第20話「新たな決意」

夜が更け、音楽室は静寂に包まれていた。大輝はひとり、ギターを抱えながら、繰り返し同じメロディーを弾いていた。


その音色は、彼の心の中にある葛藤や迷いを反映するかのように、どこか不安定で途切れがちだった。


「俺にとって、音楽って何なんだろう…」


大輝は自分自身に問いかけ続けていた。

これまでの彼の音楽は、ただ奏音に追いつくためだけのものであったかもしれない。

その考えが、彼の心に重くのしかかっていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


小学校の頃、大輝が初めてギターを手にした日のことを思い出した。


父親が古いギターを家に持ち帰ってきたとき、大輝は興味津々でそれに触れた。


「これ、弾いてみてもいいの?」


そう尋ねると、父親は微笑んで「好きなだけ弾いてみな」と言った。


大輝はギターを手に取り、指で弦をはじいてみた。

その音は不器用で、音楽とは呼べないものだったが、大輝はその瞬間、心の中に何かが灯るのを感じた。


「もっと上手に弾けるようになりたい」


その時の純粋な思いが、大輝の音楽の原点だった。


奏音との出会いよりも前、彼はただ音を楽しみたいという一心でギターを弾いていた。

何の目的もなく、ただ音楽そのものに魅了されていた。


だが、中学に入って奏音と音楽を共にするようになってからは、彼女の存在が大きくなりすぎた。


彼はいつの間にか、彼女に一緒にいるため、そして追いつくために音楽をするようになり、その純粋な楽しさを忘れてしまっていたかもしれない。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


現在の音楽室に戻り、大輝はその時の自分を思い出していた。


音楽そのものを楽しんでいた頃の気持ちを、もう一度取り戻せないだろうか。その思いが、彼の心の中で少しずつ芽生え始めていた。


「音楽って、もっと自由でいいんだよな…」


そう呟くと、大輝は再びギターを手に取り、何の計画もなく指を動かし始めた。

次第にそのメロディーは、彼が今まで弾いてきたどの曲とも違う、もっと自然で、心地よい響きを持つものになっていった。


奏音との約束も大切だが、それ以上に自分自身の音楽を見つけることが必要だと彼は感じていた。


奏音に追いつくためではなく、自分が本当に音楽を楽しめるようになるために。


「これが、俺の音楽なんだ…」


その瞬間、大輝は自分の中に新たな道が開けるのを感じた。


奏音との約束を守りつつ、自分自身の音楽を追求することが、彼のこれからの目標になるだろう。


彼はその夜、音楽室で新しいメロディーを紡ぎ続けた。


それは、今までの彼の音楽とは違う、もっと彼自身の心を映し出す音楽だった。

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