第22話 共和国にて case-2
共和国は、異世界からの転生者サトゥが建国した国である。
彼には、複数の奇跡を使えた、10名以上の妻がいた、幼少期から前世の知識を活かして様々な事業をおこした、といった逸話がある。
亡くなる数年前までは、周りの人間に自身が異世界からの転生者であることは打ち明かさなかったようだが、彼の大きすぎる功績に周りの人間も彼が転生者であることを認めたらしい。
彼は、自身の死後は共和政として、王家、貴族、家臣団、皆で助け合い国を導いてもらいたいとの遺言を残した。
そして、名目上は共和政としての国家が誕生したのである。
国の政治を王家を中心とする元老院にて管理、監督する体制である。
無論サトゥ王の時代は、彼のカリスマ的な能力と革新的な知識にて、この国は驚異的なスピードで成長してきた。
彼は、元々この土地にあった国の貴族の嫡男として産まれたが、ある手違いから辺境への追放の憂き目にあい、その追放に共に着いてきた数名の部下と共に国家を起こし、世界的にもかなりの大国に育て上げたのである。
彼の時代からはおよそ250年と少しだが、現在その結束は緩んでいる。
時間の流れと共にサトゥーの残した子孫たちは、徐々に派閥を形成しはじめ対立し、また侵略によって獲得してきた土地の民も以前ほどの従順さではなくなっている。
よって当代の国王アリヤバンは、ある作戦を立てた。
それは、現在この国、いやこの世界でかなりの人気を誇る剣闘遊戯に己自身も参加して、勇猛かつ有能な王であることを民に広く周知して、元老院での力関係を元の状態に戻そうと考えたのである。
無論、歴戦の猛者たちに本当の意味で王が勝つことは難しい。
そこでパプリカたちに出番が回ってきたのである。
数ヶ月後に開催される4年一度の剣闘大会にてアリヤバンはその優勝者と剣を交えることになっている。
「それにしてもアリヤバン本人にも気づかれずに相手を倒したことにしろってソロモン様も無茶をいうでござるな。」
セイフォンは嘆いた。
「あら、あなたが大会に参加して優勝し、王に殺されれば私の力は必要ないのよ。」
パプリカは真顔でセイフォンに伝える。
「たしかにその手がありましたな。って私死んじゃうじゃないですかい」
セイフォンは非難の目を向けた。
「あなたの実力ならそのくらい簡単でしょう。」
パプリカは続けた。
「それがしも腕には自信があるが、此度の大会はなかなかの癖者ぞろいと聞いておりまする。」
セイフォンは今回の出場者を思い浮かべているようだ。
「やっぱりアリヤバンって馬鹿なのかしらね。」
パプリカは王宮の方を冷ややかな目で見つめる。
「それがしもそう思うでござるが、なにせ当代の王はかつてのサトゥー王と同じ"奇跡"を使うらしいからな。案外勝算があるのやも知れぬ。」
「とにかく、私たちは目ぼしい剣闘士たちに接近して、どいつが王と戦うことになっても問題なく任務を遂行できるようにしないといけない。」
パプリカは決意を決めた表情を見せる。
「そのために私はタベルナで働くことにしたのよ。」
「流石はパプリカ殿、用意が周到でござるな。して、計画は順調ですかな?」
「まあまあね。そろそろ研修が終わって実際にコロッセウムの中での仕事が始まるわ。」
「ふむ。パプリカ殿は内部からじわじわと。やはりそれがしは剣闘士として距離を縮めるしかないでござるかな。うむむ。」
彼女は頭に手をあてて考えている。
セイフォンはパプリカより遅れてこの国に入ってきた為、まだ自身の身の振り方を決めかねている。
そのため、まだ仮宿住まいであり、パプリカの勧めにより、パプリカの家を間借りするのはどうかとも話している。
「あなたこの場所に来る前は?」
パプリカは思い出したように問いかけた。
「傭兵として戦争に参加していたでござるよ。」
セイフォンは答えた。
「奇遇ね。私も似たような感じよ。」
「パプリカ殿もでござるか。しかし、パプリカ殿の能力では大変ではござらんかったか?」
彼女はパプリカを案じるような表情を見せた。
「そうね。あなたは?」
「それがしは慣れてる故」
腰の刀と呼ばれる武器を握り、開けっ広げに答えるセイフォン。
セイフォンは東の国出身だが、そこは1000年も昔から血で血を洗う争いが繰り広げられていると聞く。
セイフォンはその国の中でもそれなりの地位の生まれだったらしいが、色々とあってパプリカの同僚になった。彼女は組織の中でパプリカが知る中ではトップクラスに強い。
先ほどは冗談で剣闘大会に出場して、優勝しろとおちょくったが彼女が本気をだせばそれも可能であろう。
「先程の申し出だが、お願いしても良いでござろうか?」
セイフォンはパプリカからよければ、一緒に家に住もうという提案を受けて少し悩んでいたが受け入れることにしたようである。
「あなたが剣闘士になって、王に殺される話?」
パプリカは悪戯っぽく答えた。
「違いまする。その、パプリカ殿と一緒に、という話でござるよ。」
彼女は少々照れ臭そうにいった。
「助かるわ。この国、物価が高いから。」
パプリカは話す。
「パプリカ殿は任務の手当を仕送りしているのでしたな。感心感心でござる。」
セイフォンはパプリカに対してかなりの敬意を払っているようだ。
パプリカにとってセイフォンは、経費を削減するためのルームメイトでもあったが、同棲を彼女に強く迫ったのには理由があった。
「とにかくそれがしがどのように剣闘士たちに接近するのかは置いておいて、まずはもっと街に繰り出す必要があるでござるな。」
セイフォンは快活に言った。
「そうね。そうしましょう。また、料理してくれる?」
パプリカはセイフォンが振る舞う料理を気に入ったのである。彼女は国に到着してすぐにパプリカに会いに来た。そして、親愛の証にということでパプリカに故郷の料理をご馳走した。
「パプリカ殿、もしやそれが目的かな。」
セイフォンはパプリカを揶揄う。
「あなたの作る料理ってどこにもないもの。だから、」
「皆までいう必要はないでござるよ。それでは料理番はそれがしが担うことにするでござる。」
「悪いわね。ありがとう。」
「でもたまにはパプリカ殿の作る料理も食べたいでござる。」
「それはもちろんよ。私、料理は得意なの。」
「では、買い出しと偵察を兼ねて、街に繰り出すでござる。」
「あなたは本当にじっとしてるのが苦手なのね。」
パプリカがそう言った時にはセイフォンは家を飛び出していた。
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