第16話

 森に入って七日目、今も俺達は歩き続けている。

 景色は相変わらず薄暗くどんよりとした雰囲気だ、地面が湿っていたり、凄い時は霧が張っていて目の前が見えづらい、そして前を塞ぐ大きな木の根っこや岩をよじ登りながら、出口に向かって進む。


 巨人の森を抜けるまでにかかる時間は、休まず歩いて八日、休まずいけたらの話だが、俺たちのペースだと十一日くらいはかかりそうだな、まぁ気長に根気よく歩くしかないな。


 それにしてもセシリーは元気だな、こんなに連日歩いてるのにピンピンしている、岩の上から手を引っ張りながらそう思った。


 「どうかした?」


 セシリーがこっちの視線に気付き、岩を登りきった後立ち上がり、俺に言ってきた。


 「いや、意外とタフで逞しいなって思って」

 「まぁ今まで全く外に出てなかったわけじゃないからね、発掘とかで遺跡に赴いたりするし」


 確かに、そう考えたら自然か、考古学者なんていろんな所に出向いて発掘して研究して、だもんな、むしろ体力がなくちゃやってられないのか、なんにしても体力があるならこっちが相手のペースに気を遣わなくて済むしありがたいな、問題は…。


 「リリ、大丈夫か?」


 俺は疲れている様子のリリに、中腰になって顔を覗き込み聞いた。

 子供で女の子だし、体力も無いだろうからな、こうなるのはある程度予感はしていたが。


 「うん、大丈夫」


 リリが息を切らしながら言う、本当に大丈夫だろうか、さっきからずっと辛そうにしているが、できることならここらへんの近くで休ましてあげたいがなぁ、でもそうすると…。

 するとセシリーが歩いてリリに近付き、持ち上げる。


 「ほら!これで楽ちん」


 背中を下にし、肩と膝裏を支える、お姫様抱っこだ。


 「わーい!お姉ちゃん大好きー!」


 リリが急にセシリーにぎゅっと抱きしめるように密着して甘える。


 「いいのか?いくらなんでも疲れるだろ、しばらくしたら変わろうか」

 「ううん、全然大丈夫よ、ネオ君は私達を魔物から守ってくれるんだから、手を塞いじゃダメでしょ?」


 セシリーが首を振り、俺の提案を断った。

 そう言うならそれで良いか、リリも俺みたいなのよりお姉さんの方が良いもんな。


 「分かった、二人とも離れないようにな」

 「はーい!」


 俺の言葉にリリが元気な返事で片手を上げた、セシリーは何も言わず、落ち着いた表情で頷く。


 それからも三人で歩き続けた、長い長い道のりを、低い気温の中、途中魔物にも襲われたが難なく退治できた。


 「あ!ねぇねぇお兄ちゃん、あっちに日向があるよ、行ってみよーよ!」

 「ん?いや、リリ、今はそんなんどうでも良いから」


 リリがこういうことを言う時がたまにある、だいたい聞くことなく通り過ぎる、基本は最優先じゃないから聞かなかったが、今は理由がある、その問題をどうにかできないと今は立ち止まれないのだ。


 実は俺達三人の後ろに、さっきから男達が尾行してきている、おそらく人攫いだ、数は二人か、きっとあっちもタイミングを見計らっているんだろう、迂闊な行動を取らないように気を付けないと。


 後ろの太い木の後ろに隠れているのが一人、大きな草の茂みに隠れているのがもう一人、隙を見せないようにすれば今すぐに襲われはしないだろう、気を張っておかないと。


 そう思って注意を払っていた、すると突然一本の小さな針が飛んできた、すぐに鎌の刃の平ひらの部分でガードしたが、リリを抱えているセシリーにも同様のものが飛ぶのを見た。


 俺はすぐに二人の前に立ち、針を鎌の刃で弾いた、針の正体はおそらく睡眠薬を塗り込んだ物だ。


 って言うかいきなりかよ、不意を突いてきたか、まぁなんとか間に合ってよかった。


 「何やってんだ!」

 「すまねぇ兄貴ぃ〜」


 男二人がそれぞれ別の方向から出てきた、一人はだいぶふくよかな体型だ、脂肪が指先まで詰まっていそうなほどパンパンな見た目だ、横には大きいが縦にはそれほど大きくない、俺とそんなに変わらない身長だ、茶色のローブを羽織り、頭には安っぽい帽子を被っている、もう一人に怒鳴りながら怒りの表情を浮かべて歩く。


 もう一人はガッチリした体型だ、さっきのが指先まで脂肪が詰まっているならば、こっちは筋肉が指先まで…いや、そこまでではないが、間違いなくちょうど良いくらいの筋肉量を持っていると言える。


ローブから出た腕を見たらわ分かる、身長は太った奴の二倍くらい、見た目的にもこっちの方が強そうだが、主従関係は太った方が上なんだな、おそらく兄弟か、服装は緑色のローブを羽織り、頭には同じく安っぽい帽子を被っている。


 「まぁいい、ガキ二人と女一人だ、何も考えることはねぇ」

 「兄貴、あの女なかなかいいぜ〜、エッヘッヘ」


 兄弟が言い出した、そのまま短剣を取り出し、ニヤニヤしながらゆっくりと近付いてくる。

 とりあえず殺さないように、蹴りで気絶させるだけにしておこう。


 「離れてて」

 「うん」


 セシリー達に一時避難してもらった後、俺はすぐさま鎌を構え、戦闘態勢に入った。

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