第33話「音楽の原点を探して」

花園市の朝は、初夏の穏やかな日差しに包まれている。


ギターを背負いながら、大輝は街を歩いていた。


前日のライブハウスでの演奏は、大輝にとって大きなステップだったが、まだ自分の音楽が形になっていないことを痛感していた。


「俺の音楽って、一体なんだろう…」


そう呟きながら、足を止めると、目の前には小さな広場が広がっていた。


そこには数人の観客が集まり、路上ライブが行われている。

興味を惹かれた大輝は、その演奏を耳にするため、少しずつ観客に近づいていった。


演奏していたのは、年配の男性だった。


彼のギターはシンプルで飾り気がないけど、その音色にはどこか温かみがあり、聴く者の心にじんわりと染み渡っていく。歌詞も素朴で、日常の何気ない瞬間を切り取ったもので、その一つ一つの言葉が深い共感を呼んでいた。


大輝はその演奏に引き込まれ、気がつけば心の中でリズムを取りながら聴き入っていた。


「こんな風に、人の心に響く音楽を作りたい…」


その瞬間、自分の目指すべき音楽の方向性がはっきりと見えてきた。


技術や派手さではなく、人の心に訴える音楽を作りたいと強く思ったんだ。


演奏が終わると、観客から拍手が湧き上がり、演奏者はにこやかに頭を下げた。


大輝はその様子を見て、ギターを抱えていた自分を思い出す。まだ未熟だけど、少しずつでも自分の音楽を形にしていけるんじゃないか、そんな希望が胸に芽生えた。


広場を後にしながら、大輝は自分も路上で演奏をしてみようと決意した。


プロではない自分が、ライブハウスだけでなく、もっと身近な場所で自分の音楽を試すことで、新たな発見があるのではないかと感じた。


翌日、大輝は花園市の一角にある小さな通りにやってきた。人通りはそこまで多くないが、静かな雰囲気があって、大輝にとっては理想的な場所だった。


大輝はギターを取り出し、ゆっくりと弦を弾き始めた。


初めての路上ライブで少し緊張していたが、通り過ぎる人々が演奏に気を留めて、足を止めて聴いてくれる様子に勇気づけられた。


演奏が進むにつれ、自分の音楽がただの技術じゃなく、心を込めた表現であることに改めて気づいた。


その日、初めて路上ライブの楽しさを知り、同時に自分の音楽が少しずつ形になりつつあることを実感した。音楽の原点を探る旅は、これからも続いていく。大輝は新たな一歩を踏み出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る