第18話 グナーダにて case-18

砦では連日、追悼のための宴が催された。



砦に最初にいた兵士たちは、100名ほどしか残っていない。



しかしこの勝利は、すなわちこの半島における魔族の殲滅を意味していた。



勇者とエリヤ、イザベラは休息を取った後にすぐにコードバに向かっていった。




残された兵士たちは、犠牲になったものたちの墓を建てたり、祈りを捧げたり、時には馬鹿騒ぎをしている。




コードバは砦陥落からその翌々日には落ちた。

勇者サーディンは砦に赴く前に主力の殆どを片付けていたため、砦からサーディン、エリヤ、イザベラが駆けつけた頃にはほとんど勝利の趨勢は決していたのである。




彼らはその戦いにとどめを刺したのだけなのである。



グナーダでは連日そのニュースで持ちきりだった。いや近隣諸国を含めた半島の住民の全てが歓喜に舞った。



魔族の侵攻は近隣の諸国にとっても脅威であったし、何より新たな統治者がサーディンであることに大して皆肯定的であったのである。



勇者たちの凱旋は以前に決めた日取りから少しだけ延期されたが、しっかりと行われることになった。




魔族に侵される前に亡国の盟主がグナーダに建てた宮殿を目指して凱旋は行われる。



そこでこの半島の新たなる王が誕生するのである。



この英雄譚に皆が夢中になった。



ターリクの死体はエリヤの奇跡によって全焼したとされている。

そして、付近にあった服から、名もなき聖地院の少女も犠牲になったものと考えられる。



グナーダにある整地院では、マダム・シファを筆頭に戦いのために亡くなった仲間たちと兵士たちのために連日祈りが捧げられたのは言うまでもない。



街はさらに活気に溢れ、英雄王の誕生を皆が心待ちにしている。



そして凱旋の日が訪れた。


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パプリカは、その日までの間、街の外れにある洞窟に身を隠しており、毎日夜になると凱旋の行列が一番見易いところを探していた。



そしてある建物の高台にその場所を得たのである。

彼女はいつもと同じ朝食を食べるといつもと同じストレッチをしてから時間になるまで横になっている。



そして、街が騒めき勇者たちが登場するのを待った。



配置について、パプリカは銃身を構える。ターリクが筒といったのは、彼女の魔法専用の武器のことである。珍しい武器だが、探せばある。何度もしてきた動きだ。



その日は案の定、太陽が照り、豊かな内湾を持つ関係からカラッとした気持ちの良い風が吹いていた。



パプリカは勇者たちの行列がグナーダの街にゆったりと凱旋していくのを遠くの位置から見守っている。



彼らは、住民一人一人からおもいおもいの祝福を受け、はにかんでいる。



この日がこの半島にとって最良の日であることを疑うものはどこにもいないように見受けられた。



サーディンたちは、そのまま街の中央を進むと宮殿に到着する。



パプリカは待った。宮殿に向かう道は遠すぎて彼女の射程の範囲外だった。



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サーディンは臨時に司教を務める聖職者をたてて、王になることを宣言した。



また近々大きな発表をすることも。



その宣言に住民、いや本日の儀式によって国民となった彼らは余程心酔したのであろう。中には気絶するものまででる始末だった。



エリヤは心から王の誕生を祝った。

「あなたの伝説の全てを胸に刻んでおります。」



これまた臨時に拵えられた玉座に腰掛けたサーディンに、エリヤは拝謁の姿勢を取り祝辞の言葉とのべた。

その姿に見るもの全てが魅了されるほど美しい光景だったのである。



午後からは雨になった。雨の中を王となったサーディンは凱旋する。



「サーディン。本当におめでとう。」

エリヤは皆に手を振りつつもサーディンに伝える。



「全ては皆のおかげさ。」

サーディンは考え深げに話す。



凱旋の途中で兵士たちが、サーディンの行手を妨げた。



「勇者様、王よ。凱旋の喜びのあまり民衆の一部が乱闘騒ぎになってしまっております。」

兵士は申し訳なさそうに自身の王に告げる。



「そうか。それならば、僕が行って鎮めようか?」

サーディンは兵士達の苦労を労うように言った。



「それには及びませぬ。しかし、イザベラ様」

兵士は凱旋を邪魔すまいと王の申し出を断る。



「なんでしょう?」

イザベラは兵士に返す。



「申し訳ありませんが、乱闘に巻き込まれた市民の中に怪我を負ったものがおります。

ご助力いただけないでしょうか?」

兵士たちは本当に申し訳なさそうにイザベラに願うとあっさりと了承された。



「わかりました。それに少し説教をすることにしましょう。」

イザベラとそのお付きの者たちは兵士たちに先導されて一団を離れていく。



エリヤは彼女に声をかけた。

「すまない。イザベラ、祝いの時に。」



勇者も続く。

「ことが済んだら存分に3人で語り合おう」



イザベラは二人の言葉をしっかりと聞いてから言った。

「ええ、楽しみにしてますわ。エリヤも。

ではさようなら。」



そう伝えると彼女は振り返ることもなく兵士に連れていかれた。



パプリカは、準備に入っている。



サーディンは、エリヤと他愛のない話をしている。故郷の婆さんが言っていた土地はこのグナーダから近くにあるだの。



故郷の友人は今頃驚いているに違いないだの。とにかく油断しきっていた。

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