第10話
俺は馬車が見えるくらいの少し遠めの草むらの上で昼寝、セシリーは道を挟んだ俺の向かいにある木にもたれ座りながら本を読んでいる。
遠くから御者を見ると、馬が起きるのを気長に待っている姿が見える、刺激しすぎてもいけないしな、でもこんなことなかなか無いだろうし大変だろうな、まぁこっちも気長に待つしか無いか。
それにしてもいい天気だ、日差しの暖かさも風の強さも丁度いい、このまま眠ってしまいそうだ。
こうして横になりぼーっとしていると、右耳の方にカサカサッと音が聞こえた、最初は虫か何かかと思い右手を耳の横で振った。どうにも気になったので右を向いて見てみると、そこには二人の子供が立っていた、片方の左にいる子供は、フードを被っていて顔がよく見えなかったが、もう片方の子供はまた別の格好をしており、安そうな服とズボンで顔はしっかり出ている、見た目は女の子、髪は腰まで伸びた綺麗で特徴的なターコイズ色、身長は左の子より少し大きく同い年ではなさそうだ。
俺は状態を起こし立ち上がり、二人にどうしたのかと尋ねようと近付こうとした所、突然御者が間に入り声を上げる。
「危ねぇぞ!」
そう言って御者は俺を片手で押さえ、短剣を抜き子供に向けて距離を取った、突然のことに俺は状況を理解できなかったが、片方の子供がフードを脱ぎ正体を自ら見せる。
その子供の頭にはツノが生えており、肌も赤色でヒト族では無いことは確かだった、そう、おそらくこの子は”オーガ”と言う魔族だ、魔族はホリビスと同じように怖がられたり差別されたりする、御者はそれをいち早く気付いて助けに来たんだ。
だが子供は襲ってくる様子はなくどちらかというと怖がっている。何より隣にいる少女はオーガの子を怖がっていない、二人は一緒にここまで来たはずだ、だから一度話を聞いてみた方がいい気がする。
「待って!」
ほんの十秒考え今思ったことを俺が話そうと思った時、セシリーが御者の前に立ちそう言った。
「嬢ちゃん、こいつはオーガだぞ、魔族なんだぞ!」
「でもこの子はまだ何もしてないじゃないですか、魔族だからって刃物まで出さなくていいでしょ!」
二人がずっと口論をしていると、オーガの子が泣いてしまった。
「う、うぅ、おかあ、おとーん!」
いきなり泣いてびっくりしたが、普通に考えたら刃物なんて出されて、二人の大人が怖い顔で喧嘩しだしたら泣きたくなるのも分かる。隣の少女が慰めているな、やはり話を聞いてあげた方が良さそうだ、御者もそう思ったのか、短剣をしまった。
「えーっと、こんにちは、私はセシリー、二人のお名前は?」
セシリーが子供達の身長に合わせ屈み尋ねる、すると少女が慰めて撫でてあげてた手を止め、それに応えた。
「私はリリ、九歳、この子はボッツ、七歳の男の子」
そして何でこんな所に二人っきりでいたのかも尋ねる、驚くほどの話でもない、迷子だった。どうやらこの近くにオーガのいる集落があるらしく、そこから離れているうちに道がわからなくなって彷徨っていた所に、リリや俺達と遭遇したらしい。
「じゃあどうするんだ?俺達も一緒に探すか、帰る場所」
俺はセシリーに無表情で聞いた。
「そうしてあげたいけど、魔族の住んでる場所なんてそうそう私たちには見つけられないだろうしね」
そうだ、今俺達がいるミディ大陸は古代、魔族大陸と言う所だったと言われている、魔族が住む場所と言えば魔族大陸だったらしい、でもそんな場所はヒト族に奪われ、各魔族達はヒト族に見つからないように、現代では隠れて集落を作り暮らしているらしい、ピオットと言うグラン大陸にあるドワーフの住処に一部入れてもらった魔族もいるらしいが、それ以外は全く目撃されたことが無い、だから俺達にはどこが集落かを探すのは至難の業だ。
「オ、オレ、景色だけなら…何となく…分かるかも」
ボッツが口を開いた、それに対しセシリーが即座に反応する。
「本当!?じゃあ馬車に乗って色々景色見て回りましょう」
「ちょと待て!魔族を乗せるなんて正気かよ」
セシリーの提案に御者が手を大きく振り反対する。また喧嘩してしまうのかと思ったが、反応は予想とは違った。
「お願いします、お金多く払うから!何かあったら更に払うし」
彼女は御者に手を合わせお願いする、御者は少し押され気味になるが、問題点があることを告げる。
「でもよぉ、俺の馬がうごかねぇことには…え?」
御者が渋りながら馬車の方を見ると、馬が起き始めていた、これで出発できてしまうわけだ。
「もう分かったよ、魔族でもホリビスでも何でも乗せやがれ」
今の言葉に少しだけビクッとしたのは俺の中だけの話だ。
こうして二人多く乗せ、出発することになった。
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