第35話「音楽の実験」

大輝は新たに手に入れたギターを抱えて、スタジオに戻った。


路上ライブで感じた音楽の力、そしてその場でのインスピレーションを一刻も早く形にしたかった。


スタジオのドアを開けると、静かな空間が彼を迎え入れる。


「ここで、自分の音楽をもっと自由に、もっと本音で表現したい。」


そう思いながら、大輝はアンプにギターを接続し、最初のコードを鳴らした。


音がスタジオに響き渡り、その振動が彼の体に心地よく伝わってくる。

大輝は少しずつ弾き始め、曲のメロディーを試行錯誤しながら探していった。


路上で感じた感情や、演奏者たちの姿を思い浮かべながら、曲のイメージが徐々に形作られていく。


「技術や完成度じゃなくて、自分の中から自然に湧き出る音楽を作りたいんだ。」


大輝はそう自分に言い聞かせながら、次々とコードやメロディーを組み合わせていく。


しかし、頭の中に浮かぶメロディーを形にするのは思った以上に難しく、何度もやり直しを繰り返した。


「これじゃない…。もっとシンプルで、でも心に響く何かが足りない。」


そう呟きながら、大輝はギターを一度置き、深く息を吐いた。その時、ふと窓の外に目をやると、初夏の青空が広がっていた。

眩しい光がスタジオの窓から差し込み、その光景が彼に一瞬の閃きをもたらした。


「そうだ、外で感じたものをそのまま音にしよう。」


大輝は再びギターを手に取り、今度は複雑な技術に頼るのではなく、もっと直感的に、自然体でギターを弾き始めた。ストロークの一つ一つに、自分の感じたことや思いを乗せていく。

すると、音楽が少しずつ形になり始めた。


「これだ…。」


大輝の指は止まらなかった。


次から次へと新しいメロディーやリズムが浮かび上がり、


彼の中で音楽が生き生きと息づいていくのを感じた。


数時間が過ぎる頃には、彼の前には一つの曲が完成していた。まだ完璧ではないが、その曲には今までとは違う、大輝自身の本当の声が詰まっていた。


「これが俺の音楽だ。」


大輝はそう感じながら、ギターを置いた。


初夏の光がまだスタジオに差し込んでいて、その光が彼の新たな決意を後押しするかのようだった。


大輝は自分が作り出した曲を録音し、しばらくの間、ヘッドフォンでその音を聞き続けた。


自分の中に芽生えた新しい音楽の方向性を確認し、それがこれからの彼の音楽活動にどんな影響を与えるのかを考えた。


「これからも、もっと多くの曲を作っていきたい。そしていつか、この音楽を皆に届けたい。」


そう強く心に誓いながら、大輝はスタジオを後にした。

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