第42話 孤児院にて case-2

私は立派な聖女になるためにここにいる。

この場所はかつて人類に"奇跡”の力を授けてくれた神に祈りを捧げ、世界の平和のために生涯を尽くす聖女を育成するための場所である。


世界各地に存在する教会や聖治院にて活躍する聖女がこの場所から排出されるのである。

私は母や祖母を超えるような聖女になりたい。


ハンデを背負いながらも枢機卿として活躍する祖母。魔族との戦いのために力を尽くし殉職した母。

教会の内部事情はきな臭いけど、必ず私の手で元の神聖なものにしてやるんだから。


セイファは今日もその美貌を覆うような修道服に身を包むと家をでた。



最近は学校が楽しい。新しい友達ができたからだ。

銀色の毛並みと可愛らしい猫耳。そして、どこか憂いのあるクールな表情。なぜ皆はこの娘の魅力がわからないんだろう。


この神聖国では彼女のような獣人は少ない。殆どの国民が純粋な人間だ。

そのため、表立ってということはないが差別の対象である。

でも私は経験豊富な祖母から獣人、亞人について聞いていたから、彼女が修道院やってきた時も驚かなかった。


彼らの中にも人間と同様に心根が美しい者もいれば邪悪な者もいる。

かつて、祖母が世界中を修行のために旅をした時、親切にしてくれたのはむしろ私たちの同胞ではなくて、彼らのような亞人や時には魔族だったらしい。


彼女には勇気がある。崇高な目標のために、この修道院に一人聖女になるために入ってくるなんて。私だったら同じことができただろうか。


「パプリカ。おはよう。」

彼女はシャイだ。挨拶をしても、最初の数秒は耳をピクッと動かすだけ。


「おはよ。」

小さく返事をしてくれた。彼女はいつ見ても勉強している。

なんでも自分は皆より歳をとってから入学したから遅れを取り戻したいらしい。私も負けられない。

彼女のように頑張っている子がいる限り、世界は少しずつでも平和になるはずだ。

主よ。パプリカと友人なれたことを貴方に感謝いたします......願わくば、このケモミミを一度でいいからモフりたい。っていかんいかん。冷静にならねば。



「ちょっとここは私の席ですわよ。」

私たちの邪魔者が現れた。席なんかどこでも良いだろう。気を引きたいのか?

パプリカは私のものだぞ。


「そんなのどうでもいいでしょ。席なんて決まっていないでしょ。」

私が抗議すると、パプリカは何も言わずに退いてしまう。

彼女は身分や生まれを気にして反論することができないんだろう。たまに彼女たちを射殺しそうな目でみていることがあるけど、悔しさまでは隠せないよね。

ここは生まれだけは良い私がビシッと言ってあげないと。


「シルファ様、でもこいつは。」

それ以上言おうとするのを睨みつけて止めてやった。パプリカは去ってしまう。

本当ならこいつを張り倒してやりたいけどパプリカはそんなこと望まないよね。そんな私を気遣ってか彼女は優しい言葉をかけてくれる。


「シルファいいのよ。私はどこでも勉強さえできればいいんだから。」


「パプリカ、でも。」

なんて健気な子なの。

こんなにもクールでかっこいい雰囲気なのに。勉強以外の時間は孤児院で子供たちの面倒をみているなんて!っとこれはまだ本人から聞いていない情報だったわ。こんな天使みたいな子が存在するなんて......

神は居る。そう思うわ。


パプリカはいってしまった。私は貴族の子たちを振り返る。

「あなたたち、あんまりこういうことはやめなさいよね。」

普段から力関係を気にしている子達は身分が上の人間には媚びへつらい、下の人間には厳しい。この場所で何を学んでいるのか小一時間問い詰めたいけれど、そんな時間は無駄だわ。


「わかりましたわ。でも、あの娘が私たちの邪魔をするからいけないんですのよ。シルファ様からも言っておいてくださいまし。」

何も反省していないし、これからも変わらないだろう。


それよりもパプリカと一緒に授業を受けないと。

私は彼女たちの相手はそこそこにしてパプリカを追った。



「パプリカ、隣良い?」

彼女は無言でそれを肯定した。


「ありがとう。ねえ、次の歴史の授業の予習はしてきた?」


「それなりには。」


「そっか。そうだよね。お仕事忙しいよね?」


「シルファも忙しいのでは。」


「うん。私は忙しいけど、大したことはないから。」


「流石。私には真似できない。素敵な仕事。」

彼女は無愛想だけど、失礼ではない。こうやって話しかければ社交辞令の一つも返してくれるのだ。


「そういえば、パプリカは何の仕事をしているの?」


「それは...内緒...」


彼女は孤児院で働いていることを隠しているようだ。なぜだろう。立派な仕事なのに。


「そっか。何か理由があるの?」

つい深追いしてしまう。


「それは、規則だから。」

そういえば、あの孤児院の運営で非公式なんだっけ?本来ならば私も手伝うべきなんだけど、自分の仕事がなければ、パプリカとキャッキャウフフの生活がおくれるのに。悔しい。


そんな感じでパプリカとは色々お話ししている。

私はこの国、もはやこの地域から出たことがないから色々な仕事をしていたという彼女の話は面白い。

貴族同士や教会内での駆け引きなどはまったく面白みがない。残念なことにここの子の会話の話題ってそればかりなのよね。


とにかく私は、このエンジェルが聖女として認められてミカエルになるまで、力を尽くすことにするわ。

そしていつの日か。あの猫耳をもふもふさせてもらうんだから。

なんかやる気でてきた。

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