シロの末裔~差別対象な俺が冒険者パーティをやめ、新たな冒険に出る~

みあかろ

第1話

 俺の名前はネオ、十三歳

 突然だけど俺は今、凄く幸せなんだと思う。


 別に金持ちの家に生まれたわけじゃないが、俺はホリビスと言う種族で、姿はヒト族とほとんど変わらない、体のどこかに紋章のようなのがあるのと体から獣を生み出せるのが特徴らしい、その種族は約五百年前、とある国を襲いはじめ、蹂躙しようとした歴史があった。


 結果的に精鋭騎士達により、その国は守られたが、それによる甚大な被害は凄まじく、ホリビスは末代まで忌み嫌われる運命を辿る、俺も例外ではなく、よく周りから睨まれたり、嫌がらせを受ける。


 幼い頃、冒険者パーティに拾われ、皆の元で育ちはや七年、砂漠や氷の大地などいろんな所へ旅に連れて行かれ、時にはダンジョンで魔物と戦い、ギルドの依頼をこなし、仲間たちと馬鹿な事を言いながら過ごす毎日、ずっと一人でもおかしくなかった俺が、こんなに楽しい生活を送れるとは思っていなかった。

 長く過ごしすぎたのか、そんな日々が俺は、当たり前のようで最高だった。

 

 明日は、来年の寒い時期は、皆でどこに行けるんだろうとか、そんな事だけを考えていた。



***



 「ネオ、一月後にはお前ともう旅ができなくなる、急で悪いが分かってくれ」


 そう言われたのは夜、食事の時間、場所は飯屋。


 その言葉を口にしたのは”ラウル”だった。

 ラウルはパーティのリーダーで、最初に俺のことを見つけてパーティの中に引き入れてくれた人、歳は俺より二十くらい上で、完全に親代わりのような存在、他のメンバー達も皆大人である。


 本当に突然だったので、一瞬よく分からなかった、俺は、それほどこの日々が当たり前で、皆が離れていくなんて考えてもいなかった。


 「は?なんで急にそんなこと言うんだよ!」

 

 俺は身を乗り出しながら、机の上でバン!と大きな音を出して言った。

 周りを見渡しても、ラウルに対して反論するメンバーはいなかった。完全にアウェー、味方などいない。


 「決まったことだ、まだ時間はあるから準備を少しずつ進めておいてほしい」

 「理由が無いと納得できるわけないだろ」

 「それは……すまん」

 

 ラウルの目は俺を見ていなかった、目を細め、ずっと自分の手を見ていた、その手は机の上で組まれている。

 悲しみと苛々で限界だった俺は、その場から走って消え去った、周りの呼びかけにも耳を貸さずに。


 ベッドの上で俺は踞っていた、思い出していたのだ、初めて会った日のことを… 

 

〜回想〜

 夕暮れの中、真っ赤な空と、周りの家から漂う飯の準備の匂いにイラつき始めていた。


 どこから来たのか、自分が何と言う名前なのかすら知らず、言葉だけはなぜか喋れた。


 周りの視線が痛く感じるし、幻聴がたまに聞こえる気がする、自分に語りかける謎の声が、こうなると体は勝手に生きようとする、どんな手段を使っても、盗みである。

 

 丁度無防備にしている男を見つけた、安っぽいくたくたの服を着ていて、顔は無精髭を生やしてぼーっとしている、いかにも無警戒のようだ。


 狙いを定めた俺は、すれ違い様に男の所持品を盗み取り、すぐに曲がり角に隠れた。

 これで今日も食いっぱぐれなくて済む、そう安心して小袋の中を開け覗き込んだ、中には見たことない紋章の様なものが彫られたナイフが入っていた。


 「何だこれ?」

 

 とにかくこれを売ろうかと考えていたその時、さっきの男が真横に立っていた、腕を組み、俺を見下ろしていた。

 咄嗟に逃げようと立ち上がったが、すぐに捕まってしまった。


 あー、このまま知らないところへ連れてかれて売り飛ばされるのだろうか、痛めつけられて何処か山奥へ捨てられるのか。

 だが、その男はそんな厳しいことをする様子もなく、事情を聞くと、食べ物をご馳走してくれた。

 

 「どうして…」


 俺はおどつきながら聞いた。

 すると男は眉間に皺を寄せ、口角をあげ優しい口調で喋った。


 「いや、ちょっと最近嫌なことがあってな、癒されたい気分だったんだ、子供を見ると心が落ち着くからな」

 

 それがラウルとの出会いだった。


〜現在〜

 って、普通に俺が悪ガキじゃないか、人の物盗んで、お咎めなしでこんなに楽しく過ごして…。

 もしかして、ずっと嫌々だったのか?

 

 何処の産まれかもわからない生意気なホリビスの子供、メンバーのミスには口うるさかったかもしれない、喧嘩も今思えば結構あった、でもあれは、俺にとってはたわいも無い、ただの、普通の……もう辞めよう、何を考えても皆が俺を追い出すと決めたんだ、何も変わらない。


 やっぱヒト族とは違うんだ、俺って。



 

 翌朝、窓から光が差し込む、鳥の囀りと、明るい空が元気に頑張ろうとか言ってるみたいでうざかった。

 

 今日は皆でダンジョン攻略の予定だったな。

 重い腰を持ち上げ準備を整えると、俺は部屋を出た。

 宿を出て右を見ると、メンバー達はすでに集まっていた。俺が来た途端に空気が張り詰めた、とても気まずい空気である。


 「まぁ、取り敢えず今は今日の仕事に集中しよう、皆でちゃんと納得できる様に結論を出すのは、そのあとでも遅くはない」


 沈黙を破ったのは”フィンガル”だった。

 フィンガルはパーティの後衛担当の魔術師である、俺によく魔法の基礎を教えてくれた。

 あまり人を引っ張っていくタイプではないので、頼りない印象を受ける時が多いが、こう言う時はいつも、空気を悪くしない様に動いてくれる。

 パーティ名は無い、メンバーはラウルとフィンガル、”ヒーラーのグラサー”と”剣士のアリシア”、そして俺の

五人。


 メンバーはフィンガルの呼びかけに応じて、少し雰囲気が柔らかくなった。

 俺も空気を悪くしてばかりではいけないと思い、一言謝罪をしておいたが、自分の中ではまだ何も解決されてない、モヤモヤが晴れない。

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