第13話

 あまりの大きさと迫力にセシリーが足を震えさせ、分かりやすく怖がる様子を見せた。


 「大丈夫、俺がいる限り二人とも死なせない」

 「…うん、そうだよね、ありがとう!」


 セシリーを安心させるべく言葉をかけた、さっきは少し不甲斐なかったが、今回はA級と言えど一体を相手にするならまだ守りやすいか。

 二人に離れてもらい、俺は首の紋章に魔力を込めた。


 「ウィーズ!出て来い」


 俺はホリビスの力で獣を出した、名前はウィーズと名付け、今ではたまに来てもらう相棒として頼りにしている。


 獣を出す力といえば召喚獣と言うのもあるが、あれとは全く違う能力だ、大きな違いは、あちにらは自我がなく、ご主人を守るために動いたり指示通りに動いたりするのに対して、こちらの獣には自我がある、俺が何か指示しなくても自分で考えて行動できるのだ、しかしその分手懐けるのには時間がかかる、俺も苦労した、ちなみに意思の疎通もできる、たまにしか喋ってくれないけど。


 「行くぞ!」


 先に仕掛けて来たのは向こうからだった、人間の半分くらいある大きな黒い爪を振り下ろしてきた、俺はそれを避けウィーズに乗り、フェンリルの横を駆ける。

 ウィーズは丁度良いタイミングで飛び上がり、俺は首元に思いっきり切りかかる、しかしフェンリルは俺達の思っていた以上に俊敏で、容易に避けられてしまった、すぐに方向転換し、こちらへ向かって噛みつこうとして来る、俺達もそれを避ける、俺は相手が一瞬足を止めた時エアスライスを放ち、避ける方向を予測してウィーズから飛び、フェンリルの背中へ鎌を振り下ろす。


 「ギャーオーン!」


 辺りに血飛沫が舞い、フェンリルが暴れ出し、俺は振り回される。

 鎌と共に投げ飛ばされ地面に叩きつけられたが、そこまでダメージは受けなかった、ウィーズがすぐに俺を拾ってくれる、フェンリルの方を見ると、口を大きく開け氷の刃を放とうとしていた、自分に来た分もセシリーに来た分も鎌で弾いて防いだが、二本ほど左肩と右足をかすめた、感触は例えるならば、皮膚ごと持っていかれる感じだ、かすった一瞬の間、氷が俺の汗に反応してくっついたんだろう。


 ウィーズがエアスライスを放つ、さきほどの一撃が少し効いていたのか、避けられることなくフェンリルに直撃した、それでもまだフェンリルは倒れそうになく、こちらに向かってくる、とてもタフだな、俺は迎え撃とうと鎌を持ち直し、ウィーズに乗りながら翔ける、しかし突然ウィーズが失速した。


 「ウィーズ…?」


 足にさっきの氷が刺さってしまっていたのだ、俺は咄嗟にフェンリルに向かってエアスライスを放ち、俺だけに注意を引くように誘導する、自分の足で走りながらタイミングを伺う、あと一発だけ当てれば倒せそうだ。

 迷っているとウィーズが横からエアスライスを放つ、それは樹木を切り倒しフェンリルの尾を地面と挟む、身動きが取れなくなり、的となったフェンリルにさらに一撃を鎌で与え、倒れた。


 俺はすぐにウィーズの元へ近付き、声をかける。


 「大丈夫か!?、手当を…」

 「要らん」


 ウィーズは俺の声に冷たく返しすぐ消えてしまった、まぁいつも通りか。

 セシリー達が駆け寄って来た。


 「ネオ君!大丈夫?」

 「お兄ちゃん…」


 リリが驚いた様子だ、そうだ、ホリビスって言ってないもんな、不信感を抱かれても仕方がないか。


 「お兄ちゃんかっこよかった!」

 「え?」


 リリが大きく手を広げてテンションを上げ言う。


 「何あのイタチさん!凄い!」

 「あ、そうか、ありがとう」


 なんか思っていた反応と違う…。


 「リリちゃんは純粋な子だからね、多くの人がホリビスを嫌がっても、皆が皆そうなわけじゃないから」


 セシリーが俺の右肩に手を置き言った。

 そっか、でもこんなこと慣れていたつもりが、心構えしてしまっていたな。


 「あ、でもあんまり分からない所に無警戒に向かおうとしちゃ駄目よ、リリちゃん」

 「ごめんなさい…」


 セシリーに注意されリリがしゅんとしてしまった、まぁ間違ってないからな、反省はするべきだ。


 「ネオ君、体の手当てしてあげる」

 「え?これくらいは別にいいよ」


 傷のことを心配してくれたのか、少し痛むけど本当に大した事ない。


 「でもせめて傷口は洗わないと、それくらいはしよ?ね?」

 「…分かったよ」


 確かに、何があるか分からないし水で流すくらいはするか。


 「よし、じゃあ肩出して」


 あぐらをかいて座り、セシリーに肩を見せる。


 そういえばリリは?

 キョロキョロして首を振り探すと、リリがフェンリルの死体のそばでしゃがみ込み、フェンリルを見ていた。

 言ってる側から…するとリリが何か呟いているように聞こえた。


 「……たず」


 ん?なんて言ったんだろう。


 「リリちゃん?どうしたの?」

 「ううん、大きいなって思って」


 セシリーの質問に笑顔で答えるリリ、そうか、人間の約五倍ありそうだしな、そりゃ興味をそそられるよな。


 今日歩くのはもうお終いにしよう、みんな疲れただろうしな、でも初日からこんなに戦うなんて思わなかったな、裏で誰かが魔物を操ってたりして…

 ないか。

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