第26話「初めてのセッション」
土曜日の午後、音楽室には涼太たちが既に集まっていた。大輝は少し遅れて到着し、すでに準備を整えている彼らの姿を見て、緊張感が高まった。自分がこの場に立つ資格があるのか、不安が胸をよぎる。
「大輝、来たね!じゃあ、早速始めようか。」
涼太が明るく声をかけ、大輝を迎え入れた。音楽室の雰囲気はどこか和やかで、大輝の不安を少し和らげてくれた。彼はギターを抱え、アンプに接続しながら、深呼吸をして気持ちを落ち着けた。
「今日は、まず簡単な曲からやってみよう。」
涼太がそう言うと、バンドメンバーがそれぞれの楽器の準備を始めた。真奈美はキーボードの前に座り、優雅な手つきで鍵盤を撫でるように音を確かめる。直人はドラムセットの前に座り、軽くスティックを振りながらリズムを刻み始めた。
大輝も涼太の指示に従い、ギターのチューニングを整えた。そして、彼らが演奏する曲のコード進行を頭の中で確認しながら、少しずつ指を動かし始めた。
セッションが始まると、音楽室は一気に活気づいた。涼太のボーカルが響き渡り、真奈美のキーボードがそれに寄り添うように美しいメロディーを奏でる。直人のドラムがリズムを刻み、全体の演奏を力強く支えていた。
大輝はギターの音を合わせながら、彼らと一緒に音楽を作り出す感覚に浸っていた。セッションの中で、音が重なり合い、ひとつの楽曲が形を成していく瞬間は、まさに魔法のようだった。
しかし、その喜びも束の間、大輝は自分の演奏が他のメンバーに比べて未熟であることを痛感し始めた。彼のギターの音は、どこかぎこちなく、リズムに乗り切れない部分があった。何度もミスを犯し、そのたびに涼太たちの演奏に影響を与えてしまう。
「大丈夫、大輝。焦らなくていいから、自分のペースでやってみよう。」
涼太は優しく声をかけ、大輝を励ました。しかし、その言葉がかえって大輝の心に重くのしかかる。彼は自分の未熟さを痛感し、プロを目指す道のりの険しさを改めて感じた。
セッションが終わると、大輝はギターを置いて深く息を吐いた。体中に緊張が溜まり、疲れが一気に押し寄せた。しかし、その疲労の中には、自分が挑戦したことに対する充実感も混ざっていた。
「まだまだだな…」
大輝は小さく呟いた。だが、その声には諦めの色はなかった。彼はこの経験を糧に、さらに努力しようと決意を固めていた。
「大輝、今日はお疲れさま。また次回も一緒にやろうね。」
涼太が肩を叩き、笑顔でそう言った。大輝はその笑顔に励まされ、もう一度前を向くことができた。
「はい、ありがとうございます。またよろしくお願いします。」
大輝は深々と頭を下げ、次のセッションに向けて気持ちを新たにした。この一歩が、彼にとってさらなる成長への始まりだった。
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