第35話 共和国にて case-15

勝利したマキシマスたちは活躍が認められて剣闘士としての階級が上がった。

数ヶ月という短い期間で奴隷階級から大貴族の階級まで上り詰めた剣闘士は少ない。


セイフォンは誇らしそうにパプリカに語った。

「いよいよ任務遂行でござるな。」


「予想通り、アリヤバンは大貴族階級の元貴族の青年と組むらしいわよ。」

パプリカは毎日行われているアリヤバンの演説でそれを知った。


「やはり優勝候補の3人から選んだでござるか。」


マキシマスやセイフォンたちが戦ってから10日間ほどが経ち、さまざまな形で海戦が行われ剣闘士たちは篩にかけられている。



「4年1度っていうのは、既存の剣闘士を一掃する意味もあったのね。」

パプリカは結果を見てそう感じた。



「かなりの数の剣闘士が命を失ったでござるよ。反乱の企ても厳しいでござろうな。」

セイフォンは剣闘士たちが不憫になった。彼女のように特にお金に困って剣闘士になったものでなければ、こういった大会や理不尽からは逃れる術もある。


剣闘士たちが結束を固めて反抗する前にこうやってまとめて処分してしまうのであろう。

4年に一度というのも妙であった。



「しかしタッグバトルは想定していなかったゆえ、パプリカ殿どうするでござる?

一騎打ちならば、どうにかなったやも知れぬが。」



「非常に困ってる。やっぱり貴方を犠牲に。」

パプリカはセイフォンを見つめた。



「それがしはまだ死にたくないでござるよ。」



「貴方が決勝まで勝ち上がってどうにか場を整えてくれるしかないわ。」

パプリカはいくつか思案した後にそう言った。


セイフォンは苦い顔をしている。


実際、海戦に参加した後で決勝に進むかは参加資格のある剣闘士たちに委ねられている。

セイフォンはここで棄権して、ひっそりと姿を消すこともできるのである。情報収集という意味では彼女の働きは十分であった。



「タッグを組める相手は見つかったの?」


「それが見つからんのでござるよ。それがし一人でも戦えないことはないのでござるが。」

それでは流石にだろう。我々は決して剣闘士として有名になりたいわけでもこの国で名声を手に入れたいわけでもない。



「それなら、私に考えがあるわ」

パプリカは自身の考えを彼女に話すとセイフォンは渋々ながらもそれを了承した。


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マキシマスはセイフォンから呼び出しを食らっている。

彼女とは一緒に戦った日から一度も会っていない。加えて、一度は自分の仲間を殺されている。

決して馴れ合おうとは思わなかった。



「それで話とは?」

マキシマスは大きな肉体をこわばらせながら言った。


「貴殿らの計画についてでござる。」

セイフォンは単刀直入に剣闘士たちの反乱の企てについて述べた。戦闘中の経緯で彼女はマキシマスが懲りずに反乱を企ているのを知った。



「それならすでに潰えた。」

マキシマスたちの考えが実行される前に多くの仲間たちは死んだ。



セイフォンは何も言わない。

「決勝へは?」



「参加しないつもりだ。」

マキシマスは剣闘士としての地位を手に入れている。後は誰かに殺される日が来るまで精一杯足掻くつもりだった。



「拙者が計画に手を貸すといっても無駄でござるか?」

セイフォンの眼光は鋭く、有無を言わさないものであった。



「今更だ。それにお前には俺たちと違って戦う理由がない。」

彼は怯むことなく続けた。



「他言は無用でござるが、拙者にはアリヤバンと戦う理由があるのでござる。」



「ほう。恨みか?そんなタイプには見えないが」



「心外でござるが、今回はその通り違う目的があるでござる。」


二人は無言の応酬を続けた。


「しかし、口で言うほど勝ち上がるのは簡単ではない。」

マキシマスは状況に耐えられなくなったのか論理的に申し出を断ることにした。実際、集団戦よりも個人の能力は重要になるからだ。



「拙者がここの剣闘士たちに負けると?」


「そうは言っていない。しかし、確実に勝てる保証もない。俺は蜂起に際して、幾人かの能力持ちを仲間にしたがお前が特筆しているわけではない。それにここでの暮らしに満足している奴らも多い。」


「では我々が必ずアリヤバンのもとにたどりつければ、その気になってくれると?」

セイフォンは彼の主張に丁寧に耳を傾けてからそう言った。


「そうなるな。俺とて蜂起云々の前に祖国を滅ぼしたこの国が憎い。その象徴たるアリヤバンに一矢報いいれるのであれば本望だ。」

マキシマスは熱くなる。そうだ。ここまで生き抜いたのには何かしら理由があるはずだとも思った。



「わかったでござる。」

セイフォンは意を決する。



「貴殿は先ほどアリヤバンをうてるのであればと確かにそう言ったでござるな?」

セイフォンは問いかける。


マキシマスは頷いた。

「拙者、それがしにはそれができるでござる。しかし、お前の手でという意味ではない。」


「それはどういう?」


「貴殿はソロモン王の名を聞いたことはあるでござるか?」


「それは御伽噺の中で。」


「うむ。かつて偉大なる王は世界を統べた。」


「それは奴隷の子でも知っていることだが、そんな王が実在したかもわからない話じゃないか。」


「彼の王が世界の統治のために作った組織は?」


「ああ、一応は。」


「それがしはその組織の一員でござる。」

セイフォンはマキシマスに告げた。


「お前は一体何を?」

マキシマスは突然の話に驚愕したがそれはすぐに疑念へと変わる。


「お前の望みを叶えるためにはアリヤバンにはこの大会で名をあげてもらう必要がある。」


マキシマスは黙った。


「そしてこれが組織の証でござるよ。」

彼女が袖を捲ると体には刻印があった。


「そ、それは伝承の。」

マキシマスは目を疑った。


「そう我らがソロモン様の操る悪魔の組織だ。この刻印は彼の王にのみ刻印が可能だ。

最も貴殿でもそのくらいは知っているでござろう?」


「しかし、」

彼はしどろもどろになった。ソロモンといえば伝承の存在、そしてその配下を自称するセイフォンとは何者なのであろうか。そしてなにより。


「それと言い忘れていたが、この刻印を見せた時点で貴殿に拒否権はないでござるよ。」


マキシマスは知っていた。この刻印の前では古代の強力な王や魔族たちも頭を垂れていたことを。

彼らに標的にされたモノはその大小に関係なく滅ぼされるからである。

彼女の心に偽りはない。長年の経験でそれがわかった。


「俺はどうすればいい。俺は復讐できるのか?この国に」


セイフォンは彼についてこいとばかりに踵を返し歩き出すとその黒い髪が宙に鮮やかに舞った。

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