第40話「揺れる心」

朝の陽射しが窓から差し込み、部屋の中に温かさをもたらしていた。


目を覚ました大輝は、昨晩遅くまでデモテープの作業をしていたことを思い出した。疲労感が体全体に残っているが、彼は気を取り直してスマートフォンを手に取る。


新着メッセージがいくつか届いている。

だが、その中に目当てのオーディションの結果があることに気づいた瞬間、心臓が一瞬止まるような感覚がした。


メッセージを開くと、目に飛び込んできたのは「不合格」の二文字だった。


「またか……」


溜息とともに、彼の肩が自然と落ちた。


何度挑戦しても、返ってくるのはいつも同じ結果。


レコード会社からの返信がないことも多く、今回のように結果が通知されるだけでも幸運な方だ。


その後、何とか気を取り直そうとした大輝は、何気なく音楽関連のウェブサイトを眺め始めた。


そして、ふと目に留まった記事が彼の心をざわつかせた。


「Kanonの魅力を探る、KanonのラジオCanon」

そのタイトルには、奏音──大輝の幼馴染であり、今や成功を収めたKanon──の名前があった。


「奏音が……ラジオを?」


心の中で小さな喜びが沸き起こるが、それと同時に一抹の不安が胸を締めつける。


彼女が自分の番組を持つなんて、すごいことだと思いつつも、大輝の心には彼女がどんどん遠くへ行ってしまうような気持ちが募った。


「なぜ、俺に言ってこなかったんだろう……」


不意に抱いた疑問。


ドラマ出演の話は聞いていたが、このラジオ番組のことは初耳だった。彼女が自分に言ってこなかったのは、もしかしたら、聴いてほしくないからなのかもしれない。


「俺には……聞かせたくないのか」


心の中でその可能性を考えると、複雑な感情が沸き起こる。


彼女の成功を素直に喜べない自分が情けなく、しかし、その思いをどうすることもできなかった。


大輝はその後も何度もスマートフォンでKanonのラジオについて検索し、番組を聴くかどうかを迷い続けた。だが、最終的には聴かないという選択をした。

それでも、奏音の活動に対する興味を捨てきれず、彼女の共演者について調べ始めた。


『月城翔』


共演者として挙がっていた名前には見覚えがあった。

次の瞬間、大輝の脳裏に、以前、奏音がミュージックビデオ撮影のために帰郷した際の出来事を思い出す。

現場で一度会ったことがあるその人物は、プロデューサーと呼ばれていた。


『月城翔』


その名前を検索してみると業界で名を馳せるプロデューサーであり、特に若手アーティストを育成する力に定評がある人物らしい。


「彼が……奏音を見出した人か」


その事実を知り、大輝の中に焦りと期待が交錯する。この人物こそが、奏音を成功へ導いた張本人であり、自分が追い求める目標へのヒントを持っているかもしれない。


さらに調べると、月城プロデューサーが週末に音楽とプロデュースについて語るイベントに登壇するという情報を見つけた。


「これだ……」


その瞬間、大輝はまるで目の前に光が差し込んできたかのような感覚を覚えた。

今こそが、自分の道を切り開くためのチャンスかもしれない。


イベントの日が近づくにつれ、期待と不安が入り混じった複雑な感情が大輝の胸に渦巻いた。本物の音楽プロデューサーに会える機会など滅多にないが、果たして彼から何を学び取ることができるのか。失敗して、さらに自分の無力さを痛感することになるかもしれない。


それでも、大輝は心に固く決意した。


「行こう……」


この一歩が、自分の未来を変えるかもしれない。大輝は心の中でそう自らを鼓舞し、イベントに参加する決意を固めた。

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