第38話 共和国にて case-18

形勢を変えたのはマキシマスの機転からだった。

意思の疎通をしないで技量のみで戦っている敵に対して、マキシマスとセイフォンの二人の連携は時間が経つたびに増してきている。


変幻自在に思えた技も彼らの手癖や重心の移動方法に一つの規則性を見出すことができはじめていた。

ファイキンの相手をマキシマス。魔族の相手をセイフォンが担当している。


ファイキンの技は重たい。しかしながら洞察力に長けたマキシマスは攻撃を受けるだけなく、徐々に反撃ができるようになっている。


セイフォンの方はといえば、手足のリーチが長く分身して迫ってくる魔族に対して、やや押され気味であった。しかしながらも持ち前の体のバネを活かして剣戟をいなしている。


『セイフォン。こっちからやろう。』


『御意、隙さえつくれればそれがしが技を叩き込むでござる。』


『わかった。ただしチャンスは一度きりだ。少し賭けになるが。』


マキシマスは奇跡を使った。敵の頭の中に大量の情報を送り込むのである。

それと同時に受けてから攻撃にまわる。

唐突に溢れた情報にファイキンは一瞬だけ動揺したが、すぐに持ち直した。


マキシマスは持っていた剣をあろうことか魔族の方に投げつける。

セイフォンはそれと同時に奇跡を発動させ、ファイキンと自身の距離を一気に詰める。

彼女は渾身の技を振るった。彼は躱すことができないと悟ったのか利き腕とは反対側の左腕を犠牲にして致命傷を防いだ。


セイフォンが追撃の素振りを見せると、ファイキン渾身の蹴りを受けそうになる。それをマキシマスどうにか防ぐ。魔族の剣闘士は剣を失ったマキシマスを追い詰めようと丸腰の彼を挟撃する。


しかしそれがこちらの狙いであった。

セイフォンは距離を詰めてきた魔族に返す刀で”燕返し”をお見舞いした。


一刀両断というのはまさにこのこと。分身体を切り裂くと本体とリンクしているようでそちらも程なく絶命する。



『今のは危なかった。分身体のダメージが本体に入らなかったら今のでやられていた。』


『よく防いだ。』


ファイキンはやられた相方を見つつ、左腕を抑える。


「こそこそと気に食わぬやつらめ。」

なにやら恨み言を連ねているようだ。


一応ルールではタッグのどちらかが戦闘不能になった場合は降参を選択することができる。


「勝負は見えた。降参してはどうでござろうか?」

セイフォンは彼に降参を促す。


「馬鹿いうな。俺様の腕を切り落としやがって。お前だけは許さねえ。」

まったく降参するつもりはないらしい。


マキシマスは先ほどの動きで消耗が激しい。防いだとはいえ、並の剣闘士なら即死させそうな蹴りを喰らったのである。骨の何本かは骨折していてもおかしくはない。


『少しだけ時間を稼げ、二体一でやろう。』

マキシマスはセイフォンが不利だと考えた。こちらは一撃でも喰らってしまえばアウトなのだ。


『いやこの後もある。こいつは私がやろう。』


セイフォンは構えた。


「なんだ一人でやる気か?」

ファイキンは不服そうにしている。彼女は何も応えない。



膝をついているマキシマス。構えたセイフォン。防御の姿勢を取るファイキン。

闘技場は一瞬静まり返る。


セイフォンは大きく踏み込むとファイキンの懐に入る。刀で斬りつけようとするがそれを回避する。ファイキン彼は今まで持っていた斧をおそらく最小サイズまで縮めて彼女の攻撃を受け止める。

のけぞるファイキン。そして再度攻撃を加えようとするセイフォン。


『引け。罠だ。』

マキシマスがそう伝えるが間に合わない。


一気に斧のサイズを変えてその重しを利用してセイフォンに目掛けて振り下ろす。

誰もがセイフォンの死を予感した。それだけにファイキンの攻撃は見事だった。



しかしそれすらも予想通り。セイフォンは奇跡を使うと彼との距離を少しだけ調整して攻撃を交わし、冗談からの最後の一撃を放つ。

ファイキンは左肩から右の脇腹にかけて大きな傷を負う。


「見事。まさか距離を詰めるだけでないとはな。」

ファイキンは血を吐きながら言った。


「切り札は最後まで切らないつもりだったでござるよ。」

セイフォンは彼を労った。この場所がどうであれ、自身を追い詰められる戦士は少ない。


彼は豪快に笑ってから前向きに倒れて絶命した。


闘技場からは何度目かの絶叫が聞こえる。前評判よりも実際に戦ってみるとファイキンは誇り高い戦士だったように感じる。


マキシマスも大事には至っていないようだ。この後の戦いこそ本命である。

セイフォンはパプリカがいるであろう位置を見て静かに微笑んだ。



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パプリカはこの戦いの間に何度か狙撃をするべきか迷った。

自分の存在はセイフォン以外は知らない。だからこそ、この実質の決勝戦とも呼べる試合でセイフォンたちをサポートした方が任務の遂行に貢献できるのではないかと考えたからである。


「強い。」

パプリカはセイフォンの強さを改めて感じていた。


今回の任務遂行に関して、パプリカは内部に剣闘士を用意せずに外から射撃した場合の成功率を幾度も試算してある。

要は先ほどの二人がアリヤバンたちと戦っている際中に、一発の弾丸で王の勝利に見えるように敵を打ち砕くことである。


アリヤバンの自信の持ち様と彼の以前の従軍歴から決して弱い戦士ではないことは知っている。

だが自分のサポートがあったとはいえ、あの二人に勝てただろうか?


彼らならばどちらか片方だけでもアリヤバンのペアを倒してしまいそうだった。

おそらくセイフォンらが参加しなかった場合の成功率は5分といったところだっただろう。


現在の状態は任務遂行にとって最大限に望ましい状態である。



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セイフォンはマキシマスを労う。一時の関係とはいえ、これまでの経緯からも彼はリスペクトに足る戦士だ。今となっては、彼の反乱の企てを早期に阻止したことは少しだけ悔やまれる。

一人の戦士としてのセイフォンはマキシマスに生きてほしいと思った。


一度控室に戻ると、マキシマスは案の定脇腹の骨が2.3本逝っていたらしい。

あのまま動いていたら最後の試合に出れていたか怪しいということだった。


セイフォンも魔族の剣闘士から受けた切り傷が無数にある。手負いの状態で最後の闘いに臨むことになったが彼らは晴れやかな気分だった。


舞台は整った。セイフォンはマキシマムを援護して最後まで手を尽くす。

パプリカもどこかから狙っているはずだ。必ず任務は遂行される。



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アリヤバンは熱狂していた。

ここまでの戦いはこの闘技場史上でも類を見ない。

自分が敗れて殺されるとは露程も思わない。


彼はこの世界で一番恐ろしい者を味方にしていたからである。


「王政復活の幕開けだ。」

彼は王家の紋章が彫られた初代の王サトゥから受け継がれた剣、エクスカリバーを手に取ると戦いへと向かう。

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