第43話「決意の音と課題」

大輝は、オーディションに参加する決意を固めたものの、その第一歩を踏み出すためには、月城プロデューサーに連絡を取らなければならなかった。しかし、奏音の所属する大手のエンターテインメント会社に電話をかけるなんて、彼には初めての経験だった。


家のリビングで、携帯を手に取った大輝は、何度も深呼吸を繰り返す。指先が震え、心臓が激しく脈打つ。自分がこれほどまでに緊張していることに驚きながらも、覚悟を決めて番号を押した。


「…こちら、花園エンターテインメントです。」


電話の向こうから女性スタッフの柔らかい声が聞こえてきたが、大輝は言葉が出なくなってしまった。緊張のあまり、頭の中が真っ白になる。数秒の沈黙の後、女性がクスッと笑う声が聞こえた。


「どうされましたか?」


その笑い声に少し勇気をもらいながら、大輝はなんとか声を絞り出した。「あの…月城プロデューサーに、オーディションの参加意思を伝えたいんですが…」


女性スタッフはすぐに対応してくれた。「わかりました。月城プロデューサーに直接連絡を取れる番号をお伝えしますね。」


大輝はメモを取り、番号を教えてもらった後、深く礼を言って電話を切った。


大輝はしばらくその場で立ち尽くした。次は、月城プロデューサーに電話をかける番だった。教えられた番号を何度も確認し、心の中で緊張を和らげるための言葉を自分に言い聞かせた。


「よし…行くぞ。」


再度、深呼吸をしてから、教えられた番号を押した。呼び出し音が何度か鳴り、ようやく電話が繋がった。


「もしもし、月城です。」


電話の向こうから聞こえる、低く落ち着いた声。大輝の胸の鼓動がさらに速くなる。


「…あの、大輝です。オーディションに、参加させてください!」


自分でも思わず大声になってしまったのがわかる。しかし、月城プロデューサーはそんな大輝の緊張を察したのか、少し驚いた様子で静かに問いかけた。


「君が…あの大輝か?」


「はい、そうです。」


月城プロデューサーは一瞬の沈黙の後、少し和らいだ声で続けた。


「なるほど、そうか。それなら期待しているよ。」


その言葉に少し安心した大輝だったが、同時に月城プロデューサーの期待の重さが肩にのしかかるのを感じた。


「それで、オーディションの課題だが…」


月城プロデューサーが静かに課題を告げる。自由曲一曲と、Kanonの曲一曲。大輝の心は、その瞬間に決まった。


「Kanonの曲…」


大輝は自然と、奏音がデビュー前に地元で歌っていた曲を思い浮かべていた。奏音がまだ地元でライブをしていた頃、大輝もその場に何度か足を運んでいた。彼女の歌声は、今でも心に強く残っている。その曲を選ぼうと、即座に心に決めた。


その日の夜、大輝は自分の部屋でギターを手に取り、オーディションに向けた準備を始めた。奏音の曲を弾きながら、「やらない後悔よりも、やって後悔したほうがいい」という言葉を胸に刻み込む。オーディションに対する不安と期待が入り混じりながらも、彼はこの挑戦を楽しもうと強く心に誓った。


影虎との再会や母親の励ましが、彼の心に力を与え、次第にその決意は固まっていった。


「絶対に、オーディションを通過してみせる…!」


そう自分に言い聞かせながら、大輝は夜遅くまで練習を続けた。

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