第41話「出会いと挑戦」
「競ってみないか?」
その一言が、心を揺さぶる。
月城プロデューサーが登壇する音楽イベントの日、花園市の中心部にあるイベントホールは、音楽ファンや業界関係者で埋め尽くされていた。
ステージに登場した月城プロデューサーは、音楽業界の未来や、アーティストとしての成長に必要なことについて語り始めた。その言葉には、鋭い洞察と深い経験が詰まっていて、会場全体が静まり返るほどの説得力があった。
そのとき、いかつい見た目の男──影虎雷蔵が手を挙げ、月城プロデューサーに質問した。
「音楽において最も重要なことは何ですか?」
月城プロデューサーはその質問に対し、しばらく考え込むような素振りを見せた後、軽く笑って答えた。
「それは人それぞれだね。音楽の世界には正解なんてないからさ」
影虎は少し驚いた表情を見せたが、やがて頷いて席に戻った。
しかし、月城プロデューサーはそのまま会場を見渡し、続けた。
「それでは、ここにいる他の人たちはどう思う? 音楽にとって最も大切なことは何だと思う?」
会場内がざわつき、数人が手を挙げた。
順に答えていくが、そのほとんどが「ヒットすること」や「売れること」といった商業的な答えだった。
それらの回答に月城プロデューサーは少しだけ頷きながらも、興味を失ったような素振りを見せた。
自分も音楽にとって最も重要なことについて思いを巡らせていたが、心の中での答えが確信に変わる瞬間を待っていた。自分の中で答えが出る頃には、会場も落ち着き始めていた。そして大輝は思い切って手を挙げた。
月城プロデューサーはその手に気付き、頷いて指を指した。
「君はどう思う?」
少し緊張したが、自分の言葉を慎重に選びながら答えた。
「音楽に必要なものは、心を通わせることだと思います。それが一番大事だと、自分は信じています」
その言葉は、ずっと自分の中にあり続けた考えであり、それが今、自分の口から自然に出てきた。
その瞬間、会場の一部からかすかな笑い声が聞こえた。
「夢見すぎじゃないか?」とでも言いたげな顔をしている者たちがいた。それに対して、胸の中が少しだけ苦しくなったが、自分の信念を曲げることはなかった。
月城プロデューサーはそんな会場の雰囲気を感じ取りながらも、自分に目を向け、じっと見つめた。
彼の表情には、興味深そうな色が浮かんでいたが、言葉には出さなかった。
ただ、軽く微笑みながら、次の質問者に目を移した。
イベントが終了し、会場を後にしようとしていたとき、ふと背後から月城プロデューサーの声が聞こえた。
「ちょっといいか?」
振り返ると、月城プロデューサーが自分に向かって歩み寄ってきた。
影虎も近くにいて、彼もまた声をかけられている様子だった。
「君たち二人、なかなか面白い子たちだ。ちょっと僕からの挑戦状に臨んでみないか? 実は、Kanonが審査員を務めるオーディション番組に参加するミュージシャンを探しているんだ。君たち、楽器を弾けるんだろう?どうだ、参加してみないか?」
その瞬間、自分の心は大きく動かされた。
しかし、オーディションに参加したところで勝ち残れるのか。奏音、いや、Kanonの前で演奏できると言い切るだけの自信がなかった。
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