第28話「音楽が導く道」
花園市の空は澄み渡り、どこか懐かしい風が大輝の頬を撫でていた。
昨日の出来事が、まだ夢のように感じられる。
奏音──Kanonとの再会。
彼女の言葉が大輝の胸の中で何度も反響していた。
「音楽は…私にとって、自己表現の一つだと思う。」
奏音の言葉が、まるで彼の心に深く刻まれたように残っていた。
彼女のプロとしての姿勢、そして音楽に対する真摯な想い。
それが大輝に大きな影響を与えたことは間違いなかった。
大輝は自分の部屋に戻り、ギターを手に取った。
指が弦に触れ、自然にメロディが流れ始める。
しかし、何かが足りない。
大輝はその違和感を感じながらも、奏音のように自分の気持ちを表現しようと試みた。
「自己表現…か。」
彼は自分の心に問いかけた。
これまで、自分の音楽は何を表現してきたのか?そして、これから何を表現すべきなのか?
思考が巡る中、大輝はふと、奏音のことを思い出した。
彼女はプロとして、多くの人に音楽を届けている。
その姿は、憧れでありながらも、どこか遠い存在に感じられる。しかし、彼女の言葉が大輝の心を捉えたのは事実だった。
その時、大輝の携帯が震えた。
メッセージが届いたようだ。
画面を見ると、それは同級生からの連絡だった。
彼らが今夜、ライブハウスで演奏をするという誘いだった。
大輝は一瞬戸惑った。これまで、友人たちの演奏を見に行くことはあったが、自分がステージに立つ勇気はなかった。
「でも…。」
大輝は奏音の言葉を思い出した。
音楽を通じて自己表現をすること。
もしかしたら、今がその時かもしれない。
決意を固めた大輝は、ギターケースに愛用のギターを収め、ライブハウスへと向かった。
これまで避けていた場所、でも今は何かが違っていた。
ライブハウスに到着すると、そこにはいつもの仲間たちがいた。彼らは大輝が来るとは思っていなかったようで、驚いた表情を浮かべていた。
「大輝、来てくれたんだな!」
友人の声に、大輝は頷いた。
「ああ、今日は…演奏してみようと思うんだ。」
その言葉に、仲間たちは喜びの声を上げた。
そして、その夜、大輝は初めて人前で自分の音楽を奏でた。
ギターの音がライブハウスの空間に響き渡り、その瞬間、大輝は何かを掴んだ気がした。
奏音の言葉が、彼を新たな道へと導いてくれたのだと。
彼の音楽は、まだ未熟かもしれない。
しかし、それでも彼は一歩を踏み出した。
その一歩が、彼にとっての新たな音楽の道の始まりだった。
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