第2話 話の整理、旅の目的、そして準備
港町から乗合馬車で五時間、”領地マルコナ”の村にある宿の一室、俺は目を覚ました。部屋を出て待合室へ行くと、セシリーの姿が見えた。早いな、俺もだいぶ早起きなはずなのに。
セシリーがこちらに気付いて駆け寄ってきた。
「あ!おはよう、ネオ君!」
「あぁ、おはよう」
船で喋った時みたいに元気そうで良かった、あのまま最悪の空気で居たらきっとこんなに明るく挨拶してくれなかっただろうな、それにしても頼りにしてるって…、そんな言葉で照れてる俺もどうかしてるな。
宿を出て朝食を食べた後、旅の具体的な目的を聞くことになった。
セシリーが机を挟んで俺の前に座り、話を始め出す。
「えーっと、何から話そうかな、まず私は”ベルスティア国”で考古学者としてお仕事をしているの、発掘された遺跡とか遺物を調べて歴史を研究するお仕事、今回の仕事は色々と危険が伴うから、実力ある人を養成するって言われてネオ君が来たのね」
先に自分の素性から話し始めたセシリーへ、俺も自分の事を話す。
「なるほど、ちなみに俺は正規の軍人ではなく、ただの都合の良いベルスティアの傭兵だ。約一年半近く様々な紛争地帯を渡り歩き戦って来た、都合が良すぎて傭兵の仕事以外の事も頼まれてしまったけど」
セシリーは苦笑した。どこに苦笑したのかと言うと、間違い無く後半の部分の事だろう。
そう、俺はベルスティア国の傭兵として生きていた。本当はラウル達と別れた後、再び冒険者として頑張ろうと思っていたのだが、俺をパーティに入れてくれる人がおらず途方に暮れていた所、ベルスティアで傭兵を雇う組織、”リヴィアス傭兵団”の存在を知り、そこにお願いして働かせて貰える事になった。傭兵は捨て駒だったり実力主義みたいな所があるらしいので、ホリビスである俺でも容易に入ることができた。
ベルスティアでは、定期的に領地争いや資源の奪い合いなどの理由で戦争が断続的に起こっている、まぁどこの国でもあることだ、今は一時的に半年前から争いが治っていて、俺の手が余っていたためこの仕事に呼ばれたと言うわけだ。
「で、ここからが本題」
話を切り替え、セシリーが真面目な顔でこちらを見つめる。
「世界には共通のマークがついた九つの物品が、各地どこかに散らばっているらしいの、一つは小さな箱だったり、その他の一つは神を模した様な人形だったりで様々なんだけど、私達の目的はその物品集めって事」
「へー、それは歴史上何かすごい物なのか?」
俺はただ素朴な疑問として、その九つの物品について質問した。俺の問いにセシリーは、眉間に皺を寄せ悩んだ顔をして答えた。
「それは、実はまだ私にもよくは分かっていないの」
「え?」
「いったいどこから出て来たのか、誰が作ったのかも今の所誰にも分かっていないらしいわ」
分からないって、いったいなんでそんな物欲しがるんだろうか、何かあるのは間違い無いんだろうけど。
「ただ今知っているのは、それを欲しがっている人が他にもいるって事」
人差し指をピンと立て、前のめりになりセシリーは言った。
「つまり、知っている人にとってはそれだけの価値があるのは確かか」
俺は何となく理解を示すように、言葉を返す。
「うん、でもまぁそれを歴史を元に解明するのがそもそもの私の仕事だから」
「でも九つってなるとなかなか大変そうだな、一箇所に二つもあるわけないし」
そうだ、世界中を駆け回って九つ、多いし世界って考えると探すのも凄い長くなりそうだ。
「何か手掛かりとかあったりするのか?」
そこでセシリーが、一枚の大きな紙を鞄から取り出して広げ、説明を始める、世界地図だった。
「今私たちがいるのがこの”リへイム国”の領地、マルコナでしょ、ここから南へ向かって行くとリヘイム首都」
すごい綺麗な地図だなぁ、大きな山脈や河川のラインとか、大陸の形も細かな所まで描かれている。
まじまじと眺めていると、所々に渦巻きのマークが書かれていることに気付いた。最初は渦潮かと思ったが、海の場所以外にもその印はあるようだ。
「なぁ、この所々にある渦巻きのような印はなんだ?」
セシリーは、俺と目を合わせると口角を上げ、再び地図へと目を向ける、そして渦巻きを指差し喋り出す。
「そう、この印について話したかったの!」
嬉しそうな声色でセシリーは言う。
「これは”魔力地帯”を表す印、この事はネオ君も知ってるよね」
「あぁ、昨日言ってたな、確か魔石がどうのこうのって」
魔力地帯、濃密な魔力が漂う場所の事、その場所に何千年も置かれた石は、魔力に触れ続け魔石となる。あたりが魔力で溢れているので、魔物も集まり、しかも強い。
「でもそれがこれから探しに行く物品と何の関係があるんだ?」
話が見えない俺はセシリーにはっきりと聞いた。
「実は物品は九つの内二つはもう発見されてて、ベルスティアに保管されてるんだけど、その二つともある共通点があったの」
「共通点?」
一体なんだ?、めちゃくちゃでかいとか?あるいは印的なものか?
セシリーが瞬きをする間も無いうちに喋る。
「その物品二つは、どちらも魔力地帯の中で発見されたらしいわ」
「って事は…」
「そう、これは仮説でしかないけど、おそらく他のまだ見つかってない物品は、魔力地帯の中に有る可能性が高い」
なるほどな、確信はないけど他に可能性も無さそうだし、とりあえずはそっちの方向で探して行くのが良さそうだな、それに、九つだと思っていたのが残り七つになって何だか気が楽になってきたな。
「確かに可能性はゼロではないし、そこら辺を見てみる価値はありそうだな」
「うん!、ここから一番近いのは、東の方角の魔力地帯、だからまずはその近くの大きな町、”リスコプール”へ、昨日あんな事があったから、当初の目的地とは違うけど、とりあえず今はここへ向かいましょう」
「うん、分かった」
その後、話がまとまった俺達は、準備を進めるべく市場へ向かった。ホリビスの紋章は勿論マントで隠しておく、これを見られたら大変な事になるからな。
目的地は”マリウド国”の領地、リスコプール、簡単には言うがその間にもいくつかの難関がある。それに備えてポーションを買うなり、色々な道具を揃えておく必要があったのだ。
この市場では遠くの村から、田舎からなどいろんな所から様々な商人達が集う、俺達はそんな市場を見回しながら歩いていた。
「他は何が必要なのかな?」
セシリーが買った物を詰めた袋を抱え歩きながら言う。
「そうだなー、リスコプールまでの道のりの間で一番の難関と言えば、世界で最長最深の”死の峡谷”、そこを超えた先、”巨人の森”だ」
「確かにあそこは危険かもね」
「あの森を越えるためには、方向感覚を失わない事と、長い間森の中を歩いて行くから日持ちする食料は必須だな後ずっと暗い所を歩いて行くから厚手の服も欲しい」
巨人の森とは言っても、本当に巨人が居るわけではなく、木々や草、岩などの全てが不自然に、まるで巨人サイズなので、その名前が名付けられた。そのため、普通の森とは比べるまでもなく、通過し抜けるまで時間がかかるのだ。
なぜそこまで大きいのかは、魔力地帯が影響していると言われている。昨日のセシリーの話によると、魔力地帯付近では普段見られない現象や状態を拝めると言う、なので巨人の森の他にも、魔力地帯の影響で各地に様々な不思議にお思える場所が存在するらしい。
「じゃあドライフルーツとかいっぱい買わないとね、ほら、あっちだよ!」
セシリーは俺の手を引っ張り連れて行ってくれた。
昨日から思っていたが、学者にしては結構わんぱくだよな、別に暗いやつを想像してたわけじゃないが、正直もう少し気難しいのを想像していたから意外だった。
目的の店、乾物屋に到着すると、そこには一人の恰幅が良い夫人が立っていた。
店の外観はオーニングが上に張られていて、下には樽、四角い木箱などの中に、いっぱいのドライフルーツが盛られており、その上にも同様の物が吊るされていた。
「はい寄ってらっしゃい見てらっしゃい!お?仲が良さそうなご姉弟さんだこと」
夫人は両手の掌を胸の前で合わせ言った。
今姉弟に間違えられたか、まぁ否定するのも面倒臭いしどうでも良いか。
「いらっしゃいませ〜、何をお求めですか?」
「えーっと、これとこれと、あとこの吊るしてあるやつ下さい!」
「はいはい、えー、全部でリヘイム銅貨二枚のお買い上げですよ!」
セシリーは注文を済ませると、金を払いテンポ良く買い物を俺の前で済ませた。
にしてもここら辺は銅貨でも良い買い物ができるんだな、ベルスティアだとはした金なのに、とは言えこっちだってたくさん持っているわけではないから、しっかり節約しないと。
「坊や、お姉ちゃんの言う事聞いてお手伝い頑張りなよ!」
そう言って夫人は、俺達に手を振って見送った。
どうでも良いけど俺は一応十五、成人なんだが、小柄だからか子供だと思われることが多い、どうでも良いんだがな…いや本当に。
するとセシリーのこちらへの視線に気付く、何だか微笑ましそうにこちらを見ている。
「何だよ」
ぶっきらぼうに俺は聞いた。
「意外と表情に出やすいなって思って」
何を言われているのか俺には理解できなかったが、なんか少しイラッとした。
「次は服屋だな、俺は今の服のままでもいいが、セシリーは上に何か羽織れる物があった方が良いだろ、金が勿体無いし」
「え⁉︎、でもネオ君マントの下タンクトップじゃん、絶対ネオ君も買った方が良いよ」
こっちに顔を近付け、念を押すようにセシリーは言った。
「で、でも、俺は上にマント羽織ってるだけで十分だから、今までもこれでやってこれたし」
「ダメだよ!寒いよ、森の中は」
さらに顔を近付け、俺の手を握りセシリーは言った。
なんか本当に姉弟みたいだな、まさか周りの目を誤魔化そうとしているのか?、いや何のために?、まぁ多分本気言っているんだろうな。
「でも金がかかるぞ?下手したら予算内はみ出るし」
「それは私に任せて!」
セシリーは胸に手を当てて、自信満々な顔でこちらを見ている。
とりあえず彼女の言う通りに付いて行き、服屋に到着する、服屋とは言ってもここはおそらく古着屋で、外観は屋根がなく、地面に大きな敷物を敷いて、その上には店主らしきおじさんが座っており、店主の周りには状態の良い服から、少し着古されたのが分かる、値札の付いた服がいっぱい置かれていた。
確かにここなら安く買えるかもだけど、結局寒さを凌ぐ目的だと安い物は生地薄いし意味無いぞ?かと言ってしっかり状態が良いとそれなりに値が張るし。
「いらっしゃい」
店主がこちらに気付き、快く挨拶してくれた。それに対して俺は一礼し、
「お邪魔します、ちょっと見させてもらいますね」
店主は、毛量の多い無精髭を生やした見た目でありながら、意外にも着ている服や、身につけているものはそこまで見窄らしくはない、良くも悪くも普通の格好、貧乏人というほどじゃない。
まずセシリーは品物を吟味し、一着の分厚いローブに目をつけた。
「こちらのローブが欲しいんですが」
「あ〜、これはと銀貨一枚だな、払えるかい?」
高いな、まぁそれぐらいはかかるか、古着とは言えしっかりした綺麗な服だし。
そんな事を思ってただ眺めていたら、セシリーが店主に返答した。
「え?でもそれと同じ服を前に別の店で見た事があるんですけど、そこではと銅貨六枚だった気がするなぁ」
値下げしてもらうつもりか!いや、でも流石に無理だろ…。
恐る恐る店主の方を見てみると、その表情は何故か部が悪そうにしていた。ソワソワして落ち着きがなさそうである。
「あ!そう言えばここら辺最近犯罪増えてるんですってね、私リヘイム国の兵士さんには何人か知り合いがいるんですよ〜、何かあったらぜひ言ってくださいね?」
そしてセシリーは膝へ両手を置き、内股の中腰で店主の目をじっと見つめ、圧をかけ続ける。
「ど〜かな〜?…」
「……分かった、銅貨六枚だろ?良いよ、それで良いよ」
店主が折れた、不貞腐れた顔で立ち上がる。
「ふふ、ありがとうございまーす!」
本当に安く買えた…。
結果的にもう一着また別のローブを買ったが、銀貨一枚と銅貨六枚の支払いになる所を、銀貨一枚と銅貨二枚で安く、予算内に収める事ができた。
帰り道、俺はすぐさま話を聞く。
「なぁ、あれって結局どうなって成功してたんだ?」
俺は前屈みになり横から顔を覗き込み問う、セシリーがこっちを見ながら口角を上げ、前を見直し説明を始めた。
「何でもないよ、ちょっと脅しただけ」
「何を脅したんだ?」
興味津々で俺は続けて聞いた。
「あの人多分ぼったくりだよ、今日買ったローブ実際に前に見たけど、明らかにあんな値段で売られてなかったもん」
「え!?、じゃあ元々は銅貨六枚の服を俺たちは高く買わされそうだったって事か」
「ううん、実際は銅貨八枚くらいだったよ、それじゃあ安く買いたいのに買えてないじゃん、少し値切ったんだ」
「あー、そうか」
なるほど、じゃあさっき急にリヘイムの兵士がどうとか言ってたのは、遠回しに「お前の事いつでも通報できるからな」って言いたかったのか、確かにそれがはったりかどうかは分からなくても、少しでも最悪の事態を想像すると、もう早く売って遠ざけたいもんな、今頃急いで店畳んで逃げてんのかな。
「でも最初からあの店を把握してた訳じゃないだろ?なんで最初から自信満々だったんだ?」
セシリーは淡々と冷静に応える。
「まぁこんな事言うのもなんだけど、あのおじさん身だしなみと服のチョイスがアンバランスって言うか、明らかに最近稼ぎが良くなった人って感じがしたんだよね、全員がそうとは言わないけど、それなのに古着屋をやってるのは、何かしらアコギな商売してんのかな〜って疑っちゃうんだよね、そう言う人を探して近付いてみたら大体当たってるの」
…意外と賢い、いや、ずる賢いな、まぁでも今回は相手がぼったくろうとしてた訳だし、そんなに悪くはないか。
「じゃあ今日はもう宿に戻ろっか」
セシリーが小走りで前へ出て振り返り、オレンジ色の暖かい夕日を背にして言った。
何故かとても神々しく見える、陽の光は不思議なものだ。
「そうだな、目的の物は買えたし」
こうして俺達の一日目は終わり、準備を終えたのだった。
俺は部屋に入って荷物を置き、一日中歩き回った体を、ベッドに叩くように倒れ横になり考えた。
セシリー・フェイルス、正直まだ彼女の事はよく分からない、船上の時は子供を体を張って助け、正義感のある一面が見え、今日見えた一面は抜け目なく、手に入れられる物は手に入れる姿勢、まぁまだ分らないのも当然か、彼女のこ事はこれから知っていけば良い。
俺も二年間ずっと馬鹿みたいに戦ってきた訳じゃない、着実に大人になっているはずだ、
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