第15話

「まず、古代から今に至るまで存在する、とある現象について説明するね、それは”魔力不定”まりょくふじょうっていうんだけど知ってる?」

 「あー、それなら聞いたことある、体内の魔力のバランスが安定しなくなって、体に影響していくやつだよな」


 聞いたことはある、確かちょっと昔まで奇病とか言われてたんだよな、それはそれとして何だか、声のトーンが低くなった気がする、演出か?


 「そうそう、人間だけじゃなくて生きている者全てに起こりうる現象、具体的にどうなるのかというと、魔力が不安定になると体が黒いアザで覆われていって、邪悪な欲求に目覚め、最終的には醜い異形に姿が変わってしまうの」

 「へー、そこまでは知らなかったなぁ」


 なんか怖いな、俺もいつかなったりしたらどうしよう。


 「安心して、後天的なものではないから、百パーセント遺伝によって起こる現象よ」

 「そ、そうか」


 でも俺親のこと知らないしな…まぁ考えても仕方ないか、俺は黙ってセシリーの話を聞くことにした。


 「そしてそれが魔物の何に関係するのかというと、実はその、魔力不定によって異形になってしまった人間、犬や猫、その他の生物こそが、魔物を生み出したルーツとされているの、簡単に言えば先祖だね」

 「!?」


 なんだと!?勉強なんてしたことないから全く知らなかった、常識なのかな?

 思わず前のめりになった俺を、セシリーは興奮し眺める。


 「やっぱそうなるよね〜、想像通りの反応だよ!」


 ウキウキで話すそんな様子のセシリーに、俺は質問をする。


 「じゃあその異形になったやつが他の異形と出会って交配して魔物が生まれたってこと?」

 「まぁ間違ってはいないけど、少し違うわ、基本的に生まれてくるのは、異形になる前の姿を受け継いだ姿、例えば、犬と狼の異形同士だと、ただの犬と狼の雑種が生まれるだけ、でもごく稀に、異形の姿で生まれてくる子供もいるみたい」


 セシリーが分かりやすく、本を指差して教えてくれる、興味が深まってきた俺は、それに対してまた質問をした。

 

 「それはまだ魔物じゃないのか?」

 「うん、魔力不定は人間が文明を進める前からあるっぽいから、そこから何千年、何万年と、新種が生まれては繁栄に失敗してを繰り返して、少しずつ、やっと今の生態系になったと考えられているの」


 何てことだ…じゃあサキュバスとか、ゴブリンみたいな見た目が人間寄りの魔物は…やめよう、考えるのを一回やめよう。

 俺は顔を横にぶるぶる振って、忘れようとする、そして少しの間、目の前にある焚き火を一点集中で見つめていた。

 そんな俺の様子を見たセシリーが、さっきとはトーンが変わり、いつも通りで喋ってくる。


 「ちょっと気分良くない話だったよね、でも今私たちが生きている世界ってこうやってできてるんだって考えると面白くならない?」

 「……確かに」


 前のめりのセシリーは笑顔で言う、生粋の学者だな。

 気分が良くないのはその通りだが、興味深い気持ちがあるのもその通りで、俺はもう一つ気になったことがあったので、それを聞いてみた。


 「でも今の時代魔力不定になった人達はどうなるんだ?昔からあるんだし、治す方法くらいはあるだろ?」


 その質問を聞いたセシリーは、重い表情で答える。


 「あるにはあるよ、でもそれを受けるには莫大なお金が必要になるの、だから貴族などの富裕層がその技術を独占して、貧困の人達はいまだに苦しめられているのが現状」


 そこは茶化しちゃいけないのか、真面目な表情で言った、そんなセシリーに質問を続ける。


 「なるほど、じゃあその魔力不定になった貧困の人は一体どうなるんだ?」

 「与えられる選択肢は二つ、森や山奥に置いていくか、もう一つは、まだ暴れたりしていない段階の内に、ひと思いに死なせるか…」


 そうか、でも確かに、何もできることなんて無いからこその、苦渋の決断なんだろう。

 俺は横に置いていた鎌をもう一度手に取り磨き始める。


 「へー、なんか難しい言葉多くてよくわかんないや」


 リリが足をぶらぶらさせながら、つまんなそうに言った、ちょっと蚊帳の外にしすぎたか、確かに難しかったかもな。


 「そうだよね、ごめんね、置いてけぼりにしちゃって」


 セシリーがリリの頭を優しくなでなでして言った。


 「ねーねー、遊ぼ!」


 リリが膝からぴょんと降りて、少し離れた場所に小走りで移動し、俺たちに手を振りながら言った。

 こういうすぐ飽きっぽい所も子供って感じだな、でも可愛いな、確かにラウル達が子供は癒しだと言ってた理由も分かるかる気がする、俺がこれくらい可愛かったかどうかは怪しいけど。


 本を閉じて鞄にしまい、少し口角を上げた表情で立ち上がるセシリー、リリの方へ向かった。

 どんな遊びをしているかは、見ているだけじゃよくわからないが、間違いなく二人は楽しそうだ、まるで姉妹のようだった。

 この五日間で二人はだいぶ打ち解けあったな、見てて十分伝わってくる。


 「お兄ちゃんも来なよー!」


 リリがこっちに向かって、ぴょんぴょん跳ねながら両手で手の甲を上にした形の手招きする、セシリーもしゃがんだ体制と、小さい動きでリリと同じようにこちらを手招きしていた。

 まぁこっから先こんな余裕無いだろうし、今の内だよな。

 腰を上げ、俺は二人の元へ向かう。

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