第48話「新たな出発」
月城プロデューサーからの電話が鳴り、大輝は思わずその場に立ち尽くした。失意の中で帰宅した後、頭の中は混乱していたが、月城の声を聞くと少しだけ心が落ち着いた。
「大輝、オーディションでは厳しい結果になってしまったが、君の演奏には確かなものがあった。そこで、ちょっと君に提案があるんだ。」
大輝は緊張と期待の入り混じった気持ちで聞き入る。「提案…ですか?」
「そうだ。実は、同じ事務所に新しくデビューする予定のアイドルグループがいてね。彼女たちのバックバンドを探しているんだ。君が夏休み中に東京に来て、彼女たちのサポートをしてみるのはどうだろう?」
大輝は驚いた。こんなチャンスが自分に訪れるなんて夢にも思わなかった。
「本当に僕でいいんですか?」大輝は信じられない気持ちで尋ねた。
「もちろんだ。君の才能には期待している。これは君にとって大きなステップになるだろう。」
大輝は心の中で葛藤があったものの、今度こそ自分を試してみる時だと思った。母親の言葉や、奏音の言葉が頭をよぎり、決意が固まる。
「…わかりました。僕、やってみます!」
月城は微笑んだような声で答えた。「よし、それじゃあ早速準備を進めよう。君が東京に来る日程について、また連絡するよ。」
電話を切った後、大輝は深呼吸をした。これからの展開に不安と期待が交錯するが、心の奥底には確かな決意があった。
翌朝、大輝はまだ薄暗い早朝、地元の駅で電車を待っていた。空気は少しひんやりとしていて、周りの静けさが心に染み渡る。これから始まる東京での新生活に対して、胸が高鳴ると同時に、わずかな寂しさも感じていた。
「奏音もこんな気分だったのかな…」
大輝は、故郷を離れた奏音がどんな思いでこの駅に立っていたのかを考えた。彼女もまた、不安と期待が入り混じった気持ちでこの道を進んでいったのだろうか。
「頑張らないと…」
静かに自分に言い聞かせると、電車が駅に滑り込んできた。大輝は深く息を吸い込み、やがて扉が開くと、決意を胸に電車へと乗り込んだ。
ホームを離れる電車がゆっくりと動き出し、大輝は窓の外に広がる景色を見つめながら、新たな一歩を踏み出した自分を感じていた。
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