第27話「再会のメロディ」
大輝は花園市の商店街を歩いていた。
最近、自分の音楽に対する自信を失い、心の中に迷いが広がるばかりだった。
そんな中、昔の記憶を辿るように、この商店街に足を運んでいた。商店街の広場に近づくと、どこからか懐かしいギターの音が聞こえてきた。
その音に導かれるように、大輝は自然と広場へと足を向けた。
そこでは、ミュージックビデオの撮影が行われていた。
スタッフが忙しく動き回り、セットの準備が進められる中、ギターを弾きながら歌っているのは奏音──いや、プロミュージシャン「Kanon」だった。
大輝は驚きで立ち止まった。
彼女が東京で成功を収めていると聞いていたが、地元に戻ってきているとは思いもしなかった。
Kanonが演奏を終えると、スタッフの指示で休憩が入った。Kanonが顔を上げると、大輝に気づいて驚いた表情を見せた。
「大輝…!」
Kanon──いや、『奏音』の声に、彼は微笑みながら手を振った。
しかし、心の中では、彼女がここにいることが信じられなかった。
その時、奏音の横に立っていたスーツ姿の男性が彼女に近づいてきた。
落ち着いた雰囲気を持ち、自然な威厳を感じさせる人物だった。
「Kanon、次の撮影まで少しだけ休憩を挟もう。その間に、少しだけ時間を取っておきなさい。」
奏音は彼に感謝の意を込めて頷いた後、大輝を近くのベンチに誘った。
奏音と大輝は、撮影現場から少し離れたベンチに腰を下ろした。
静かな時間が流れ、二人はしばらく言葉を交わさず、過去の思い出に浸るように周囲を見渡していた。
奏音が先に口を開いた。
「久しぶりだね、大輝。この場所、覚えてる?」
大輝は小さく頷いた。
「ああ、奏音がここでよくギターを弾いていたよね。みんなで集まって、奏音の演奏を聴いていた。あの頃は、本当に楽しかった…」
奏音は微笑んで、大輝の顔を見つめた。
「そうだね。でも、大輝もギターを持ってたじゃない。あの時から、音楽が好きだったんだよね。」
大輝は少し照れたように視線を逸らした。
「まあ…でも、奏音みたいにうまくはできなかったよ。」
奏音は優しい声で続けた。
「そんなことないよ、大輝。あなたの演奏には、あなたらしさがある。それが一番大切なことだと思う。」
その言葉に、大輝は一瞬言葉を失った。奏音が言う「らしさ」とは何か、彼にはまだ完全には理解できていなかった。
「でもさ、奏音…いや、Kanonにとっての『音楽』って、どういうものなんだろう?プロとして、どう感じてるのかなって。」
奏音は少し考え込み、やがてゆっくりと答えた。
「音楽は…私にとって、自己表現の一つだと思う。感情や思いをメロディに乗せて届けること。それが私のやりたいこと。そして、その音楽が誰かの心に響けば、それが一番幸せなことなんだ。」
その言葉に、大輝は何かを感じ取った。
彼の中で揺れていたものが、少しだけ形を持ち始めた気がした。
「ありがとう、奏音。君の言葉で、少しだけど、見えてきた気がする。」
奏音は微笑んだ。
「私たち、これからも音楽を通して繋がっていけると思うよ。だから、大輝も自分の音楽を大切にしてね。」
撮影の再開を知らせるスタッフの声が響き、奏音は立ち上がった。
「またね、大輝。今日は短い時間だったけど、話せてよかった。」
大輝は彼女を見送りながら、その背中を見つめた。
彼女の存在が、彼にとってどれだけ大きいものかを改めて感じながら。
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