第32話「初夏の光と新たなメロディ」

心地よい初夏の風が吹き抜ける花園市。

木々の葉が青々と茂り、通りには鮮やかな緑が広がっていた。


大輝は学校を終えてから、いつものようにギターを抱えて家を出た。


ライブハウスでの演奏を重ねる中で、自分の音楽に対する考え方が少しずつ変わってきたことを感じていた。


奏音の姿や、彼女との再会が大きな影響を与えているのは確かだが、それだけではない。

自分自身の中で何かが芽生え、音楽に対する新たな感覚が生まれているのだ。


大輝は街の中心部にある公園に向かい、ベンチに腰を下ろした。ギターを手に取ると、ふと視線を上げて、木漏れ日が差し込む空を見つめた。


ギターの弦を軽く弾いてみると、柔らかいメロディが静かに響き渡った。


「何か、いつもとは違う音が聞こえる気がする…」


自分の中から溢れ出すメロディが、まるで新しい世界を切り開くように感じられた。


これまでの練習や経験が積み重なり、自分の音楽が少しずつ形になりつつあるのかもしれない。

大輝はその感覚を確かめるかのように、ギターを弾き続けた。


その時、ふと公園の入り口に目をやると、一人の少年が立っているのが見えた。

少年は大輝の演奏をじっと見つめていた。


「…君も音楽が好きなの?」


大輝が声をかけると、少年は少し驚いた様子で近づいてきた。

年は大輝よりも少し若そうで、手には小さなリュックを抱えていた。


「はい。僕もギターをやってみたいんです。でも、まだ上手く弾けなくて…」


その言葉に、大輝は自分の初心者だった頃を思い出した。自分も同じように、何もかもがうまくいかないと感じていた時期があった。しかし、少しずつ練習を重ねることで、音楽の楽しさを見つけることができたのだ。


「大丈夫さ。誰だって最初は上手くいかないよ。でも、続けることで必ず成長できる。君も自分の音楽を信じて、進んでみて。」


少年は大輝の言葉を聞いて、少しだけ笑顔を見せた。


「ありがとうございます!僕も頑張ってみます!」


その後、少年はベンチに座り、大輝と一緒にギターを弾き始めた。


二人の音が重なり、初夏の公園に新しいメロディが生まれた。

こうして大輝は、自分の音楽だけでなく、他の人にも影響を与えることができることに気づいた。


自分が奏でる音が、誰かの心に響き、新たな道を切り開く手助けになる。そんな可能性に満ちた初夏の一日が、また彼の音楽の旅を一歩前進させるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る