第4章:壊れゆく音色

第39話「届かぬ音」

初夏の日差しが差し込む部屋で、大輝は無造作に置かれたデモテープを見つめていた。


いくつものレコード会社に送ったものの、返事は一つも返ってこなかった。

何度も挑戦したが、まるで無視されているようだった。


「やっぱり、こんなもんなんだよな……」


大輝は肩を落とし、溜息をついた。


奏音が成功するのを目の当たりにし、自分もプロの道を目指せるかもしれないと信じていたが、現実は厳しかった。彼女がどんどんと成功の階段を登っていく一方で、自分は足元にも及ばないのだと痛感していた。


奏音の名前は今や世間に広まり、彼女の曲はテレビやラジオで頻繁に流れていた。


新曲はCMソングに採用され、雑誌の表紙を飾ることも増えていた。そんな彼女の活躍を見るたびに、大輝は焦りと苛立ちを感じるようになっていた。


「どうして俺は……」


自分には何の成果もない日々に、大輝は無力感を抱くばかりだった。


それでも、諦めたくない一心で新しいデモテープを作り、再びレコード会社に送る。しかし、またしても返事はなく、時間だけが無為に過ぎていった。


そんなある日、大輝の携帯が鳴った。画面に表示されたのは、奏音からの久々のメッセージだった。


「大輝、ちょっと相談があるんだけど……」


一瞬、喜びが湧き上がったが、それもすぐに消えた。

自分がうまくいかない中で、成功している奏音からの連絡は居心地が悪かった。

彼女と話すたびに、自分がどれほど無力であるかを再確認させられるようで、心の中にわだかまりが残った。


「どうした?」


大輝は素っ気なく返信した。


自分の不甲斐なさを感じつつも、彼女の成功を素直に喜べない自分が少し嫌だった。


しばらくして、奏音からの返信が届いた。


「実はね、ドラマ出演の話があって……どうしようか迷ってるの」


その内容に、大輝は一瞬戸惑った。


ドラマ出演――自分のオーディションがまるで相手にされなかった現実を考えると、羨ましさを感じた。それと同時に、奏音がさらに遠くへと行ってしまう不安も覚えた。

しかし、いくら望んでもドラマ出演できずに夢を諦めていく人が多い中、向こうから舞い込んできた喜ぶべきオファーたま。彼女のキャリアにとっても大きなチャンスだろう。


「断る理由が見当たらないんじゃないか?」


思わず、反射的にそう返信してしまった。


大輝にとっては、自分が夢に向かって努力しても全く成果が出ない中で、奏音が成功の道を歩んでいるのが無性に悔しかった。奏音がドラマ出演を自ら望むタイプでないことは大輝が一番分かっているが、それでも断る理由はない、そう思った。


しばらくして、奏音からの返信が再び届いた。


「そうだよね……ありがとう、考えてみる」


奏音の普段とは異なる様子に違和感を覚えつつも、それ以上は詮索しなかった。


それ以降、奏音からの連絡はなく、大輝もドラマ放送が決まれば連絡をもらえるだろう、くらいに考えていた。


一方で、大輝は自分の音楽活動に集中しようと決意した。奏音のドラマ出演が決まればますます二人の間の差は広がってしまう。大輝は早く前に進まなければならないとさらに強く思った。

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