第7話
語り手:ネオ
港町から乗合馬車で五時間、”領地マルコナ”の村にある宿の一室、俺は目を覚ました。部屋を出て待合室へ行くと、セシリーの姿が見えた。早いな、俺もだいぶ早起きなはずなのに。
セシリーがこちらに気付いて駆け寄ってきた。
「あ!おはよう、ネオ君!」
「あぁ、おはよう」
船で喋った時みたいに元気そうで良かった、あのまま最悪の空気で居たらきっとこんなに明るく挨拶してくれなかっただろうな、それにしても頼りにしてるって…、そんな言葉で照れてる俺もどうかしてるな。
宿を出て朝食を食べた後、旅の具体的な目的を聞くことになった。
セシリーが机を挟んで俺の前に座り、話を始め出す。
「えーっと、何から話そうかな、まず私は”ベルスティア国”で考古学者としてお仕事をしているの、発掘された遺跡とか遺物を調べて歴史を研究するお仕事、今回の仕事は色々と危険が伴うから、実力ある人を養成するって言われてネオ君が来たのね」
先に自分の素性から話し始めたセシリーへ、俺も自分の事を話す。
「なるほど、ちなみに俺は正規の軍人ではなく、ただの都合の良いベルスティアの傭兵だ。約一年半近く様々な紛争地帯を渡り歩き戦って来た、都合が良すぎて傭兵の仕事以外の事も頼まれてしまったけど」
セシリーは苦笑した。どこに苦笑したのかと言うと、間違い無く後半の部分の事だろう。
そう、俺はベルスティア国の傭兵として生きていた。本当はラウル達と別れた後、再び冒険者として頑張ろうと思っていたのだが、俺をパーティに入れてくれる人がおらず途方に暮れていた所、ベルスティアで傭兵を雇う組織、”リヴィアス傭兵団”の存在を知り、そこにお願いして働かせて貰える事になった。傭兵は捨て駒だったり実力主義みたいな所があるらしいので、ホリビスである俺でも容易に入ることができた。
ベルスティアでは、定期的に領地争いや資源の奪い合いなどの理由で戦争が断続的に起こっている、まぁどこの国でもあることだ、今は一時的に半年前から争いが治っていて、俺の手が余っていたためこの仕事に呼ばれたと言うわけだ。
「で、ここからが本題」
話を切り替え、セシリーが真面目な顔でこちらを見つめる。
「世界には共通のマークがついた九つの物品が、各地どこかに散らばっているらしいの、一つは小さな箱だったり、その他の一つは神を模した様な人形だったりで様々なんだけど、私達の目的はその物品集めって事」
「へー、それは歴史上何かすごい物なのか?」
俺はただ素朴な疑問として、その九つの物品について質問した。俺の問いにセシリーは、眉間に皺を寄せ悩んだ顔をして答えた。
「それは、実はまだ私にもよくは分かっていないの」
「え?」
「いったいどこから出て来たのか、誰が作ったのかも今の所誰にも分かっていないらしいわ」
分からないって、いったいなんでそんな物欲しがるんだろうか、何かあるのは間違い無いんだろうけど。
「ただ今知っているのは、それを欲しがっている人が他にもいるって事」
人差し指をピンと立て、前のめりになりセシリーは言った。
「つまり、知っている人にとってはそれだけの価値があるのは確かか」
俺は何となく理解を示すように、言葉を返す。
「うん、でもまぁそれを歴史を元に解明するのがそもそもの私の仕事だから」
「でも九つってなるとなかなか大変そうだな、一箇所に二つもあるわけないし」
そうだ、世界中を駆け回って九つ、多いし世界って考えると探すのも凄い長くなりそうだ。
「何か手掛かりとかあったりするのか?」
そこでセシリーが、一枚の大きな紙を鞄から取り出して広げ、説明を始める、世界地図だった。
「今私たちがいるのがこの”リへイム国”の領地、マルコナでしょ、ここから南へ向かって行くとリヘイム首都」
すごい綺麗な地図だなぁ、大きな山脈や河川のラインとか、大陸の形も細かな所まで描かれている。
まじまじと眺めていると、所々に渦巻きのマークが書かれていることに気付いた。最初は渦潮かと思ったが、海の場所以外にもその印はあるようだ。
「なぁ、この所々にある渦巻きのような印はなんだ?」
セシリーは、俺と目を合わせると口角を上げ、再び地図へと目を向ける、そして渦巻きを指差し喋り出す。
「そう、この印について話したかったの!」
嬉しそうな声色でセシリーは言う。
「これは”魔力地帯”を表す印、この事はネオ君も知ってるよね」
「あぁ、昨日言ってたな、確か魔石がどうのこうのって」
魔力地帯、濃密な魔力が漂う場所の事、その場所に何千年も置かれた石は、魔力に触れ続け魔石となる。あたりが魔力で溢れているので、魔物も集まり、しかも強い。
「でもそれがこれから探しに行く物品と何の関係があるんだ?」
話が見えない俺はセシリーにはっきりと聞いた。
「実は物品は九つの内二つはもう発見されてて、ベルスティアに保管されてるんだけど、その二つともある共通点があったの」
「共通点?」
一体なんだ?、めちゃくちゃでかいとか?あるいは印的なものか?
セシリーが瞬きをする間も無いうちに喋る。
「その物品二つは、どちらも魔力地帯の中で発見されたらしいわ」
「って事は…」
「そう、これは仮説でしかないけど、おそらく他のまだ見つかってない物品は、魔力地帯の中に有る可能性が高い」
なるほどな、確信はないけど他に可能性も無さそうだし、とりあえずはそっちの方向で探して行くのが良さそうだな、それに、九つだと思っていたのが残り七つになって何だか気が楽になってきたな。
「確かに可能性はゼロではないし、そこら辺を見てみる価値はありそうだな」
「うん!、ここから一番近いのは、東の方角の魔力地帯、だからまずはその近くの大きな町、”リスコプール”へ、昨日あんな事があったから、当初の目的地とは違うけど、とりあえず今はここへ向かいましょう」
「うん、分かった」
その後、話がまとまった俺達は、準備を進めるべく市場へ向かった。ホリビスの紋章は勿論マントで隠しておく、これを見られたら大変な事になるからな。
目的地は”マリウド国”の領地、リスコプール、簡単には言うがその間にもいくつかの難関がある。それに備えてポーションを買うなり、色々な道具を揃えておく必要があったのだ。
この市場では遠くの村から、田舎からなどいろんな所から様々な商人達が集う、俺達はそんな市場を見回しながら歩いていた。
「他は何が必要なのかな?」
セシリーが買った物を詰めた袋を抱え歩きながら言う。
「そうだなー、リスコプールまでの道のりの間で一番の難関と言えば、世界で最長最深の”死の峡谷”、そこを超えた先、”巨人の森”だ」
「確かにあそこは危険かもね」
「あの森を越えるためには、方向感覚を失わない事と、長い間森の中を歩いて行くから日持ちする食料は必須だな後ずっと暗い所を歩いて行くから厚手の服も欲しい」
巨人の森とは言っても、本当に巨人が居るわけではなく、木々や草、岩などの全てが不自然に、まるで巨人サイズなので、その名前が名付けられた。そのため、普通の森とは比べるまでもなく、通過し抜けるまで時間がかかるのだ。
なぜそこまで大きいのかは、魔力地帯が影響していると言われている。昨日のセシリーの話によると、魔力地帯付近では普段見られない現象や状態を拝めると言う、なので巨人の森の他にも、魔力地帯の影響で各地に様々な不思議にお思える場所が存在するらしい。
「じゃあドライフルーツとかいっぱい買わないとね、ほら、あっちだよ!」
セシリーは俺の手を引っ張り連れて行ってくれた。
昨日から思っていたが、学者にしては結構わんぱくだよな、別に暗いやつを想像してたわけじゃないが、正直もう少し気難しいのを想像していたから意外だった。
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