第9話 少女の正体

語り手:リリ


 私は私が分からない、記憶が曖昧でどこから来たのかすらも覚えてなくて、いつの間にか森にいた、でもリリっていう名前は覚えてたり、言葉とか、魔法のこともなんとなく知ってた。


 でも毎日が寂しくて、だから友達を作りたくて、魔物のみんなと仲良くなった、フェンリル、ブラックウルフ、ほかにもいろんな子達と仲良くなったけど…けどやっぱり寂しかった。

 ちゃんと言葉が話せるお友達が欲しい、私の体を見ても怖がらない、嫌なかおしない、本当に大切にしてくれるお友達が。


 そう思って私は森を出た、お友達を探しに、同じとしくらいの子と仲良くなりに。


 最初に見つけたのはまさにその同じとしくらいの女の子達だった、私は早速話しかけに行った。


 「ねぇねぇ、何してるのー?」

 「え?追いかけっこだよ!」


 女の子達が足を止めて、私の方を振り向いて教えてくれた。

 私も入れてとお願いしたら快く受け入れてくれて、その後楽しく遊んだ、最初は仲良くできてると思ってた。


 「待ってよー!」

 「やだやだ〜、あっ」

 ドタッ!


 私がお友達から逃げていた時、ついこけてしまい、その拍子に服がめくれ上がった、そんな私の黒いアザを見たその時のみんなの反応は、二度と忘れられないかもしれない。

 まるで虫でも踏んでしまったかのような、とてつもなく醜い物を見てるけど、目が離せない、そんな表情で私を見る。


 「ど、どうしたの?…」


 私は服をなおして、みんなに何もなかったように振る舞った、でももう遅かった。


 「きゃー!触らないで!」


 立ち上がりみんなに話しかけながら手を触ろうとすると、手を振り解かれて逃げられてしまった。


 「黒いのがうつるー!」


 その場に取り残された私は、一人寂しく森に帰った。


 私の体の黒いのってやっぱり怖いんだ、見せちゃうとみんな怖がっちゃう、どうしよう…。

 そうだ、魔法がある!魔法で私のこと好きになってもらえば、黒いの見られても嫌われないし、あんな目されないよね、頭いい!


 こうして私は準備した、森の至る所に罠を仕掛けて、その下には魔法陣を描いた。

 よーし、ここに私がお友達を上手く誘き出そう、これが上手くいけば、寂しい毎日が終わって楽しい毎日になる!ったのしみー!!


 次の日私は森を出た、今度は反対の方向に。


 「どこかにいないかなー、ちょうどいい子」


 とりあえず歩き回って子供を探し続けた、すると一人の男の子に出会った。


 「わー!いじめないでー」


 見た目は赤いけど、でも怖がり方とか見たら多分子供だよね、ツノが生えてる、めずらしー!


 「私ね、リリって言うの、お名前は?」


 私はしゃがんで尻餅をついた男の子に名前を聞いた。


 「ボ、ボッツ」

 「ボッツくん、なんでこんなところにいるの?」


 ボッツくんは小さな声でオドオドしながら答えた。


 「ま、迷子で、どこにいけば良いか分かんなくて…」

 「なんだ一緒じゃん!私も迷子なんだ」


 こうして私はボッツくんとしばらく一緒に歩いた、普通の森の中、草原の中、適当に誰かを探して。

 実際はこのまま少しずつ、この子を森の中に引っ張ろうと思ってるんだけどね。

 聞くとボッツくんは私より年下の男の子だった、ってことはお姉さんだぁ、なんか楽しそ〜。


 すると近くに、お兄さんが気持ち良さそうに寝ているのを見つけた、髪が白くて、体を大きく覆うマントを着ていて、大きな鎌を横に置いている。


 「あ、あの人に道、聞く?」


 ボッツくんが言い出した。

 えー、困ったなぁ、このまま森に行きたかったのに…。


 「大丈夫だよ、なんかあんまり近付いちゃいけない感じするし、やめよ?」


 でもボッツくんの顔はやる気だった、ボッツくんは茂みから出ていき、お兄さんのいる近くへと走った、私は思わず走って追いかけた。


 「待ってよ」


 小さな声でボッツくんに話しかけて止めようとした、すると目の前のお兄さんはすでにこっちを見て私達のことに気付いてしまった。

 お兄さんは立ち上がって、私達に近付こうと手を伸ばしてきた時、もう一人、今度はおじさんが武器を持ってこっちを拒絶した。


 「危ねぇぞ!」


 何で?黒い所は全部隠してるのに、何で私のことそんな目で見るの?

 足が震えてきた、またあの子達みたいな顔を見ることになるかもしれない、そんな恐怖を感じた。


 「待って!」


 そして間も無くもう一人、お姉さんが間に入って私達を庇った。


 「嬢ちゃん、こいつはオーガだぞ、魔族なんだぞ!」

 「でもこの子はまだ何もしてないじゃないですか、魔族だからって刃物まで出さなくていいでしょ!」


 その瞬間ほっとした、この人達が恐れていたのはボッツくんの方だった。

 よかったー。


 「う、うぅ、おかぁ、おとーん!」


 いきなりボッツくんが泣き出した。

 もー、しょうがないなー、自分で話しかけに行ったくせに、よーしよーし。

 私は何も言わないで、優しくボッツくんの頭を撫でてあげた。


 この後、ボッツくんはお父さんと再会できて帰っちゃった、残念だなぁ、お友達になって欲しかったのに。



***



 でもその代わりにお兄ちゃんとお姉ちゃんが森に入ってくれた、ちょっと歳離れてるけど関係ないよね。

 でもでもどーしよ〜、お兄ちゃんが魔物に襲われてもすぐやっつけちゃうからなぁ…よし、無理矢理にでも。


 「ねぇねぇ、あっちに木の実いっぱい落ちてるよ、行ってみようよ!」


 もうこれで罠まで連れて行っちゃお。


 「危ない!」


 お兄ちゃんが、私とお姉ちゃんの体を急に掴んでその場から離れた、前を見るとそこにはフェンリルがいた、え、どうしたの?頼んでないけど。


 フェンリルはお兄ちゃんと戦おうとしている、そっか、私のお手伝いしようとしてくれてるんだね!お願いだから死なせないでよ。

 するとお兄ちゃんは変な構えをして、イタチさんを呼び出した。


 あれ?この動物さんって、もしかしてホリビス?ってことはお兄ちゃん、嫌われてる人?

 じゃあ仲間じゃん!私とおんなじってことじゃん!


 気付くとフェンリルは、お兄ちゃんに倒されていた。

 なーんだ、”役立たずだなぁ”。


 


 「お兄ちゃんかっこよかった!何あのイタチさん!凄い!」

 「あ、そうか、ありがとう」



***



 三日目になってもま〜だ捕まえられない、お兄ちゃん強すぎー!

 とりあえず今日はもう歩かないらしい、うーん、ここら辺には罠作ってなかったなぁ。


 「リリちゃんここに来てからまだ一回も体洗ってないよね、洗お!」


 お姉ちゃんが川で汲んだ水をお湯にして持ってきた。

 やばい、服の下見られたら、見られたら…。


 「今日は…いいや、次洗う」

 「そーお?あ、そういえばネオ君も体最近洗ってないよね」


 お姉ちゃんがお兄ちゃんにターゲットを変えてくれた。

 よかった〜。


 「え?お、俺もまた次で良いよ」


 お兄ちゃんが体を隠すそぶりをしながら言った。


 「だーめ!十五歳でお風呂サボらないの、こっちいらっしゃい、お湯で洗ってあげるから」


 お姉ちゃんが袖を捲って、お兄ちゃんの腕を引っ張る。


 「い、いや、それは自分でできるからあああ!」


 あははっ!なんか面白いなぁ。



***



 五日目はお勉強ごっこをした、お姉ちゃんが出してくれた問題は楽しい!

 でも途中から難しい言葉が多くて分かんなくなっちゃった、その後いっぱい遊んでくれたから良いけど、でも黒いアザって…。



***



 七日目はいっぱい歩いた、途中でお兄ちゃんを罠に仕掛けようとしたけど、お兄ちゃんはなんか険しい顔をして聞いてくれない。

  もー、このままだと出口ついちゃうよー。


 仕方なく歩いていると、お兄ちゃんが私とお姉ちゃんの前に立って何かを弾いた。

 すると茂みから知らない顔のおじさんが二人出てきた、お兄ちゃんがおじさん達の前で構える。

 がんばれ!お兄ちゃん!


 お兄ちゃんはおじさん二人を相手にしても楽そうだった、攻撃をいっぱい避けてキックして、相手を圧倒している。

 これならまたお兄ちゃんの勝ちだと思ってた、すると相手が卑怯な手を使って、お兄ちゃんを上手く動けなくした。


 このまま私達は眠らされてしまった。




 目が覚めると、そこにはお姉ちゃんが辛そうな表情で座ってた、どうしたんだろ。

 そう言えば捕まってたんだっけ、でもお姉ちゃんが助けてくれたんだ。


 お姉ちゃんが魚を焼いてくれた、でもお姉ちゃんのぶんは無いのかな。


 「私?私は良いの、一晩くらい大丈夫!」


 お姉ちゃんは両腕を上に曲げたポージングをして平気を装ってたけど、きっと違うよね。

 ぐ〜〜。


 ふふ、やっぱり


 「お姉ちゃん!はい、半分こ」

 「りりちゃん…」


 この後、仲良く二人でお喋りしながら寝た、きっとお兄ちゃんは来てくれるから大丈夫!



***



 八日目の朝、目が覚めるとお姉ちゃんはいなかった、慌てて外に出るとびっくりすることが起きた。


 「おおっといけねーお嬢ちゃん、静かにしてな」


 突然外から、昨日のおじさんが口を押さえて木の中に押し戻してきた。


 「ん、女がいねーな」

 「兄貴、待つか?」

 「そうだな、お前外の茂みで隠れてろ」


 そんな…お姉ちゃんごめん。


 でもお姉ちゃんが来ると、すぐに助けてくれた、火魔術でおじさんを攻撃して、すかさずこっちのおじさんの足を引っ掛けて、転ばせて助けてくれた。


 お姉ちゃんに手を引っ張ってもらって一緒に走っていく。


 「リリちゃん、起きたばかりでごめんね、このまま走れる?」


 お姉ちゃん…。


 「うん!」


 するとその時、お姉ちゃんが急に私を抱きしめた、何かと思ったら、お姉ちゃんは腰を怪我していた。


 「うっ」

 「お姉ちゃん!?」


 ど、どうしよう、あいつら近付いてくるよー、こうなったら私が…でも、お姉ちゃんの前であの姿になりたくない…そうだ!この近くに罠と魔法陣作ったよね、そこまで行って、お姉ちゃんに私を好きになってもらってから、あの姿になっちゃえばいいんだ、頭いい!


 私はすぐにお姉ちゃんの手を掴んで、そこに向かって走った。


 「リ、リリちゃん、私そんなに早く走れないから」

 「大丈夫、安全な所に連れて行ってあげる」


 よし、あとちょっとで着く!

 バタン


 その場でお姉ちゃんが倒れてしまった。

 お、お姉ちゃん、どうしよう、このままだと本当に…。


 もうダメだって、本当にそう思った、そんな時、お兄ちゃんが現れた。

 お兄ちゃん!


 お兄ちゃんは早速一人倒して、相手に強さを見せつけた。

 そしてもう一人と少し長い激闘の末勝利した。


 決めた、絶対にお兄ちゃんと友達になるんだ、すぐに私のこと大好きになってほしい!

 お兄ちゃんがお姉ちゃんの近くに駆け寄った時、早速罠の方へ手を引っ張った、でもお兄ちゃんは全く歩こうとしてくれなかった。


 するとお兄ちゃんは、風を起こして罠を作動させた。

 え…。


 「リリ、これ説明してくれないか?」

 「え?なんでリリちゃんなの?」


 なんでバレちゃったの?…とにかく知らないふりしないと。


 「えーな〜に〜?知らないよこんなの、お兄ちゃんよく見抜けたね、すごーいまた助けられちゃった!」

 「リリ、俺は一回これと同じ罠に引っかかったことがある、その時見つけた髪の毛、これ、君の髪の色に近い気がするんだ」


 そ、そんな、髪の毛なんて、そんなの、気付かないでよ。


 「たまたまじゃない?」

 「でも、こんなに綺麗で特徴的なターコイズブルー髪、他に見たことがないんだ」


 ……だよね。


 「リリ、俺は君のこと責め…」


 やめてよ、そんな目で見ないで、あの女の子達みたいな目…もう、嫌われちゃったってことか。


 「なんでさぁ、お兄ちゃん肝心な時に…こんなに感がいいのかなぁ」


 もうなんでもいいや、バレちゃったなら無理矢理魔法陣に入れちゃおう。

 私は服をビリビリに破って上半身を見せた。


 「うそ、魔力不定…?」


 やっぱりそうだったんだ…。


 「待ってくれ、俺は話し合いがしたいだけで…」

 「むりだよ」


 そう、もう無理、二人共ちゃんと、私のこと好きになれるようにしてあげるからね。


 でも、こんな姿、見せたくなかった。

 だってそんな目で見られたら…。


 「なかま・・・だと思ってたのに…」

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