第19話 グナーダにて case-19

パプリカは、手筈通りにイザベラが勇者一行から剥がされるのを見届けた後に、予め決めていたポイントにサーディンが到達するのを待っていた。



そしてその瞬間は来た。



彼女は、サーディンの頭を狙った。彼女の”魔法”の殺傷能力を考えると間違いなく一撃だろう。



感情は殺している。ただ標的が自身の狙う場所に入ってくるのを待ち、構えている。



そして、サーディンの行動が全ての条件を満たした時に小さく息を吐くと魔法を放った。




サーディンと会話をしていたエリヤは、ほんの寸劇にも満たない違和感をその奇跡のおかげで感じ取ったのである。



とっさに彼女はその身を勇者に被せた。



出来事は一瞬だった。彼女の胸をパプリカが放った弾丸が貫いた。



サーディンは一瞬何が起きたのか理解できない様子でいたが、自分の腕の中にいるエリヤの惨状を見て全てを理解した。



民衆はエリヤの様子をみて何がおきたのか分からない様子でいる。



「エリヤ、どうして庇った。」

サーディンは犯人のことなど目もくれずにエリヤに問いかける。追撃を許すまいと兵士たちはそれを取り囲むように陣取り、民衆は一度付近から退くように命令された。



「サーディン。あなたは強くなった。そして、これからも」

エリヤは血を吐く。



「エリヤ、お前を愛している。」

サーディンはエリヤを愛おしそうに撫でる。



「サーディン。私も幼少の時からお前を想っているのだ。」

エリヤの目から光が失われつつある。



「エリヤ、死ぬな。これからもそばにいてくれ。」

サーディンは彼女の力ない手を取り、懸命に伝えた。



「暖かい...いつでも...そばに...」

勇者の温もりを感じながら、エリヤはそういうと事切れた。わずか数分の出来事であった。


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パプリカは、任務を完了し、すぐに退却の準備にはいった。長居していいことなど一つもない。



そんな彼女は気配を感じ取った。



「パプリカ」

キンジャルである。



「傷はもういいの?」

パプリカは銃を元の杖の形に戻しながらキンジャルに問いかけた。



「後味が悪いわ。」

キンジャルは左手を庇いながらパプリカに返した。



「早死にするわよ。」

パプリカはキンジャルを諌める。



「これが国同士の陰謀ってやつ?つまらねえ。」

キンジャルは遠くで倒れるエリヤを眺めてつぶやいた。



「わざわざ凱旋のタイミングで。」

キンジャルは嘆く。



「詮索はやめたほうがいいわ。私たちは任務を果たしたに過ぎない。」

パプリカは少しだけ言い聞かせるようにいった。



「あんたの能力が弱いっていうのは嘘だわ。ターリクにしても、エリヤにしてもこれだけの格上を殺せる能力ってのはそうはない。」

キンジャルはパプリカを攻めるような口調で言った。



「でもどうしてサーディンを狙ったんだ?」



「エリヤを狙っていたら避けられる可能性があったからよ。」



「エリヤが勇者を庇うのも想定済みってわけか。」



「任務を遂行するなら、手段は選ばない。そうでしょう?」

パプリカは冷たい目をしている。



「やっぱりつまんないやつ。」

キンジャルは諦念した表情を見せる。



「ただ、今回の任務はひどく個人的なものに感じる。」



「それはどういう?」



「なんでもないわ。」

パプリカはそういった。



「それじゃあ。」

キンジャルはパプリカに応えた。



「キンジャル。最後までご苦労様。」

パプリカはキンジャルに温かみのある言葉をかける。



「なんだよ。気持ち悪い。」

彼女はそういうと建物の間に消えていった。



パプリカは自身の手の冷たさを感じた。雨がさらに激しくなった。遠くには新たな王に相応しくないほどに泣き叫ぶ男の姿が見える。



彼女は静かに街をでた。

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