第11話

 馬車の中から景色を見渡し、いろんな所へ移動したが、ボッツはどこを見ても「ここじゃない」などと言って、全く記憶に合致する場所は見当たらないようだ。次第にボッツが俯き始める。


 しばらくしてセシリーが別の話を始める。


 「ボッツ君は将来なりたいものとかあるの?」


 ボッツはオドオドしながらもセシリーの問いに答えた。


 「オ、オレは将来、おとうみたいに強くなりたい」


 強くなるか、やっぱどの子供も親に憧れを抱くのは普通のことなんだな。


 「へー!すごく立派な夢じゃない、お父さんはすごい人なの?」

 「おとうは故郷で一番大きな魚を捕って来るんだ、おとうの仮の姿は格好良いんだ」


 すごく楽しそうにボッツは父親の話をする、だがその後再び俯き元気をなくす。


 「どうしたんだ?」


 俺は俯いたボッツの顔を覗き込み、心配になりながら聞いた。


 「でも、オレはきっとおとうみたいになれねぇ、泣き虫だし、すぐ道忘れるくらい鈍臭いし、集落の皆には馬鹿にされるし」


 自信ないのか、でも子供の頃なんて皆そんなもんだと思うけど、逆にこの歳になっても立派な大人になりたいとか言ってる俺は何なんだ。


 「大丈夫だよ、子供の頃なんて皆泣き虫だし、道なんかはもっと長く生きていくと自然に覚えるし、それに大人になっても覚えられない人もいるんだよ、馬鹿にして来るのなんて無視してがんばろ!そのうち見返せるくらいに強くなれるよ」

 「う、うん」


 セシリーがボッツを元気づけようと励ましの言葉を送った、きっと自分と同じ様に父親を尊敬する者としてシンパシーでも感じたんだろう。

 そうするとリリにも話かけようとするセシリー。


 「ねぇ、リリちゃんはどこから来たの?リリちゃんもそこまで一緒に行こうか」

 「私はねー、あっちの方!」


 リリは元気よく人差し指をピンと立て、北東の方角を指差した。だが俺達はそれを知って驚愕した。


 「嘘だろ!?あっちは確か巨人の森の方だぞ、あそこを超えてきたって言うのか?」


 驚きのあまり俺は大きな声でリリに問いかけた。


 「うん!」


 リリが純粋な顔で元気よく答える。


 「でもそれってどうやって…」


 セシリーが喋りかけた途端、大きな声が聞こえた。


 「馬車のやつ出てこい!」


 外に出ると、一人の大人のオーガがこっちに向かって槍一本で向かって走って来た。


 「オーガ!?おい待て、中にあんたと同じ奴が」

 「でいやー!」


 話を聞いてくれる感じではなさそうだ、俺は鎌で迎えようと構える。敵は鋭い一突きを差し込んできた、俺は受け流し、その流れで思い切り鎌を振り下ろした、敵がそれを避け振り下ろした鎌は地面に深く突き刺さる、すぐに俺はそれを抜いて構えなおす、敵が再び鋭い突きを差し込む、今度は何回も、俺もされてばかりではなく何度も鎌を振り切りつけた、その後、何度かお互いの武器をぶつけ合い辺りに金属音が鳴り響いた。


 敵は腰に隠し持った何かを取り出し、俺に向けて投げてきた、小袋のようなものだ、そこから砂が撒き散らされ俺は目を閉じてしまう、少しの間だけ何も見えなかったがすぐに目を開けると、目の前には誰もいなかった。目をくらませてふいを狙うつもりか…どこにいる?


 「でいやー!」


 上から声がする、上を見ると目の前に槍が刺さって来そうだった、咄嗟に鎌で受け流しことなきを得る、にしても策を考えて来たにしては無鉄砲だな、オーガはそう言う奴が多いのか?

 考える暇は無い、次は俺から仕掛けるか、動き出そうとしたその時、ボッツが呼びかけた。


 「おとん!やめて!」

 「…ボッツ?」


 オーガの男が槍を下げる、俺も同じ様に鎌を下げた。


 後にボッツから話を聞き、男は状況を理解してくれた、彼は”グリー”と言って、ボッツの父親らしい、俺達が馬車から降りて、ボッツに景色に見覚えがあるか確かめていく内に、グリーは俺たちを見つけてボッツが攫われていると思い、いつ取り返そうかタイミングを見計らっていたらしい。


 「すまない、息子を助けてくれていたとは知らなくて」

 「いえいえ、私たちも何も考えず連れて行ってしまってすいません」


 グリーの謝罪にセシリーが返事をする。


 「君もいきなり攻撃してすまなかったな」

 「いや、子供のためなら普通の判断だと思うよ」


 俺も謝罪されたので返した。


 「あと、ここまで連れて来てくれたそちらの方も」

 「え、あ、あぁ」


 御者は馬車の影に隠れていた。


 「何かお礼をしたいのだが、良かったら俺達の集落まで来ないか」


 グリーからのお招きだが、セシリーは遠慮する。


 「嬉しいんですがすみません、私達行かなきゃいけない場所があって、そこまでは寄り道できないんです」

 「そうか、ならちょっと待ってくれ」


 グリーは少し離れてすぐ戻ってきた、片手に下処理済みの生肉を持っていた。


 「せめてこれだけは持って行ってくれ、息子の恩人に何もできないのはオーガの戦士としての恥だ」

 「分かりました、こちらは受け取っておきます」


 セシリーが受け取った、流石に恥とまで言われたら受け取らない方が失礼だしな。

 ボッツが俺の前に来た、何か言いたそうにもじもじして黙っていたが、気持ちを固めたような素振りで喋り出す。


 「兄ちゃん格好良かった!おとうとあんなに互角に戦えるなんてすごい!…オレもいつかさ、あーなるから」


 ボッツが宣言した、いつか強くなるか、なんか嬉しいなー、俺がそんなこと言われるなんて、俺は黙ってボッツの頭を撫でた。

 グリーは安心して気が抜けたのか、次のことを右手で後頭部を触りながら話し始めた。


 「いや本当に、途中道に迷って結果オーライだった!こうやってボッツにも会えたし」

 「え!?」


 ボッツがグリーを見上げ驚愕した表情で、その言葉に大きく反応した。

 俺とセシリーが笑い、後のみ皆も釣られて笑っていた。結局血は争えないと言うことか。


 「本当に感謝する、ではこれで」


 親子は手を振りながら、遠くへ小さくなって消えて行く。



***



 「ねぇネオ君、ごめんね、二人連れて行くってことはネオ君の負担が増えてるってこと、考えてなかった」


 馬車の中、セシリーは俺に謝罪した、俺は別に気にしていなかったが、謝ってくれるのはそれだけ俺を気遣おうと意識してくれているんだろうな。


 「いや、全然大丈夫だよ、俺は大変じゃなかったし、それに、こういうのがお父さんの教えなんだろ?」

 「ネオ君…そうね、ありがと!」


 俺に理解を示されて嬉しかったのか、満面の笑みだ。

 そして、もう一人一緒に旅する仲間ができた。


 「よろしくね、リリちゃん!」

 「はーい!」


 セシリーの膝にリリが座り甘える姿が微笑ましい。

 本人曰く、帰る場所が俺たちの目的地の方角と同じなため、しばらく旅を共にすることになった。


 行き先はひとまず巨人の森、そこに着いたら馬車からは降りて三人だけだ、その時に向けて気を引き締めないとな、あと、リリは結局どうやってここまで来たんだ?

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