第19話「再び目指す音楽」

夜が深まり、音楽室の窓の外はすっかり暗闇に包まれていた。大輝はギターを弾き続けていたが、ふとその手を止めた。


心の中に湧き上がる不安や焦り、それを振り払おうとする決意が入り混じり、頭の中が混乱していたからだ。


「このままで本当にいいのか…」


その疑問が、彼の心に重くのしかかっていた。


奏音との距離が日に日に広がっていくように感じる一方で、自分自身の進むべき道がはっきり見えない。その不安は、次第に彼の音楽への情熱さえも曇らせるようになっていた。


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中学時代、まだ奏音がプロデビューする前のこと。


彼女はいつも自信に満ちた表情で、音楽について語っていた。


「大輝くん、音楽ってね、ただ楽しいだけじゃないんだよ。私にとっては、自分自身を表現する手段なんだ」


奏音は大輝にそう語りながら、ピアノを優しく弾いていた。


彼女の演奏には、いつも彼女自身の感情が込められていた。

それが彼女の音楽の強さであり、魅力だった。


「だから、私はもっと音楽を深く学びたいし、もっと多くの人に私の音楽を届けたいと思ってる」


その言葉に、大輝は何も言えなかった。奏音の決意と情熱に圧倒され、自分がまだ音楽の表面しか見ていないことを痛感させられたからだ。

それでも彼は、奏音と一緒に音楽を続けていきたいという思いが強かった。


「俺も、奏音ちゃんみたいに自分の音楽を見つけたい…」


そう思いながら、大輝はその日からさらにギターの練習に励むようになった。

だが、どれだけ努力しても、奏音のように自分の音楽を見つけることができないままでいた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


現在の音楽室に戻り、大輝はその時の感情が再び蘇ってきたことに気づいた。


彼女のように自分を表現できる音楽を見つけることができないまま、ただ時間だけが過ぎていく。


奏音が遠くに感じられるのも、そのためかもしれないと彼は思った。


「自分にとっての音楽って、何なんだろう…」


その問いが頭に浮かび、大輝はギターを見つめた。


これまで彼が奏でてきた音楽は、ただ奏音と一緒にいるための手段だったのではないかという不安が心をよぎる。


それだけでは、彼女に追いつくことはできないと分かっていた。

だが、どうすれば自分の音楽を見つけることができるのか、その答えはまだ見つかっていなかった。


焦燥感に苛まれながらも、大輝はその夜、再びギターを手に取り、ひとつのメロディーを繰り返し奏で続けた。


その音色は、まだ答えを見つけられない彼の心を映し出すように、どこか不安定で、揺れ動いていた。

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