32話 共和国にて case-12
大会は盛大に始まった。
闘技場を中心に街はお祭り騒ぎである。この日から約3週間ほどの時間をかけて優勝者が決まる。
前回大会の優勝者は元々は奴隷落ちした平民であったが、このイベントで名声を確たるものにしたことで民衆から選出される形で今は元老院に出入りするほどの名声を手に入れている。
パプリカは大会の準備で大忙しとなった。
「潜入の際に一々就職するのも考えもの。」
パプリカはこの国に入ってから数ヶ月間でその職業を活用して、様々なところに出向いている。
タベルナという店は元々は外食業であって、どこかしらでパーティーがあったり、中規模、大規模な食事会等があれば店に注文が入るためである。
今回の任務に大きく関わっているアリヤバンにも数回のみ接触できた。上々である。
「それにしても元老院もすごく張り切っているわよね。」
グルファトが手を動かしながら話しかける。
パプリカは同意した。
「なにせ大会の1週間も前から毎日パーティーを開催。それに、昼間には交代で街の中での演説でしょ。もう聞き飽きたわよ。早く戦いが見たいわ。」
彼女は一人で剣闘士の戦いを夢想しているようだ。
パプリカ等が仕事をしている間も外からは色々な声が聞こえてくる。
演説の声や商売人の声、果てにはどこからか調教されてきた奇怪な生き物の唸り声等様々である。
「さて、私たちも仕事を済ましてお祭りに合流しましょう。」
グルファトはパプリカにそういうと仕事に戻っていった。
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大会開催の日、民衆は驚愕することになる。
海戦と聞けば、それは船上での戦いを指す。これは、無論のことながら普段は海辺にある小規模の海戦用の闘技場にて行われる。
しかしながら、流石はこの国の技術と財力。
イベント開始の演説共に開始されたパフォーマンスは圧巻だった。
元老院を代表して、アリヤバンが大会の挨拶をした。
彼は壇上につくとまず建設途中であった街の水路の増設完了を発表した。
治水技術は、この国の技術の中でも非常に専門的かつ革新的なモノであり、インフラの根幹を支えている。
大国の大都市一つに水路を張り巡らせる計画は初代の王サトゥーが考えた。彼の死後200年ほど経った今でも改善に改善を重ね、国中にその恩恵を与えている。
この国は、街道整備による物流や兵士の移送をはじめ、治水工事、港の建設等、巨大なインフラ設備に金の糸目なく費用を注ぎ込んできた。
その結果、世界中でも類を見ないほどの繁栄を享受していた。
一人でも多くの民がこの演説に参加するように国からお達しが来たために、仕事中の者も一部を除いて、闘技場内部、もしくは闘技場の近くに集まっていた。
そして彼の演説は始まった。
「本日はかようなる晴天に恵まれ、我々の繁栄と進歩は止まるところを知らない。民よ、長ったらしい話は余も嫌いである。皆これを見よ。」
非常に簡潔な挨拶だ。アリヤバンが合図を送ると水路に水が流れる。
「まさか。」
普段は冷静なパプリカでさえ、この光景には驚きを隠せない。
最初は少量であった水量が勢いを増して、この闘技場に注ぎ込まれる。民主たちは何が起きているのか困惑している。
「海戦は港の近くでやるはずでは?」
「もしかして!?」
「海からここまではそれなりの距離があるはず」
民衆の中にも彼の意図を察した者がいるようである。
民衆のざわめきに同調するように水の勢いは増していき、闘技場は海水で満たされた。
「皆の者、ここが今回の会場である。」
更に王の合図でラッパ隊が笛を鳴らすとどこからか大きな帆船が現れる。
帆船には剣闘士たちが乗船している。
大会の情報は民衆にはひた隠しにされていた。戦いの形式が発表されていたのみである。
「我らの繁栄は永遠なり。」
アリヤバンがそういうと盛大な音楽が奏でられた。
そこからの民衆の熱狂はすごかった。ただでさえ楽しみにしていたイベントである。
どこからともなく共和国万歳、アリヤバン万歳の声が聞こえてくる。
パプリカですら、かつて見たことのない演出に感動していた。
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「それでどうして黙っていたの?」
家に帰ってきたセイフォンにパプリカが問い詰めた。
「黙っておいた方が楽しいと思ったのでござる。」
セイフォンは悪びれなく答えた。
パプリカは黙っている。冷ややかな目で見つめた。
「任務にも関係ござらんし、パプリカ殿も楽しむでござるよ。」
セイフォンはいやに誇らしそうである。パプリカは驚かされたことが少し悔しかった。
「貴方は帰ってきて大丈夫なの?」
「今日はそれがしの出番はないでござるよ。それよりもささやかながらお土産を買ってきたでござるから、私たちもパーティーにするでござるよ。」
セイフォンはそういうとキッチンに入り、何やら準備を始めたようだ。
「明日は観にくるでござるよ。それがしも参加するでござる。きっと楽しいでござるよ。」
パプリカはその後も愛想が悪かったが、なんだかんだその晩は二人で料理を楽しんだ。
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