第33話 共和国にて case-13
闘技場内で行われる海戦は迫力満点だった。同じ海戦でも微妙に日毎に条件が異なるらしい。
それはあまりこういったものに興味のないパプリカですら目を惹いたのである。
この海戦は以前に行われた共和国と魔族との戦いを模倣したものであった。
剣闘士たちはいくつかの船に分けられて戦っている。この戦いではかなりの死傷者がでることだろう。
どこかの宗教団体も真っ青な催しである。
目の良いパプリカは遠くの席からでも剣闘士たちの戦いを詳細に見ることができた。
「セイフォン。」
パプリカの視線の先には仮面をつけたセイフォンがいる。
彼女は船の上でも器用に他の剣闘士たちを圧倒していた。
この戦いでは剣闘士たちがいくつかのグループに分けられてそのグループ毎にチームを組んで戦う形式のものだ。40名ほどが人組であり、そういった船が10艘ほどある。
最後に残った船が次に進めるというルールだ。仕事中にグルファトから非常に丁寧に教えてもらった。
各船を見ると剣闘士たちにも役割があるらしく、各で船の漕ぎ手と戦闘担当に分かれている。
もちろんセイフォンは攻撃役に回っているようだ。
パプリカは自由自在に動き回るセイフォンの船に一度見たことのある人間をみた。奴隷商人に反抗したあの奴隷である。
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マキシマスは海戦においてチームのまとめ役となっていた。
海戦についての詳細については剣闘士たちも開始日の前日に聞かされて驚愕した。
普段、海に近い闘技場で行なっていた海戦を豪華にしたものくらい思っていたからだ。
普段自分たちが戦っている闘技場に水が張られるなど考えてもみないことであり、更に海戦のルールが発表された時には驚愕した。
剣闘士たちが団体で戦わされることは珍しくない。しかしながら一部の階級を除いてごちゃ混ぜでチームを組み、その上で潰し合いをさせるなどどれだけの規模になるのやら。
そんな心配を他所にチーム分けが発表されると更にマキシマスは驚くことになる。
自分の反乱を阻止した女が自身と同じチームにいた。仮面をしているが間違いない。
勿論彼女の噂は聞いていたが剣闘士としては相手を必要以上に痛めつけず女性の剣闘士は珍しいために民衆からの人気も高いということであった。彼は反乱の件で大して確認もせずに彼女に接近したことを後悔した。
剣闘士たちがチーム毎に集まり、各が自己紹介を終えると彼女の番になる。
「それがし、いや、拙者は東国からの流れ者でござる。名はセイフォン。得物は片刃の剣で相手よりも早く行動することで敵を倒しているでござる。剣闘士の階級は貴族でござる。以後お見知りおきを。」
彼女は恭しく礼をした。
マキシマスの番だ。
「俺の名はマキシマス。俺は兵士だった。今は無い国のな。流れ着いて剣闘士になったが、俺は地位にも名声にも興味はない。できるだけ皆で生き残ろう。剣闘士としての階級は平民だ。」
彼はそれだけ伝えると明日以降のことについて話し合った。そこで、彼を慕う者たちがチーム内に居たことから普段の役割を引き継いでまとめ役となった訳である。
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戦いは最初から激戦になった。
勝ち上がれるチームは一組だけだ。この戦いには多くのチャンスがある。皆死に物狂いだ。
戦いが始まるとすぐ作戦通りに闘技場の端に船を移動させる。
袋叩きにされるのを防ぐためだ。
あとはシンプルであり、こちらに攻撃を仕掛けてくる船を撃退していくのみである。
マキシマスたちが移動するとその船の中腹に向けて突進してくる船がある。
そのまま船をつたって攻撃してくる腹づもりだろう。
総員、攻撃に備えろ。迎撃するぞ。
マキシマスたちの船は回避行動にでたが、攻撃をしかけてきた船の追突をさけることはできなかった。
すぐに敵が乗り込んでくる。
彼らはすぐさま迎撃する。中には飛び道具を使う者も居た。
おいあいつらに気をつけろ。マキシマスは敵を数人相手取りながら声高らかに叫んだ。
「拙者にまかせるでござる。」
彼女の動きは早い。仲間であればこんなにも心強いのかとマキシマスは思った。
無論、かつての仲間たちの命を奪ったことは許せない。しかし、彼女の実力は凄まじい。
彼女はマキシマスに返答するとすぐに敵船に飛び移った。
そして敵の剣闘士たちは彼女に向けて無数の斬撃を放つ。彼女はそれをヒラリとかわしたかと思うと一振りで敵の剣闘士二名を絶命させた。
すぐに次の攻撃に移る。今にも彼女を狙って矢をつがえていた剣闘士に先ほど倒した剣闘士の剣を投げつける。直撃はしなかったが、彼らが怯んだ瞬間に間合いを詰めて鬱陶しかった剣闘士も続け様に絶命させた。
マキシマスの方もこちらの船に乗船してきた敵の剣闘士を水の中に落とす。
それならば運がよければ助かるだろう。しかしながら、ここで民衆から大きな悲鳴があがる。
そちらの方をみると水の中に落ちた剣闘士が何かの生き物に食われている。
「これは、なにが。」
マキシマスが水面を注視すると、そこにはサメに似た魔獣がいた。
「まさかここまで用意周到とは。」
マキシマスは先ほど水の中に落とした剣闘士を船の上にあげようとしたが丁度捕食される瞬間であった。
「クソッ、お前たち水の中にも落ちるなよ。何かいやがる。」
マキシマスたちは水中を恐れ、迫り来る敵船を恐れて戦った。何人かは水中の魔獣の恐ろしさによって恐慌状態だ。
元老院の貴族たちは海戦を見ながら自ら解説をしている。
「見よ。民たちよ。このように我々は敵の魔族だけでなく恐ろしい魔獣たちをも相手取って勝利をしたのである。
剣闘士たちよ。恐るな。さらに白熱せよ。」
その点が今回の海戦の特徴らしい。
剣闘士たちは悪態をついた。もし自分たちが今の身分でなければすぐにでもあいつらに復讐したい気分だった。
敵はどんどんやってくる。最後の一艘になるには最低でも100名以上の敵を相手にしなければならないだろう。
「セイフォン戻れ。」
マキシマスは敵船の中で大立ち回りをしている彼女に告げた。
「御意。」
彼女はそういうと身軽な体を捻って何度かジャンプしてこちらに戻ってきた。
「お前等一旦距離を取るぞ。」
マキシマスがそう言うと仲間の剣闘士たちは大きく返事をする。
「押忍。」
そんな光景に彼は自分の将軍時代を思い出していた。
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