第41話 孤児院にて case-1
愛とは全てを超越した概念である。
その尊さは富や力、名声とは一線を画する。
「パプリカ!今日は何をして遊ぶの?」
子供たちがパプリカに群がる。
パプリカは現在神聖国にいる。無論任務のためだ。
そしていまは孤児院にて働いているのであった。
元来大勢でいるのが嫌いなパプリカは子供たちとの距離感を測りかねている。
午後は勉強がある。潜入とは難儀なものだ。
しかし、今回の獲物は大きい。それもかつてないほどの大きさだ。
パプリカは子供たちを上手にあやすと学校にむけて出発した。
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この神聖国は、その名の通り神聖な国である。
人類愛を最上と説く宗教が国教であり、この国では王侯貴族から平民までの全ての階級の人間がこの宗教の信者だ。
今回の任務は少々特殊である。何故ならば、パプリカが暗殺するべき標的は人ではないからだ。
加えて久しぶりの単独任務である。これは組織の中に聖女たる資格を持つものがパプリカしか存在しないためだった。
「解せぬ。」
彼女は聖女を育成するための機関で勉強をしている。
「パプリカ。おはよう。」
気だるそうに登校するパプリカに挨拶をしてきたのは、同じくこの学校に通う学生であるシルファだ。
なんだが彼女はパプリカを気に入ったらしく、仲良くしてくれている。最も魔族を忌むものとするこの国ではパプリカのような獣人は差別されがちであった。
「ちょっとここは私の席ですわよ。」
貴族の子女だろう。無駄に絡んできて面倒臭い。パプリカは何もいわずに席をはなれようとする。
「そんなのひどいわ。席なんて決まってないでしょ。」
シルファは彼女を注意した。
「シルファ様でも、こいつは。」
子女は躊躇いがちになる。いつのまにか取り巻きたちの視線もこちらを向いている。
「シルファいいのよ。私はどこでも勉強さえできればいいんだから。」
パプリカは面倒ごとの気配を感じたのでシルファには悪いが言うことを聞く。
「パプリカ。でも。」
シルファは心配する表情をみせる。
パプリカは席を移動した。
「あなたたち、あんまりこういうことはやめなさいよね。」
シルファはまだやっているみたいだ。正義感が強く、弱いものを見過ごせない。それが彼女である。
それに、
「わかりましたわ。でも、あの娘が私たちの邪魔をするからいけないんですのよ。シルファ様からも言っておいてくださいまし。」
彼女たちは素直にシルファの言うことを聞いている。
まあそれもそのはずだろう。
シルファの祖母はこの国の最高権力者の枢機卿の一人なのだから。
枢機卿の前では貴族の階級など意味をなさない。
パプリカはそんな大権力者を祖母にもつシルファに気に入られているのであった。
理由はわからない。
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パプリカが学校に通う少し前の話である。
任務の内容が彼女に伝えられてから程なくして彼女はこの国に入った。
まずは情報収集と就職だ。
パプリカは長いこと暗殺稼業を続けているが、彼女が現地に行って就職するのには情報収集や現地での隠れ蓑としての役割だけでなく、息抜きのような意味合いもある。
庶民的な生活が肌にあっているのである。
そんなことを考えながらパプリカは仕事を探していた。学校に通うことは任務の前提になっているし、
なにか気楽にやれるものはないかと考えていた。
「これは、」
パプリカは一つの求人を見つけて足を止めた。
「すみません。これをみてきたんですが。」
パプリカはこじんまりした教会にきていた。中からは老婆がでてくる。
「よくきてくれたね。」
老婆はパプリカを暖かく出迎えた。
パプリカは一息吐くと彼女から仕事の内容や条件を伺った。
「若いものには厳しい条件だろう。ここの運営はなかなか大変でねえ。」
彼女は特にパプリカを責めることもなく、現在の状況を嘆いている。
「わかりました。宜しくお願いいたします。」
パプリカは二つ返事でOKした。確かにここで生きていく人間であれば、この教会、孤児院での仕事の報酬は少ない。
しかしながら、パプリカは流浪の身である。住み込みというのも大きい。ここから聖女を育成するための学校に通い、機を伺う。
「おや、やってくれるのかい?」
老婆はパプリカのクールな佇まいから、こういった場所はあまり得意ではないかと察していたため少々意外だった。
「ここには勉強できた。生活さえできれば良い。だから、」
彼女は毅然としている。
「是非宜しくお願いいたします。」
「殊勝なこころがけだこと。」
老婆はそういうとパプリカを子供達に紹介して、ささやかなら歓迎パーティーをしてくれた。
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