第2話「音楽室の孤独」

大輝はギターを元の場所に戻し、店の隅にあるソファに座り込んだ。周囲の音楽が心地よく響く中で、彼の思考は過去の記憶にさまよっていた。


奏音との出会いから始まり、共に過ごした日々が次々と思い出される。


彼の記憶は、数年前の春に遡った。


まだ彼と奏音が中学生だった頃、二人は音楽に対する情熱を共有していた。

学校の音楽室で、彼女が初めてギターを弾く姿を見たとき、大輝はその美しい音色に心を奪われた。奏音の演奏は、彼の心に強く刻まれ、彼もまた音楽に興味を持ち始めたのだ。


「これ、君にも弾けるようになってほしいな」

ある日、奏音は大輝にそのギターを貸し、「一緒に演奏しよう」と言った。


その瞬間、大輝の中で何かが変わった。


彼は音楽の楽しさと、奏音との深い絆を感じた。

二人は放課後に音楽室で練習を重ね、共に小さなライブハウスで演奏する機会も得た。彼女の歌声とギターの音色が、どれだけ彼を幸せにしたかは言葉では表しきれない。


その思い出に浸りながら、大輝はふと気づいた。

奏音が東京に行ってしまったことで、自分も何かを変えなければならないという気持ちが芽生えていた。

彼女が音楽の大舞台に挑戦する姿を見て、自分もまた、彼女に負けないように夢を追い続けるべきだと強く感じていた。


店内で流れる音楽が、次第に彼の心を落ち着けていく。

大輝は、奏音が東京で成功を収める姿を想像しながら、自分もまた努力を続ける決意を新たにした。彼の中で、二人の夢が交わり、共に歩む未来が描かれていくような感覚があった。


「俺も頑張らなきゃな」


大輝は静かに呟き、立ち上がると店を出た。


外に広がる花園市の景色が、彼の心に少しの希望とともに映っていた。

奏音がいなくなった今も、彼の中で彼女と共に過ごした時間が生き続けている。

その思いを胸に、大輝は再び歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る