第20話 グナーダにて case-20 第一章完
エリヤの死亡は正式に国から民衆に伝えられる前にすぐに民衆の間で広まった。
彼らにとってその日は、新たなる英雄王の誕生の日と同時に太陽のような女神を失った日になった。
民衆たちは喜びの絶頂から悲しみの谷底まで大きく揺さぶられることになったのである。
王となったサーディンは、民衆の前では悲しむ様子を見せなかった。
脅威を排したものの、近隣諸国がいつ攻めてくるとも限らない上に南に居を構える魔族たちにも睨みを効かせなければならない。
加えて大きな発表もある。
英雄王サーディンと聖女イザベラが婚約するという話であった。
失意にくれていたサーディンを励まし、また民衆にも新たなる希望が必要ということでエリヤの死後からすぐにその取り決めはなされた。
噂によるとエリヤに生涯を捧げると述べた王に大して、周りの人間全員で説得したらしい。
サーディンはこれに降参して、それならば気心の知れたイザベラとということになったらしい。
パプリカにとっては白々しいものであった。
エリヤのために作られた墓には、連日弔いの涙が聞こえ、その声は一月以上も続いた。
彼女の墓には、高貴なる人間から兵士たち、市民、そして、普段は虐げられている側の人間までもが参列したとされる。
「彼女の奇跡の正体は」
彼女の呟きは誰の耳にも聞こえない。
パプリカは遠くにこの墓を眺めて、この街を去った。
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「ここがアルビーの村」
パプリカが一人で呟く。
素朴な花が咲き、民家には藁葺きのものから煉瓦造りのものまで統一感なくバラバラにある。
アルビーの遺体はターリクに荒らされて残っていないが、彼女の遺品は家族の元に返されたらしい。
そしてパプリカは僅かなアルビーからの情報だけで彼女の故郷の村を特定した。
こそこそと村を散策すると、恐らく、彼女の話に登場したであろう家がある。
村の中でも一際みすぼらしい家だった。
その家の周りを観察してみると、小さなお墓がある。
彼女はそれがアルビーの墓であるだろうと思った。祠には子供の手で作ったのか。意味のありげな花輪が幾重にも飾ってある。
「ごめんね。」
パプリカはつぶやいた。
一人パプリカがアルビーの墓に向かっていると声をかけるものいた。
田舎くさいまだ10にも満たない男の子である。
彼は色々な工夫をして勇者サーディンの真似をしているらしかった。
「姉ちゃん。俺の姉ちゃんの友達か?」
少年はパプリカに尋ねた。
「そうね。そんなところ。」
パプリカは答えた。
「せっかく来たみたいだが、姉ちゃんは、もう居ねえんだ。」
少年は親切にパプリカに伝えた。
「知ってる。」
「ねえ姉ちゃん名前は?」
「私の名前はね...」
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少年が家に帰ったのは夕方を過ぎてからである。
一通り、近所の仲間達と遊び終えて、疲れて帰ってきたのであった。
母親は早くに流行病で夫を亡くして、五人もの子供と年老いた両親を一人で支えていた。
アルビーが”奇跡”を使えたのは家族にとって願ってもないことだった。
心の優しい子だった。臆病なところもあったが、家庭の事情を省みて、危険な場所に派遣されていったのである。
今では子供は四人になってしまった。もうこの世界のどこにもアルビーはいないのだと考えると母は己を責めた。この村で一生を過ごせばそれでよかったのではないかと感じる。
少年が帰ってきたのは母がそんなふうにアルビーについて、思いをはせていたタイミングであった。
「ただいま!」
元気よく少年が帰ってくる。
「はやめに水浴びをしなさい。」
母親は姉が死んだというのに無邪気な息子が残酷にさえ思えたが、それを表には出さず優しく伝えた。
「今日、姉ちゃんの友達がきたのを知ってる?」
「知ってる?」
奥にいる子供たちがこだました。
母親は昼間は隣村に働きにでているため知る由もないことであった。
「あんたたち、しっかり対応したのかい?」
「した。」
「したよ。」
子供達は一斉にそう答えた。
「そうかい。アルビーに友達ね。手紙にはなんて書かれてあったかな?」
彼女は記憶の糸を手繰り寄せる。
「名前はラサーサって言ってたよ」
「言ってた。」
「言ってた。」
「ラサーサなんて友達、あの子にいたかしら。アルビーについて何か言ってたかい?」
母親は一番年上の少年に問いかけた。
「なんにも。私はアルビーの友達だよ、ってそれだけ。変な姉ちゃんだったな。」
「そうかい。」
母親はアルビーの残したものであれば一つでも多く手元に置いておきたいと考えていた。
「でもたしかお墓の前になんか置いてたよ。」
少年がいった。
母親はそれを聞くとアルビーのお墓に向かった。
そこには小包があった。それなりに重みがある。
恐る恐る中をみると、中身は全部金貨だった。
「これは一体。」
その問いは誰にも届くことなかった。
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パプリカは、次の目的地に向かうため、山脈を抜ける必要があった。
彼女が山道を行き、ある程度開けた場所にでるとそこは満点の星空があった。
少しだけ休憩をすると彼女はまた歩き出した。
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