第29話 共和国にて case-9

マキシマスはそんな多くの剣闘士の一人として、食事を摂っている。

彼は奴隷商人に対する経緯から、死刑にされるのではないかと考えていたが、何事もなく剣闘士としてこの施設に収容された。



聞く話によるとあの時邪魔をしてきた女は、自身のはるか上の階級として剣闘士に登録しているらしい。

だがこうなってしまった以上、どうしようもないとマキシマスは考えている。



戦いは好きだが、こういう類のものは好きではない。剣闘士として舞台に立たされた時に強く感じた。

なぜ民衆は熱狂するのか、そんな答えは知りたくもない。

今日は朝から仲間たちがどこかソワソワしていた。夜にはいつもとは違う食事がでる。



このことが彼らをこれほどにも喜ばせているのだと思うと憐れみと不安が混ざった感情になる。

自身も彼らのように月に数度の食事を楽しみに戦いに挑み、傷つき、そして見せ物にされて死んでいく可能性があるからだ。



もちろんそれは、精神的な判断ではありえないことであった。

だが、守るものを失い、自分の仲間や祖国、友人までもを失った今、いつまで気高い思想を保てるのかが自分でもあやふやだった。




自分が起こした希望も名前も知らぬ女に打ち砕かれた。彼女は強い。

だが、彼女やそれ以前に彼を苦しめた者たちを凌駕するほどの力が自分にあれば?

自体はこうはなっていなかったかもしれない。




マキシマスは集団生活が長く、貴族出身というわけでもない。

自分の能力と奇跡の力で亡き祖国では将軍職まで上り詰めたのである。




彼はこの剣闘士の集団に対しても割合早く順応した。

ここにはいろんなやつがいるが気のいいやつもいれば、戦いに明け暮れるあまりいつの間にか本当に狂戦士になってしまったやつもいる。

そして、自分に息子がいれば、このくらいであろうという青年たちも多くいた。



「それにしても若いな。」

マキシマスは彼らのことを案じていた。自分の物語はすでに一度終わっている。

ただ、彼らにはまだ何もない。



彼はそう感じながらも床についた。


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剣闘士の朝は早い。

午前中に訓練を行う。単純な戦闘では客が満足しないし、訓練を積むことで上の階級に上がれるチャンスが増える。

訓練の後は、飯を食い公衆浴場で汗を流す。午後は自由時間だ。


戦いの無い日は、さほど悪い待遇ではない。



マキシマスはやる気を見せることもなく、そして手を抜くこともなく訓練を終えた。



正午を告げる合図がなる。荘厳なメロディーだ。

これは現在の王アリヤバンが有名な作曲家に作らせた音楽で王を讃えるものらしい。



この国では至るところに王や貴族の権勢を示すものがある。

共和政であるが、支配階級と被支配階級はしっかりしているのだ。




マキシマスは剣闘士としても順調に勝利を重ねている。そんな彼を慕い、ここに来て何日か経つと幾人かの青年たちが彼に教えを乞うようになった。

管理職が長いマキシマスは教えるのもそれなりに上手なのである。



普段の飯はシンプルなものだ。

パンと具沢山のスープ。そしてなにかしらの付け合わせだ。

いかに人気のイベントとは言え、剣闘士、それも一番下の階級の者にここまでの料理を用意するところは流石と言える。

それだけにこの国が豊かだった。

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