第15話「音楽の約束」
ギターを弾きながら、大輝はデモ音源を繰り返し再生していた。
奏音の透き通るような歌声が、彼の心を何度も震わせる。
彼女の音楽に込められた想いを感じ取りながら、自分もその一部に加わりたいと願う気持ちが、彼の胸を熱くした。
だが、それと同時に大輝は、奏音との距離を強く感じていた。
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奏音がプロデビューする前の最後の文化祭のことを思い出した。
二人で出演することになっていたその文化祭は、大輝にとって特別な意味を持っていた。
奏音はその頃からすでに周囲から注目されており、彼女の演奏を聴きに来る人々も多かった。
「大輝くん、今日は一緒に頑張ろうね!」
奏音はいつものように明るく微笑みながら、大輝に言った。彼女の声にはいつも通りの明るさと、どこかのびやかさがあった。しかし、その日のステージで、大輝は自分の無力さを痛感することになった。
奏音の演奏は完璧で、観客を魅了するものだったが、彼自身のギターはうまく弾けず、音を外してしまった。
ステージが終わった後、大輝は悔しさでいっぱいだった。
演奏中、奏音が彼に目を向けるたびに、自分が足を引っ張っているように感じてしまったのだ。
「ごめん、奏音ちゃん…俺、全然ダメだった…」
大輝はそう言って頭を下げたが、奏音は優しく彼の肩に手を置いた。
「そんなことないよ、大輝くん。一緒に演奏できてすごく楽しかったよ。音楽はね、完璧じゃなくてもいいの。心がこもっていれば、それが一番大事なんだから」
奏音の言葉に少し救われたが、それでも大輝の心には自分の力不足を痛感した苦い記憶が残った。
彼女に追いつくためには、もっと練習しなければならないと、その日強く決意した。
奏音はすでにプロのミュージシャンとして成功しており、その才能は周囲からも高く評価されている。
一方で、自分はまだギターの練習を続ける身。
奏音のように人々を感動させる音楽を作り出すには、まだ遠い道のりが残されている。
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現在の大輝も、その時の決意を思い返しながら、ギターの弦を強く弾いた。
奏音との思い出が彼を支え、その距離を少しでも縮めようと彼を駆り立てる。
「奏音ちゃん、もう一度、一緒にステージに立ちたい…」
その想いが彼を突き動かし、デモ音源に合わせて新しいメロディーを紡ぎ出そうとする。
彼女の音楽に、自分の音楽を重ねることで、もう一度二人の音が共鳴する瞬間を夢見て。
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