第47話「オーディションへの挑戦」
オーディション当日の朝、大輝は目覚ましの音と共に目を覚ました。いつもと同じ朝なのに、心の中では重たい不安が渦巻いていた。母親はキッチンで朝食を準備しており、いつものように優しい声で「頑張りなさいよ」と送り出してくれたが、その言葉が今まで以上に胸に響く。
オーディション会場に到着すると、そこにはすでに多くの参加者が集まっていた。みんな自信に満ちた表情を浮かべており、大輝はその雰囲気に圧倒された。彼らの実力を垣間見るたびに、自分の不安が一層強まっていくのを感じた。
大輝が自分の順番を待っていると、影虎が目の前に現れた。
「おっ、大輝!こんなところで会うとは思わなかったぜ」
影虎はにやりと笑いながら、大輝に話しかけてきた。大輝も軽く笑顔を返すが、その心は緊張でいっぱいだった。影虎はすぐにスタッフに近づき、Kanonが審査員として来るのかを問い詰め始めた。
「Kanonさんは今日来てないんですか?それとも後で現れるんですか?」と影虎がスタッフに聞く。
スタッフは少し困った表情で、「Kanonさんはとても忙しくて、決勝ラウンドのみ審査員を務めます」と答えた。影虎は納得しつつも、やや不満そうにため息をついた。
「まあ、そういうことなら仕方ないか。でも、決勝で会えるのは楽しみだな」
大輝もその話を聞いて、心の中でKanonに会えるかもしれないという期待が膨らむ一方で、今の自分にそれだけの実力があるのかと不安を感じていた。
オーディションが始まり、参加者たちが次々とステージに立って演奏を披露していく。彼らの演奏はどれも素晴らしく、大輝はその実力に驚きつつ、自分の番が近づくにつれてますます緊張していった。
ついに、影虎の番がやってきた。彼は自信満々でステージに上がり、圧巻のパフォーマンスを披露した。その演奏に会場の空気が変わり、大輝も影虎の実力を改めて感じた。
そして、ついに大輝の番が来た。深呼吸をして、震える手を抑えながらステージに上がる。自由曲として選んだのは、今まで何度も練習してきた自分の得意な曲だった。演奏が始まると、大輝は周りのことを忘れ、ただ音楽に集中した。緊張していた気持ちが少しずつほぐれていき、自分の音楽を表現する喜びが心に広がっていった。
次に、大輝はKanonの曲を演奏する。彼が選んだのは、奏音が地元で歌っていた曲だった。大輝はその曲に込められた思いを胸に、奏音の姿を思い浮かべながら演奏を始めた。彼女のデビュー前の姿、地元での思い出が蘇り、その感情が音に乗って会場に響き渡った。
演奏が終わると、会場は一瞬の静寂に包まれた。大輝は息を整えながら、審査員たちの反応を待った。月城プロデューサーが一歩前に出て、大輝を見つめる。
「君があの大輝か…」
月城は少し驚いた表情を浮かべながら、大輝の演奏に対する感想を述べた。
「自由曲は良かった。君の実力がよく伝わってきた。ただ…Kanonの曲の選択には少し驚いたよ」
大輝は月城の言葉にドキッとしながらも、その理由がすぐにはわからなかった。月城は続けてこう言った。
「だが、その選曲に何か特別な思いがあったんだろう。今はそれを感じたということだけ伝えておく」
その言葉に、大輝は少しほっとしたものの、同時に自分が果たして課題に正しく取り組めたのかという不安が再び湧き上がってきた。
しかし、他の審査員が眉をひそめながら言葉を続けた。「でも、課題に沿っていないわね。君が演奏したのはKanonの曲ではなく、別の曲だ。これは…残念ながら、失格とするしかない。」
その瞬間、大輝の心は音を立てて崩れた。自分が間違えていたのか?この選択が間違いだったのか?その疑問が頭を駆け巡り、会場を後にする足取りは重く、息苦しささえ感じた。
家に帰り着くと、大輝はそのままベッドに倒れ込み、天井を見つめながら考え込んだ。失格の言葉が耳にこびりついて離れない。自分の選択が間違っていたのか?それとも、この経験をどう受け止めればいいのか。
そのとき、突然電話が鳴り響いた。
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