第2話

 ダンジョンは、俺たちが滞在している街、ブロンガから西へ移動したところにある森の中の遺跡、長い間手入れされていないようで、周りには苔が生えている。大きさは、そばに並ぶ木に比べたら少し大きい、鳥の目線で見たらだいぶ目立ちそうだ。


 中は暗く、松明が無ければ見えないくらいだった。皆で松明を用意し、入ってみる。

 気温が明らかに違う、暖かい、奥に炎系の魔物がいる可能性が高い。


 「暑いな、奥に何かあるかもしれねーから準備しとけ」


 ラウルが皆に呼びかけた。それに応えて俺は、自分の装備である両刃の大鎌を構える。

 ちなみに俺は魔法剣士、杖に付いてるような魔石を別の武器に付け、魔法を併用して物理的な戦いをする、中衛のポジションである。


 魔法剣士と言う名前は、どの武器を使っていても、総称して魔法剣士である。最初に武器に魔石を付けて使用した者が、剣を使っていたからだ、いちいち武器で呼び名を変えるのもめんどくさいんだろう、と思った。


 進んで行くと、前から角の生えた大きなムカデ型の魔物”レッドクロウラー”が二体現れた。

 ラウルとアリシアが迎え撃ち、フィンガルが魔物の足場を封じ援護した。魔物は難なく倒され、俺の出る幕はなく一階は簡単に越えることができた。


 この遺跡ダンジョンは、地下へ進み攻略するので、下り階段を探していく。


 続く二階目、三階目では大きい蜘蛛型の魔物”リバースパイダー”の群れと、剣を持った人間の骸骨のような魔物”デスソードマン”と対峙し、ラウルとアリシアは攻撃をかわしながら、敵の懐まで走り込み切り落としていく、フィンガルは炎魔法でリバースパイダーを焼いていく、俺も風魔法で援護しながら前の二人が逃した敵を薙ぎ払う、攻略は順調だった。


魔物を倒したあと、いつものようにラウルは皆とハイタッチをしていた。ラウルは俺にもハイタッチを求めて来たが、少し戸惑ってしまった、昨日あんなことがあったから無理もない、迷った末に俺は手を上げようとしたが、その時にはもうラウルの手は引っ込んでおり、恥ずかしそうに、申し訳なさそうな顔をして俺の近くから離れて行った。


 何か逃した気がする。まあ、結局すぐに離れるんだしな、どうって事はない。


 「よし、ここいらで少し休憩にしよう」


 ラウルがそう言って休憩になった。

 休憩の間、武器の手入れをしたり、グラサーはメンバーに治癒魔術をかけるなど、皆各々の準備をする。


 「ネオ、少しいいか?」


 ラウルが後ろから話しかけてきた。少しびっくりしたが、俺はそれに応じ、皆と少し離れたところで話をすることになった。


 「………」


 ラウルはしばらくの間黙った後、口を開いた。


 「フィンガルはああ言ってた…けどよお、やっぱりこのままじゃ良くないと思ってな」


 少し俯いた顔をあげ、こちらに視線を向けながら言われた。


 「俺もそう思う……でも、なんとなく分かった気がする」

 「分かった……?」

 「俺は皆のこと仲間だと思っていた、でもラウルたちは……限界だったんだろ?ホリビスを引き連れて行きながら旅するのも、不自由だし」

 

 俺は拳を強く握り、歯を食いしばりながら、ラウルに背を向け伝えた。


 「っ!違う、そう言うことじゃ」

 「そう言うことだろ!?昨日だって」


 食い気味に俺が反論しようとした瞬間、ラウルは形相を変えて俺にとんで覆い被さった。

 事は一瞬の内に起きて収まった、天井と床が崩落したのだ、俺達は一緒に落ちてしまった。


 「痛ってぇ…?……!」


 ラウルが左足を怪我して隣で横たわっていた。


「ラ、ラウル⁉︎」

 

 ラウルは苦しそうな顔をしながら俺の方を見て言った。


 「ネオ、ケガは…大丈夫か?」

 「大丈夫かって、あんたの方が…」

 

 俺を庇って下敷きになったから、こうなったんだよな……。


 「二人共!大丈夫ですか⁉︎」


 上の方から声が聞こえた、見上げるとグラサーが穴から顔を出し、こちらを覗いていた。


 「大変なんだ!ラウルが足を怪我してて」


 俺の慌てた様子を見ても、グラサーは落ち着いているように見えた、そして大きな声で、口に両手を添えてこのように俺に指示した。


 「私たちもすぐに下の階への道を探します、この高さでは飛び降りるのは危険かと思いますので、それとリーダーですが、できればネオに応急処置をお願いしたいです」

 「え、俺が!?」


 嘘だろ、治癒魔術なんて練習しても、初級すら覚えきれなかったのに、俺にいったいどうしろって言うんだ。

 ラウルの足は血だらけで、それだけだったら良いが、この腫れ具合は骨もやってそうだ。初級が奇跡的に使えても十分じゃないだろう。


 「応急処置は魔法がなくてもできます、普段から治療の知識は叩き込んでいるはずです、大丈夫、ネオならできますよ!」


 やれるかな、できるのか?いや、やるしかないか。


 「分かった、頑張るよ」

 「よろしくお願いします、私達もできるだけ早くそっちに行きます」


 上からフィンガルとアリシアが顔を覗かせている、優しい顔で「大丈夫だよ」と言ってくれているようだった。

 そうだな、皆の態度はずっと今まで通りだった。俺が早とちりしていただけだったのかもしれない、そんなことを考えていたら、上の三人はすでに顔を引っ込めていた。


 まずは出血をどうにかしないといけない、傷口を魔法で出した水で洗い、足を縛り止血する。縛る布は、俺の服の上に羽織っているマントをちぎり代用した。

 次は骨折の方に取り掛かろうとしたその時、リバースパイダーの群れが目の前にやって来た、おそらく崩落がきっかけで流れ込んで来たのだろう。


 「くそっこんな時に!」


 俺は大鎌を手に、リバースパイダーを振り払い攻撃する。

 魔物達は倒されては次々に後ろから侵攻してくる。こう言う時はいつも皆で協力して対処していたからな、一人は厳しい。

 俺がラウルの肩を担いで逃げるしかない。


 「ラウル、片足だけで立てるか?」

 「あ、あぁ」


 魔法で壁を作り、リバースパイダーを止めて、その間に肩を担ぎ移動する。

 ラウルは右足だけで立ち上がり、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、声が響く暗い暗い道を俺と一緒に逃げた。

 途中壁を破り、漏れ出してきたリバースパイダーがいたので、ラウルをおろし、壁を作りなおす事を何回か繰り返した、そうしている内になんとか撒くことができた。

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