第58話「夏休みの終わりと帰郷の決意」

夏休みの終わりが近づき、東京の街は少しずつ秋の気配を感じさせていた。蝉の鳴き声が弱まり、街を歩く人々の足取りもどこかゆったりとしている。大輝は、この夏の東京での経験が自分にとってどれだけ重要だったのかを思い返していた。


ライブ当日、大輝はいつものようにギターを背負い、ライブハウスへ向かった。会場に着くと、そこにはこれまで彼を支えてきた友人たち、そしてプロデューサーの月城が待っていた。月城はいつも通り落ち着いた表情で、大輝に声をかけた。


「大輝、今日が君の東京での一区切りだな。これまでの努力がステージにすべて出ることを期待している。」


大輝は緊張を隠せないまま、深く息を吸い込んでうなずいた。「はい、ありがとうございます。今日のライブは、これまでの感謝の気持ちを込めて全力で歌います。」


ライブハウスの中は、観客のざわめきと熱気で溢れていた。ステージに上がった大輝は、ギターを握りしめながら、目の前の観客たちを見渡した。自分を応援してくれる顔ぶれがそこにあり、大輝の胸に熱いものが込み上げてきた。


最初の曲が始まると、会場の空気が一変した。メインボーカルの歌声とギターの音色が混ざり合い、観客の心に深く響き渡る。これまでの苦労や葛藤が、音楽を通して表現されているかのようだった。ステージは、単なるライブを超えたものになり、自分自身の成長の証として映し出されていた。


ライブが終盤に差し掛かると、メインボーカルがマイクを握り、観客に語りかけた。「今日は、皆さんに紹介したい人がいます。この夏、高校生ながら修行のために東京に来てくれた、大輝です!」その瞬間、観客の視線が一斉に大輝に集まった。


大輝は驚いた表情を見せたが、周囲の応援に押されて一歩前に出た。マイクを向けられ、心臓が早鐘のように打つ中、彼は一言だけ、恥ずかしそうに言葉を発した。「えっと…、ありがとうございます。すごく良い経験になりました。」


その言葉に、観客は温かい拍手を送った。大輝は深々と頭を下げ、ステージの裏へ戻った。彼にとって、この一瞬は大きな成長の証であり、東京での夏休みの締めくくりとなる貴重な経験となった。


ライブが終わり、控室に戻った大輝のもとに月城が現れた。「素晴らしいステージだった、大輝。君の音楽がここまで成長したことを誇りに思う。でも、これからが本当のスタートだ。地元に戻っても、音楽に対する情熱を忘れないでほしい。」


月城の言葉に、大輝は深く頭を下げた。「ありがとうございます。地元でも、さらに頑張ります。」


友人たちとも別れを惜しむ中で、大輝は彼らに感謝の言葉を伝えた。「みんな、ありがとう。これからもよろしくお願いします。」


翌朝、早朝に目を覚ました大輝は、荷物をまとめて東京を後にする準備をしていた。駅へ向かう道すがら、彼の心には地元への期待と同時に、奏音との再会への不安があった。


駅のホームで電車を待つ間、大輝はふとスマートフォンを手に取り、奏音からのメッセージを確認した。「無事に帰ってきてね。」それだけの短いメッセージだったが、大輝の胸は熱くなった。


「奏音、今どんな気持ちでいるんだろう...」大輝は彼女のことを思いながら、複雑な心境で立ち尽くしていた。奏音との再会が楽しみである一方で、彼女の抱えている悩みや葛藤に自分がどこまで寄り添えるのか、不安も拭えなかった。


電車がホームに滑り込む音が響き、大輝は荷物を持ち直して乗り込んだ。車内から見える東京の街並みを眺めながら、彼は心の中で決意を新たにした。「俺も、もっと頑張らないと。奏音のために、そして自分自身のために。」


電車はゆっくりと走り出し、大輝を地元へと運んでいった。大輝の胸には、新たな挑戦への期待と、奏音との再会に向けた不安とが交錯していたが、そのどちらも大輝をさらに成長させる糧になるだろう。

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Crossroad Melody -君と奏でる未来- 半名はんな @hannarito

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