第8話
目的の店、乾物屋に到着すると、そこには一人の恰幅が良い夫人が立っていた。
店の外観はオーニングが上に張られていて、下には樽、四角い木箱などの中に、いっぱいのドライフルーツが盛られており、その上にも同様の物が吊るされていた。
「はい寄ってらっしゃい見てらっしゃい!お?仲が良さそうなご姉弟さんだこと」
夫人は両手の掌を胸の前で合わせ言った。
今姉弟に間違えられたか、まぁ否定するのも面倒臭いしどうでも良いか。
「いらっしゃいませ〜、何をお求めですか?」
「えーっと、これとこれと、あとこの吊るしてあるやつ下さい!」
「はいはい、えー、全部でリヘイム銅貨二枚のお買い上げですよ!」
セシリーは注文を済ませると、金を払いテンポ良く買い物を俺の前で済ませた。
にしてもここら辺は銅貨でも良い買い物ができるんだな、ベルスティアだとはした金なのに、とは言えこっちだってたくさん持っているわけではないから、しっかり節約しないと。
「坊や、お姉ちゃんの言う事聞いてお手伝い頑張りなよ!」
そう言って夫人は、俺達に手を振って見送った。
どうでも良いけど俺は一応十五、成人なんだが、小柄だからか子供だと思われることが多い、どうでも良いんだがな…いや本当に。
するとセシリーのこちらへの視線に気付く、何だか微笑ましそうにこちらを見ている。
「何だよ」
ぶっきらぼうに俺は聞いた。
「意外と表情に出やすいなって思って」
何を言われているのか俺には理解できなかったが、なんか少しイラッとした。
「次は服屋だな、俺は今の服のままでもいいが、セシリーは上に何か羽織れる物があった方が良いだろ、金が勿体無いし」
「え⁉︎、でもネオ君マントの下タンクトップじゃん、絶対ネオ君も買った方が良いよ」
こっちに顔を近付け、念を押すようにセシリーは言った。
「で、でも、俺は上にマント羽織ってるだけで十分だから、今までもこれでやってこれたし」
「ダメだよ!寒いよ、森の中は」
さらに顔を近付け、俺の手を握りセシリーは言った。
なんか本当に姉弟みたいだな、まさか周りの目を誤魔化そうとしているのか?、いや何のために?、まぁ多分本気言っているんだろうな。
「でも金がかかるぞ?下手したら予算内はみ出るし」
「それは私に任せて!」
セシリーは胸に手を当てて、自信満々な顔でこちらを見ている。
とりあえず彼女の言う通りに付いて行き、服屋に到着する、服屋とは言ってもここはおそらく古着屋で、外観は屋根がなく、地面に大きな敷物を敷いて、その上には店主らしきおじさんが座っており、店主の周りには状態の良い服から、少し着古されたのが分かる、値札の付いた服がいっぱい置かれていた。
確かにここなら安く買えるかもだけど、結局寒さを凌ぐ目的だと安い物は生地薄いし意味無いぞ?かと言ってしっかり状態が良いとそれなりに値が張るし。
「いらっしゃい」
店主がこちらに気付き、快く挨拶してくれた。それに対して俺は一礼し、
「お邪魔します、ちょっと見させてもらいますね」
店主は、毛量の多い無精髭を生やした見た目でありながら、意外にも着ている服や、身につけているものはそこまで見窄らしくはない、良くも悪くも普通の格好、貧乏人というほどじゃない。
まずセシリーは品物を吟味し、一着の分厚いローブに目をつけた。
「こちらのローブが欲しいんですが」
「あ〜、これはと銀貨一枚だな、払えるかい?」
高いな、まぁそれぐらいはかかるか、古着とは言えしっかりした綺麗な服だし。
そんな事を思ってただ眺めていたら、セシリーが店主に返答した。
「え?でもそれと同じ服を前に別の店で見た事があるんですけど、そこではと銅貨六枚だった気がするなぁ」
値下げしてもらうつもりか!いや、でも流石に無理だろ…。
恐る恐る店主の方を見てみると、その表情は何故か部が悪そうにしていた。ソワソワして落ち着きがなさそうである。
「あ!そう言えばここら辺最近犯罪増えてるんですってね、私リヘイム国の兵士さんには何人か知り合いがいるんですよ〜、何かあったらぜひ言ってくださいね?」
そしてセシリーは膝へ両手を置き、内股の中腰で店主の目をじっと見つめ、圧をかけ続ける。
「ど〜かな〜?…」
「……分かった、銅貨六枚だろ?良いよ、それで良いよ」
店主が折れた、不貞腐れた顔で立ち上がる。
「ふふ、ありがとうございまーす!」
本当に安く買えた…。
結果的にもう一着また別のローブを買ったが、銀貨一枚と銅貨六枚の支払いになる所を、銀貨一枚と銅貨二枚で安く、予算内に収める事ができた。
帰り道、俺はすぐさま話を聞く。
「なぁ、あれって結局どうなって成功してたんだ?」
俺は前屈みになり横から顔を覗き込み問う、セシリーがこっちを見ながら口角を上げ、前を見直し説明を始めた。
「何でもないよ、ちょっと脅しただけ」
「何を脅したんだ?」
興味津々で俺は続けて聞いた。
「あの人多分ぼったくりだよ、今日買ったローブ実際に前に見たけど、明らかにあんな値段で売られてなかったもん」
「え!?、じゃあ元々は銅貨六枚の服を俺たちは高く買わされそうだったって事か」
「ううん、実際は銅貨八枚くらいだったよ、それじゃあ安く買いたいのに買えてないじゃん、少し値切ったんだ」
「あー、そうか」
なるほど、じゃあさっき急にリヘイムの兵士がどうとか言ってたのは、遠回しに「お前の事いつでも通報できるからな」って言いたかったのか、確かにそれがはったりかどうかは分からなくても、少しでも最悪の事態を想像すると、もう早く売って遠ざけたいもんな、今頃急いで店畳んで逃げてんのかな。
「でも最初からあの店を把握してた訳じゃないだろ?なんで最初から自信満々だったんだ?」
セシリーは淡々と冷静に応える。
「まぁこんな事言うのもなんだけど、あのおじさん身だしなみと服のチョイスがアンバランスって言うか、明らかに最近稼ぎが良くなった人って感じがしたんだよね、全員がそうとは言わないけど、それなのに古着屋をやってるのは、何かしらアコギな商売してんのかな〜って疑っちゃうんだよね、そう言う人を探して近付いてみたら大体当たってるの」
…意外と賢い、いや、ずる賢いな、まぁでも今回は相手がぼったくろうとしてた訳だし、そんなに悪くはないか。
「じゃあ今日はもう宿に戻ろっか」
セシリーが小走りで前へ出て振り返り、オレンジ色の暖かい夕日を背にして言った。
何故かとても神々しく見える、陽の光は不思議なものだ。
「そうだな、目的の物は買えたし」
こうして俺達の一日目は終わり、準備を終えたのだった。
俺は部屋に入って荷物を置き、一日中歩き回った体を、ベッドに叩くように倒れ横になり考えた。
セシリー・フェイルス、正直まだ彼女の事はよく分からない、船上の時は子供を体を張って助け、正義感のある一面が見え、今日見えた一面は抜け目なく、手に入れられる物は手に入れる姿勢、まぁまだ分らないのも当然か、彼女のこ事はこれから知っていけば良い。
俺も二年間ずっと馬鹿みたいに戦ってきた訳じゃない、着実に大人になっているはずだ、
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