魔力不定だって!?


 リリの背中から大きく太い触手が出てきた、それは本人の周りでうねうね動いている。

 俺はリリに再度優しく話しかける。


 「待ってくれ、俺は話し合いがしたいだけで…」

 「むりだよ」


 食い気味に言われた、そしてもう一言、再び小さな声で呟いた。


 「なかま・・・だと思ってたのに…」

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