Crossroad Melody -君と奏でる未来-

半名はんな

第1章:離れた心、繋がる音

第1話「遠くの約束」

花園市の夏の暑さは、街を包み込むように強烈だった。どこを歩いても、じっとりとした湿気が体にまとわりつき、歩くたびに汗がじんわりとにじむ。大輝たいきは、そんな不快な天候にもかかわらず、日課のように駅前の音楽ショップへと向かっていた。


音楽ショップは、彼にとって心の避け所であり、安らぎをもたらしてくれる場所だった。店に入ると、冷たい空気とギターの音色が彼を迎え入れる。店内には、新しいギターやアンプが並び、若者たちが試奏を楽しむ姿が見える。その音楽が、大輝の心にわずかな癒しをもたらしていた。

しかし、その日、大輝の心はどこか重く、浮かない気分だった。数日前、彼の幼馴染であり、音楽のパートナーでもあった奏音かのんが、夢を追い求めて東京に旅立ったばかりだった。彼女の姿を駅で見送った時の光景が、今でも鮮明に蘇ってくる。


大輝は、店の奥にある試奏用のギターコーナーに向かうと、目に留まったのは奏音が愛用していたのと同じモデルのギターだった。彼女がいつもそのギターで奏でていたメロディーが、今もなお彼の心に響いていた。


彼はそのギターを手に取り、座ってみる。弦に触れる指先からは、自然と奏音との思い出が流れ出すような感覚があった。彼女と共に過ごした時間、その全てが音楽として心に刻まれていた。しかし、今はその音楽が一層空虚に感じられる。


大輝は、ギターを弾きながら、奏音からの最後のメッセージを思い出す。


「頑張るから、また一緒に演奏しようね。」


その言葉が、彼の心に新たな希望をもたらしていた。彼女がどれだけ遠くにいても、二人の音楽が完全に途切れることはないという信念があった。

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