第15話 グナーダにて case-15
防壁が爆散すると、ターリクはその機に乗じて姿を消した。
「まさか、将自らが囮になったということか。」
エリヤは目の前の光景を嘆く。
「西側から敵がやってきます。」
そう。パプリカが先ほどみたものは、崖の下に蠢く敵の姿であった。
彼らは西の崖を攻撃にではなく、身を隠す場所として使用していた。
南側の守備が磐石なことからも、東側以外の襲撃は陽動と見なして、東側に戦力を投入していた結果がこれである。
「この戦いは白兵戦に突入する。」
エリヤが宣言すると騎馬に乗った兵士たちは大きく掛け声を上げた。
パプリカとキンジャルは後方に移動する。西側に隠れていた魔族たちは、この南側の砦に集結しつつある。
砦側もまた、兵士たちが集結している。。
エリヤは兵士たちに告げる。
「夜明けまで持ち堪えろ。そうすれば私がどうにかする。」
ほどなくして両軍は混戦状態に入った。以前として東側の防壁への攻撃も続けられている。
この南の防壁をなんとしても守り通す必要があった。
魔族は、穴の空いた防壁を食い破るように攻撃をしかけてくる。そして、兵士側は穴から入ってきた魔族を端から相手取っている。
「戦え。これが最後の修羅場だ。」
エリヤは味方を鼓舞し続ける。
西側に隠れていた魔族の数は200を少し超えるほどだろう。対して、こちらは150ほどの数。砦の上でも戦いが繰り広げられている今、ここに避ける人員はそれが限界の数だった。
エリヤの近習を中心に兵士たちは徹底的に戦ったが、一人また一人と魔族のするどい攻撃で犠牲になっている。エリヤは、大技とターリクとの戦闘で奇跡を使うことはできなくなっている。
果敢に槍を振って、敵を攻撃しているが、全体をひっくり返すほどの迫力は失われている。
兵士たちは、エリヤを取り囲み戦った。幸にして、魔法を駆使する魔族は大して残っていないようで、ただひたすらに混戦となった。
数で劣る兵士たちは、時間がたつに連れて、数を減らしている。
キンジャルはパプリカの耳元で囁いた。
「この辺りが潮時じゃない?」
パプリカは、この状況に大してどのように対応するのが任務達成に大して最も効率が良いかを考えている。
伝令が行き交う。東側に手負いのターリクが現れたらしい。
「まずいな」
エリヤの顔にも焦りがみえるがその場からは身動きがとれない。
兵士の一部が魔族を倒した瞬間を見逃さず、ほんの一瞬だけ奇跡を使用して、道を作ると副官以下10名ほどに命令した。
「今までの尽力に感謝する。ターリクを頼む。」
彼女は手短に部下たちに伝えると彼らが東側に向かう道を死守した。
副官たちはエリヤに一度だけ大きく敬礼すると素早く東側に向かっていった。
キンジャルはパプリカに尋ねる。
「あんたの魔法でターリクを討てないの?」
「今使えば目立つ。この後の任務にも差し支えるわ。」
「本当に使えない能力ね。」
「あなたこそ情が湧いたの?」
「そんなはずないでしょ。」
二人の応酬を他所にエリヤ以下は懸命に戦っている。
朝まではもう数時間の辛抱である。
「しかしエリヤには策があるのだろうか。」
パプリカは彼女の発言を聞き逃さなかった。
「苦し紛れに適当いってるだけかもよ。」
キンジャルは落ち着きを取り戻している。
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ターリクは、東側の魔族を指揮していた。
先程のエリヤの一撃をまともに受けて、大きく体力を消耗している。変身の魔法は今は使えない。
しかしながら、エリヤを倒す最大のチャンスがここで巡ってきたと思った。
エリヤの部下たちが自分を急襲してきた。それほどまでに追い詰められているということ。
ターリクはエリヤに使える部下たちを一人ずつ慎重に倒す。
「しかし、こいつら」
エリヤの部下たちは、ターリクに大して時間を稼ぐ一方であった。手負いのターリクを見れば兵士であれば、討ち取りたいと考えるのが当然であるだろうとするのにも関わらずである。
ターリクは果敢に突っ込んできた兵士の首根っこを掴んで問いただしてみた。
「なにか企んでやがるのか?」
兵士は何も応えず、ターリクに向けて手に持っていた剣を投げつけてきた。
すかさずターリクはそいつを地面に叩きつけた。
「エリヤ様万歳。」
彼はそういうと事切れた。
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エリヤは待っていた。
彼の登場を、そしてこの戦いの終幕を。
そして、その瞬間がついにやってきたのである。
その男は予定よりも早くその場に現れた。本来は明け方に魔族を挟撃する約束だったが、持ち前の直感が働き、奇跡をフルに活用して、一昼夜馬を潰してでも駆けてきたのである。
「やはり、早くきて正解だったようだ。」
勇者サーディンは襲われている砦の様子を視界に収めると部下たちに大してこう伝えた。
「我々は今から最後の戦いに挑む。魔族最後の将ターリクを討ち取ったものには、未来永劫の繁栄をこの勇者サーディンの名において約束するぞ。」
彼がそう掛け声をかけると彼に付き従って、強行軍を行った兵士たちには力がみなぎってきた。
そのまま彼らは眼下の砦に向かって突進していった。
そう。勇者の”奇跡”とは、味方を鼓舞するという能力であった。
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