白雪姫は私じゃない

ひゃくえんらいた

プロローグ

 父も母も、大臣も家来も、執事もメイドも、王子も小人も、鳥も花も大地も海も、空も風も、この世界の何もかも――どうせ妹が好きなのだ。


 だってそうでしょう?


 人は美しく可愛らしいものが好きなのだもの。


 私がそれを悟ったのは、八歳の頃だった。


 子供心に家臣たちの態度の違いには気付いていた。

 父や母ですら私には厳しく、妹には甘かったように思う。


 それが何故なのか、私には分からなかった。


 家臣たちの妹への態度は優しくほがらかで、けれども私の前では酷くぎこちなく冷たい。


 どうして同じように微笑んでいるはずなのに、妹が受け取るような温もりを私は得られないのだろう。


 第一王女だから、次期女王として仕方のないことなのかもしれない。

 そう思い私は必死で勉強をして、女王になるための努力を惜しまなかった。


 それなのに。


「あぁ、第二王女はなんと美しいことか!」


 王配おうはいとなるべく選ばれた隣国の第二王子は、初めての対面にして妹にひざまずいていた。

 私の婚約者となるはずだった王子が、私のすぐ横で妹の手の甲にキスをしている。


 あの時の皆のあざけるようなあの視線!


 その夜、落ち込んでいた私に聴こえるようにメイド達はささやいた。


「あの魔女のようにきつい顔では仕方がない」

「可哀想に、けれども見るたびにぞっとするわ」


 私は悟る。


 妹が手にするものを、私が手にすることは生涯しょうがい無いのだと。


 私の不幸は二つ。


 この顔で生まれたこと。

 そして妹がいること。


 この顔で生まれなければ、私は愛されたのかもしれない。

 そばに妹がいなければ、比べて苦しむことも無かったのかもしれない。


 何も知らずにいつも笑っている妹。

 私はあなたになりたかった。

 私に唯一屈託ゆいいつくったくなく笑いかける、あなたに。

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