第44話「影虎との再会」

放課後の公園には、夕暮れの柔らかな光が差し込んでいた。大輝はベンチに座り、ギターを膝に置いてゆっくりと弦を弾いていた。オーディションに向けた練習は順調に進んでいるものの、まだ満足のいくレベルには達していないと感じていた。


Kanonの曲を何度も練習するが、自由曲の選定にも迷っていた。心のどこかで自分の限界を感じてしまう。そんな時だった。


「おい、大輝!」


突然、聞き覚えのある声が大輝の耳に届いた。顔を上げると、そこには影虎が立っていた。影虎はギターケースを肩にかけ、少し余裕のある笑みを浮かべている。


「影虎…久しぶりだな。」


「久しぶりってほどでもないけどな。オーディションに向けて練習か?」


影虎は大輝の隣に腰を下ろし、さっとギターケースを開ける。その手つきは自信に満ちており、大輝とは対照的に不安の影すら感じさせない。


「まぁな、自由曲の選定でちょっと迷ってる。」


「迷ってるなんて、らしくないぜ。さっさと決めて、あとはひたすら練習するだけだろ?」


影虎は軽く挑発するように言ったが、その表情にはどこか大輝への期待も感じられた。大輝はその言葉に少しカチンときたが、同時に影虎の自信が羨ましくもあった。


「影虎、お前はもう準備万端って感じだな。」


「そりゃあな。俺はこのオーディションに全力で臨むつもりだ。お前もそうだろ?」


影虎はにやりと笑い、ギターの弦を軽く弾いてみせた。彼の演奏は、短いながらも感情がこもっていて、技術的にも非常に高いレベルにあることが伝わってきた。


大輝は影虎の演奏を聞きながら、自分の心にさらなるプレッシャーを感じていた。影虎は確実に成長しており、その実力はオーディションでも際立つだろうと直感した。


「お前、相変わらずすげぇな…」


「おいおい、そんなこと言ってる場合かよ。オーディションでは俺たちライバルなんだぜ?」


影虎は大輝の肩を軽く叩き、立ち上がった。彼はまるでこの場を支配しているかのような態度で、大輝に背を向けたまま言葉を続けた。


「オーディション、楽しみにしてるぜ。お互い、全力で勝負しようぜ。」


そう言い残し、影虎は去っていった。彼の背中が夕暮れの中に溶け込んでいく様子を見つめながら、大輝は心の中で何かが燃え上がるのを感じた。


影虎との再会は、ただの偶然ではなかった。彼の自信に満ちた態度、そして演奏に込められた情熱が、大輝の心に火をつけたのだ。彼は影虎に負けないために、そしてKanonの前で最高のパフォーマンスを見せるために、もっと練習を重ねなければならないと強く思った。


その夜、家に戻った大輝は、早速ギターを手に取り、練習を再開した。影虎の演奏が頭に浮かび、自分の演奏に足りないものが何かを考え続けた。そして、影虎との再会が彼に与えた刺激が、大輝の中で新たな決意を固めさせた。


「絶対に負けない…」


心の中でそう誓いながら、大輝はギターの弦を強く弾いた。影虎との再会を経て、彼の中にはオーディションに向けた新たな闘志が生まれていた。どんな結果になろうとも、この挑戦を全力で楽しむ――それが、今の大輝の決意だった。

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