第57話「刻々と迫る夏の終わり」

夏休みも終盤に差し掛かり、大輝は東京での生活にますます馴染んでいた。仕事の合間を縫って、レコーディングやライブの準備に追われる日々。充実感を味わう一方で、心の片隅にはずっと引っかかっていることがあった。それは、奏音のことだ。


最近のニュースでは、奏音が音楽活動を一時休止すると報じられていた。彼女が出演していた映画の公開が控えているにも関わらず、彼女自身のメディア露出は極端に減り、代わりに様々な憶測が飛び交っていた。奏音が地元に戻った理由や、彼女の心境については何も明らかになっていない。


「奏音、何を考えているんだろう…」


その疑問が大輝の心を締め付ける。奏音とはたまに連絡を取るが、彼女はあまり深い話をしたがらない。電話越しの彼女の声には、どこか疲れたような、沈んだ色が感じられた。それでも、大輝は無理に問い詰めることはしなかった。奏音が話したいと思う時まで、待つしかないと自分に言い聞かせていた。


ある日、大輝は久しぶりに空いた時間を使って、都内の小さな公園に足を運んだ。ベンチに座り、ギターを取り出して、いつものように音を奏でる。静かな公園で響く音色は、彼の心を落ち着かせるかのようだった。


奏音と一緒に過ごした日々、共に音楽を作り上げた時間、そして、彼女が大輝にとってどれほど大切な存在かを改めて感じた。そんな中で、大輝はある決意を固める。


「地元に戻ったら、ちゃんと話をしよう。彼女が抱えているものを、少しでも分かち合えるように…」


その決意を胸に、大輝は東京での活動にさらに力を入れることを誓った。奏音が戻るまで、彼自身ももっと強くなろうと心に誓う。


夏の終わりが近づくにつれ、大輝の心には静かな焦りが芽生え始めていた。しかし、その焦りは彼を駆り立てる原動力でもあった。大輝は、夏休みが終わるその日までに、少しでも成長した姿を奏音に見せられるよう、自分の音楽にさらに没頭することを決めた。


夜が深まると、大輝は公園を後にし、いつもの道を歩いて帰路につく。東京の街灯が彼の足元を照らし、その影が少し長くなったことに気づいた。


「もうすぐ、夏が終わるんだな…」


ふと、そんな思いが大輝の頭をよぎった。しかし、その影の先には、希望が待っていると信じ、大輝は前を向いて歩き続けた。

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